第4話 「死にたくない」








       「死にたくない」







《ーーーーーー「はい」の意思と確認。

 ーーー能力:治癒者ヒーラーの技、

     治癒ヒールを使用しました。》







【貴方、"変わって"いますねーーーーーー】










 目を覚ます。どうやら意識を失っていたようだ。


ーーまだ生きてるーー


 その事実を意外に思っていると、腕に痛みを覚える。


ーー腕が生きている。痛みを感じる。まだ動かせるーー


 ふと腕を見ると、相変わらず酷い色だが、その色は紫だ。黒ーー壊死はしていなかった。まだ壊死していない。治せる。助かる。生き残れるーーーーーー


(急げ…急げ!!)


 急いでバッグから鍋を取り出し、青の魔石ーー水属性のものを入れる。すると、たちまち水が溢れ、鍋いっぱいになった。

 そして鍋を火の魔石の上に置き、水を沸騰させる。

そして十分に沸騰した湯にーーー腕を突っ込んだ。


「…い"っ"…う"ア"ア"ッ!!」


 腕に物凄い痛みが走る。しかし手は絶対に抜かない。

ーーーこれで死なずに済む。そう思えば、この痛みはむしろ心地よいとさえ思えた。ーーー



*********************



 処置が終わった。あとはバッグにあった包帯を取り出して腕に巻いて終わらせる。腕の色は肌色に戻っており、命の危機を去ったことを意味していた。

 外を見ると、まだ夜だった。少し寝れそうだ。


 そこに、何かが飛び込んできた。


「…………ッ?!」


 敵か?魔物か?そう緊張していると、それが正体を明かす。

 それは、魔鹿まじかだった。魔界の絶滅危惧種の魔物だ。特にオスは活きがいいらしい。

 しかし、その魔鹿は、洞窟に入るなり、力無く倒れた。


「どうしたの?!大丈夫?!」


 近寄って声をかけても一切反応がない。ただ苦しそうに息を荒げているだけだ。

 そしてラインは、その原因を発見した。

ーー身体の至る所に打撲痕がある。魔族は魔鹿を攻撃することはしないので、恐らく人間軍の人間にやられたのだろう。


「酷い……何とかしてあげたいけど……」


 しかし、治す方法が分からず、途方に暮れていると、先程、頭に聞こえた声を思い出した。

(《能力:治癒者を解禁しました》)

あれだけ悪化していた腕が凍傷状態まで戻ったのだ。いけるかもしれない、とラインは思う。


「………治せるかも……しれない」


 しかし発動方法が分からない。しかし魔鹿の息は深く、辛そうになるばかりだ。迷う暇なんてない。


「ええい、ままよ!『治癒ヒール!』」


 勢いで念じた。名前は何となく付けた。

 すると、魔鹿の打撲痕に、淡い光が集まり、傷に塗り込むようにして入っていく。そして光が収まると、傷のあったところは綺麗な肌になっていた。

 治せるようだ。そのまま全ての打撲痕に能力を施し、傷を治癒する。

 そして治癒が終わり、魔鹿を見ると、呼吸が落ち着いている。窮地は脱したようだ。何故か腰から力が抜け、後ろにへたり込む。


「よ、よかった…」


(治った!治せた!!これが僕の能力…なのかな?)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ーーー生まれてから16年、能力スキルどころか主能力メインスキルすら無能力だったラインに発現したのは、「死にたくない」という強い感情から生まれた回復能力だった。

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