第6話
ダンジョンの案内が終わった。
道中では十数人の獣人を見掛けた。彼等がフィオラの言っていた孤児らしい。
フィオラが俺とディーを紹介しようとしてくれたが、近付いたら不安そうな顔を浮かべて泣き出してしまいそうな子供もいたので断念。世話係のメルセデスが戻って来てから紹介は行うことにした。
そして現在、俺たち三人はダンジョンコアのある部屋に戻って来ていた。
フィオラが覗き込むように訊ねてくる。
「何をしておるのだ?主殿」
「ダンジョンマスターが使える力を改めて確認しておこうかと思ってね」
何だかんだ
改めて確認の時間だ。
まずは
これはその名の通り、Dpを消費して様々な商品と交換することができるようだ。
試しに
……というかこれって。
「日本の商品じゃんか」
つい最近に見覚えのあるものばかりだった。
何だかAmazonやらのショッピングサイトを見ている気分になる。てっきり異世界の物と交換できるのだと思い込んでいた。
「とりあえず取り寄せてみるか」
次の瞬間。
どこからともなく現れた赤い包装紙のチョコレートが俺の手に収まっていた。
おお、できた。
ステータスを見るとチョコレート分のDpが減っている。なるほどこんな感じか。
「なんだその怪しげな茶色い塊は」
「これはチョコレートっていう食べ物だよ」
「チョコ、レート?聞いたことがないな。何処の地方の食べ物なんだ?」
名前を教えると、フィオラは首を傾げた。
この世界にチョコレートはないらしい。製菓技術があまり発展していないのか、そもそもフィオラが知らないだけなのか。
「地方というか俺が元々住んでいた場所のものだよ。世界が違うだろうから聞いたことがないのは当然しれないね」
「なるほど、異世界の品か……」
そう言ってフィオラは興味半分、恐れ半分といった表情を浮かべていた。
俺はチョコレートを割って、フィオラに差し出す。
「食べてみる?」
「う、ううむ。悠久のときを生きてきたとはいえ、異世界の食べ物を口にしたことはないからのう……」
不安になるのは当然だ。
色見もあまり自然界にあるものじゃない。
「ディーはどうする?」
そう聞くと、ディーは俺の手からチョコレートをひょいっと奪い去る。
「くれ。マスターさんが召喚した食べ物に外れはねえだろ」
(……どういうこと?)
そんなディーを見たフィオラが張り合うようにして声を上げた。
「むぐぐ、主殿。儂にも寄越してくれ」
「いいけど、無理に食べなくても」
「否、吸血鬼には冒険心が必要じゃ。儂はチョコレートやらを食ってみせるぞ」
そこまで意気込まなくても。
ちょっと笑いそうになるのを我慢していると、三人の手にチョコレートが渡った。
「……では頂くとしようかの」
フィオラの言葉とともに、三人はチョコレートを食べる。
馴染みのある硬い触感を感じつつも、上手に噛んで適量のチョコレートを口内に運んだ。舌の上で転がすと、じんわりと甘さが広がっていく。
(あー……やっぱりチョコレートは美味いなー……。生き返るようだ)
久し振りに感じるチョコを味わっていると、横からフィオラの声音が耳に届いた。
「な、なんじゃこりぇ……」
フィオラはとろけるように言った。ディーも概ね似たような感じで、二人はチョコレート片手に詰め寄ってきた。
「あ、主殿。このチョコレートなるもの美味過ぎるではないか!?」
「マスターさん。これ美味過ぎるだろっ!?」
二人は興奮気味に言った。
「今まで食べた甘味とは比べ物にならん!」
「今まで食ったどんな獲物よりもうめえっ!」
「喜んでくれたみたいで嬉しいよ」
そう言うとフィオラが意を決した顔で声をあげる。
「主殿!」
「ん、ああ」
もう一枚欲しいのかな。
そう思ってウィンドウを操作していると、フィオラが何かを差し出してきた。
「儂のコレクションの緋剣レーヴァテインをやる。だからもう一個チョコレートをくれい!欠片でも構わんから!」
フィオラの持っていたものは剣だった。
刀身は燃えるような緋色で、あまり剣を知らない俺でも惹きつけられる。
『【個体名:フィオラ】から【
視界に表示が現れた。
なんだこのヤバそうな代物は。
「い、いらないから。チョコレートくらい幾らでもあげるよ」
「おおっ。流石は主殿!」
俺の言葉にフィオラは歓声をあげた。
「マスターさん。俺にもくれ!」
「もちろん」
それからディーにも渡して、三人で二枚目のチョコレートを分け合った。
食べ終わるとフィオラが吐息を漏らした。
「ほう、幸せじゃあ」
「それはよかった」
「……しかし。これほどの品、一人で食べてしまうのは罪悪感が湧くほどだ」
そう言ってフィオラが悩ましげな表情をする。
「その、主殿、できれば孤児にも食べさせてやりたいのだが」
「いいよ。二十枚くらい用意すればいいかな」
そう答えると、フィオラは一転して驚愕の表情を浮かべた。ころころ忙しい。
「二十枚!?そ、そんなにも多くのチョコレートを!?だ、ダメじゃ。あやつらには数枚でいいじゃろ。あとの十五枚は儂にくれ」
ダメに決まってるだろ。
◇◇
フィオラは孤児を連れてくると行ってしまった。
部屋には俺とディーの二人が取り残された。特に話すこともないので、俺は
食材以外にも売っているものは多かった。
調理器具やカセットコンロなんかもある。今はDpに余裕があるので購入を検討してみてもいいかも。快適な暮らしを送るには衣食住は欠かせない。現状はあまり良い環境とは言えないからな。後でちゃんと考えていかないと。
そんなふうにしながら待っていると、ディーが眉間に皺を寄せて聞いてきた。
「マスターさん、獣人の知り合いはいるか?」
「居ないけど……急にどうしたの?」
「分かっているだろうが、見張られてるぞ」
「え」
全然気が付かなかった。
言われても何処に居るか分からない。周囲を見渡していると、ディーが威嚇するように柱の影を睨んだ。
「おい、そこにいるテメエだ。誰だか知らねえが殺気がダダ漏れてんだよ。コソコソしてないで出てきたらどうだ」
「――――ッ!!」
すると目にも止まらぬ速さで何かが駆けてくる。
辛うじて子共であることは分かった。
数は二人。どちらも鋭利な刃物?を所持していて、まっすぐ俺の方に向かってきた。
「ぐうっ!」
――――しかし、襲撃者二名は金縛りにあったかのように止まる。
恐らくディーが何かやったのだろう。
「なによこれっ!?」
「だから止めておこうって言ったのにい!」
捕まったのは獣人の男女二人組だった。
強気そうな狼耳の少女と、気弱そうな犬耳の少年。無理やり身体を動かそうとしているが、もがけばもがくほど縛られていく。
「おい、あんま動くな。手足が千切れるぞ」
ディーがそう忠告すると、狼耳の少女は怒りを露にして叫んだ。
「侵入者のくせにっ。我が物顔でダンジョンを歩いてるんじゃないわよ!」
「うるせえな……マスターさんの前じゃなかったら殺してたぞ」
ディーは何やら物騒なことを呟いてから、こちらに視線を向けてくる。
「それで、何なんだコイツら」
「多分フィオラが言っていた孤児じゃないかな。世話をしているっていう」
そう言うと、ディーは得心が言ったように頷いた。
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