第5話 子の命の生き先は
ライン・シクサルは、自身に発現した能力を分析した。その結果、『治癒者』には以下の能力があることが分かった。
・治癒能力…対象を回復させる能力。効果は擦り傷程度を即座に治せる程度。
・緩和能力…怪我や病気などの進みを遅くできる能力。完全には治せず、壊死→凍傷 程度までなら可能。
決して強くは無いものの、彼は満足していた。
ーーー初めて得た能力で、自身だけでなく別の命までも助けられたのだからーーー
しばらくすると、魔鹿が目を覚まして、起き上がった。
「あ、おはよう。体調は大丈夫?」
知性があまりない魔物には言葉は通じないハズなのだが、魔鹿は自身の身体を見やった後に、何か言いたげな顔をした後に洞窟から出ていった。
「あ、行っちゃった…」
まあいいだろう。少し寂しいが、元気になったらそれでいい。
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しかし、10分ほど後に、魔鹿が戻って来た。さっきの個体だろう。その口には、2つの植物の実が咥えられていた。
「あ、ご飯取りに行っていたんだね。おかえり」
そう言うと、魔鹿はそのうちの一つをこちらに転がし、もう一つの実を貪り始めた。
「……?落としたよ?」
そう言い、実を返そうとすると、魔鹿は実を貪るのを止め、ラインの手の甲に頭を押し付け、手に握られた実をぐいぐい押し戻してくる。
「……!これ、くれるの?」
魔鹿は答えない。しかし、手の甲に頭を押し付けるのを止め、食べかけの実を再度貪り始めた。
「………ありがと」
そう言い、実を齧る。甘かった。まるで死にかけた自分へのご褒美のように甘く感じた。
その後は、少し寝ることにした。暖かいからだろうか。心身共に疲れたからだろうか。猛烈な眠気が襲って来た。
魔鹿もラインに寄り添い、丸まって寝始めた。
ーー少年は、永遠の眠りを拒み、明日への眠りを選んだーー
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目を覚ますと、今までの光源としていた火の魔石が効力を失い、ただの石の欠片となっていたが、明るかった。洞窟の入り口から光が差し込んできた。朝だ。
出発しようと鍋などの荷物をまとめていると、魔鹿が入り口から出てきた。そしてこちらを見つめた後、走り去っていく。見つめてきた目は自分と同じ黒の瞳。だが自分と違い、真っ直ぐな瞳だった。
(そうだな。こんなところで立ち止まっていたら、父さんと四天王のみんなに顔向けできないよな)
しかし前に進む為には次の目的地を決めなきゃいけない。そこでキーラが持たせてくれていた地図を広げる。絵心は置いといて、次の目的地を探し、決める。
〜魔と人の村 アスタ村〜
アスタ村。魔族と人間が共存している村で、魔界にある唯一の人間の村でもある。ラインもかつて父と行ったことがある。
大きくは無くとも、魔族と人間が仲良く共存している、正に父の夢を体現した村だった。
「みんな……無事だといいんだけど」
目的地は定めた。道も分かった。食料は道中確保すればいいだろう。後は一歩踏み出す勇気だけだ。
ーーーお前は自分の命を、お前の生きたい方向へ使えーーー
「ありがと、父さん」
ここにはいない父に感謝を述べて、彼は一歩を踏み出す。
ーーー彼の命の生き先は、「まだ見えぬ未来」へと定められた。ーーー
「よし、行くか!!」
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ライン・シクサル
年齢…16歳
種族…魔族
主能力…???????
能力…回復能力、緩和能力
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魔界との間に、広大な砂漠であるヒュージ砂漠を挟んだ大国、「ルクサス王国」。
この国の王は、誰よりも国民のことを考え、優先する「賢王」だった。
しかし、此度の人魔大戦には「無駄な争いには参加しない」という国民の意見に王が同調した事で参加せず、他の人間国家から「臆病者」と非難されている。
そんな争いに無縁なルクサス王国に、
「力の権化」な存在がやって来た。
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青年は、膝をつき、王に挨拶する。
そこに敬意は一切ない。
「これはどうも、ルクサス王国国王様」
青年の見た目は、綺麗な短髪に、ひと目でわかる潤沢な装備。特に目を引くのが腰の剣。鍔に天使のマークが彫られている。
「…何じゃ、人魔大戦は終わったのであろう?どうしてお主は仲間も連れずにこの国にいるのじゃ」
王は答える。ーーーその声は一国の王にしては高くーーしかし厳格な雰囲気を纏っていた。
「いやぁ、ある噂を耳にしましてね。ーーー
この国が魔族を受け入れているというねーー」
場に緊張感が走る。一触即発の空気に包まれた城内は、とある1人の老人の声によって緩和される。
「いやすまん、それはワシが王に無理を言ってしてもらっただけじゃ。責めるならワシを責めてくれ」
「ーーーいや、いい。この国で保護している魔族に対しては危害は加えないようにと俺が召喚した国」に言っときます」
青年は答える。その声は淡々としており、あたかも仕事のように一民族の処遇を伝えている。
「ーーーでは、此度は何をしに来た?それを言ってもらわんと帰せんぞ」
王が言う。青年は淡々と答える。
「ああ、何ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー魔王の遺した一粒種こどもを成敗するだけですよ。また魔界に行くから、食糧を確保しようと思って」
「ーーー。ーーーーーー。良かろう、許可する。しかしお主が我が国民に手を出した暁には、主は我が国の敵じゃ」
「よく言うぜーーーーーーーーー自分の能力が通用しないことが分かってるクセによ」
遂に青年は飾りだけの敬語をやめ、『威圧』する。すると、内政官や大臣などの非戦闘員だけでなく、騎士達までもが倒れていき、あとは王と先程2人を仲裁した老人のみとなる。
「そう苛立つな。短気な男は女にモテんぞ?」
「分かってるって」
青年は去っていく。背後は一切警戒していない。否、する必要がない。何故なら彼は、この世界で最強の男なのだから。
(「爺、ヤツは殺せんだろう?」)
王が小声で隣の老人に囁く
(「はい、無理でしょうね。でも結構いいところまではいけると思いますよ」)
(「ーーーーーーーーーいや、いい。」)
「ーーーーーーーーー達者でな、《勇者》」
王は言う。それは明らかに厳格な声が混じっていた。
「へーい、ルクサス王国国王こと
リダ・サーヴィアさん」
青年ーー否、《勇者》は無感情な声で答える。
彼こそが、今回の第13回人魔大戦のリーダーかつ、世界最強の〈召喚者〉ーーーーーーーー
《第15代勇者》「ハルト・タナカ」である。
「早く出て来てくれよ、雑魚共。」
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