第46話 一度だけの反抗期かぁ

「で、どうするの?」


瑠衣は、昼食のパンを齧りながらそう言った。


メロンパンだ。


メロンパンが好きなラノベキャラが〜くぎゅうが〜などと瑠衣は言っているが、俺には何のことやら……。


そんなオタサーの姫(男)をスルーして、俺は呼びかける。


「楽器できる奴手ェ上げろー」


全員の手が上がる。


「俺はギター弾ける。エレキもアコギも」


「僕はドラムできるよ」


「私はピアノなら……」


「僕はバイオリンならできるが」


「私?たまにカラオケ行くくらい……?」


なるほど。


「俺はギターボーカル、瑠衣はドラム、栞はキーボード、千佳はベース、亜里沙もボーカル」


「弾いたことがないのだが」


「今覚えろ。あ、ジュース飲むか?」


「「「「いただきまーす」」」」


俺はこっそりと、四人の飲むジュースに音楽が上手くなるポーションを混入させた。


スキルポーションというやつだな。




音楽室に乗り込み、楽器を調達した。


「うわあああ!何故か触ったこともないベースが弾けるようになっているううう?!!!君、何をしたんだあああ?!!!」


「それは、素晴らしいことだよ」


君は完璧で究極のゲッターなんだよと適当に誤魔化して。


『さあ、アンジェリカ。よく聞け、これが、魂を込めた音楽だ』


俺は思い切り、ギターを弾いてやった。


おおう、ステータスが馬鹿高いから、音楽の技量も凄まじいな。


今の俺ならジミヘンとタメ張れるぜぇ。


技量がジミヘンなら、後はソウルの問題だな。


そして俺は、想いを込めるのが大得意だ。


何故か?


毎年恒例の薬研家家族旅行サバイバルの際に、言葉の通じない外国で数ヶ月放置されるんだけど、そんな時に外国人とコミュニケーションを取るには、とにかく魂を込めるしかない。


こちらの必死さを汲み取ってもらう為に、ありとあらゆることをやった。


笑われて侮辱されても毅然としていた、殴られても笑顔を作った、武器を向けられても誠実さを示した。


言葉に魂を乗せれば、例え言葉そのものは通じなくても想いは伝わるのだ。


侮辱して殴ってきた奴は後で闇討ちして川に捨てたが、それをやるにもまずは信用を得て、意思疎通を図れるようになることが大事。


反射的に叩き潰すのではなく、上手く潰せ、というのが親からの教えなのだろう。


そうやって、俺が全力で魂を込めた歌は……。


『凄い……!』


と評価された。


『前半の部分は、あえて緩やかに抑えることで後半の布石にしているのね?事実、中盤のこの部分の方が大きく盛り上がっていて……!後半の音の伸びも素晴らしかったわ!あえて奥行きを出すことによって、遠のいて行くような感覚が!気持ちが揺さぶられる、力ある音楽だったわ!』


おお、なんだ、分かってるじゃねーか。


『伝わったろ、想い。分かってるじゃねえか』


『でも、私は駄目なの。余計なことを、楽譜に書かれていないことをやると、怒られるから……』


『親が言うのか?』


『親だけじゃないわ、マネージャーも、周りの人も、皆……』


ふむふむ。


よく理解した。


『つまり、お前は根性なしだと?』


『それはっ……!そう、だけど……、でも親に逆らったら』


『まあ、嫌なら良いんじゃないか?で、やりたいならやれば良い』


個人の自由じゃん?


『お前が親に逆らってでも自分の音楽をやりたいなら手を貸すし、手を出すなってんなら何もやらん。好きにしろよ』


『……何故、そこまで初対面の私に?』


何故か?


『そんなの、面白いからに決まってんだろ?』


『お、面白い?』


『ああ。もし、親も周りも、何もかもをぶっちぎってでも自分の音楽をやりたいと考えている真の音楽家だったら、是非そんな奴には手を貸したい。本当の歌姫の誕生に立ち会えるなら、それほど光栄なことは滅多にないからな』


『……もし、私がこのままでいいと言えば?』


『別にどうとも?ただ、つまらん奴だなと思うだけだ』


実際そうでしょ?


面白くなりそうだから煽って手出ししたんだ。


このまま何も起きないで終わるなら、手を引くよそりゃ。


『人の人生を何だと思っているの?』


『当時者からすりゃ悲劇でも、こうして側から眺めているとまさに喜劇だな』


『チャップリンの名言をそんな風に悪意ある解釈をする人は初めてだわ……』


『だが事実だ。それに、俺はただ単に、戦う女は美しいぞとアドバイスをしただけ。選ぶのはお前だよ』


さて、どうするかね?


『……分かった、やるわ。私は、私の音楽を探してみせる』


『ほう、良いねえ!頑張ってくれよ。じゃあ俺はこれで失礼する』


『何が失礼するよ!あなたが私を唆したんでしょ?!最後まで面倒見てよね!!!』


おっ、そうだな。


じゃあ、聞いてみるか。


『何が歌いたいんだ?』


『さっきも言ったけれど……、ロックよ』


おお、良いねえ。


『うんざりなのよ、いつでも讃美歌や聖歌ばかり!私本当は、もっとカッコいい歌を歌いたかったの!』


『良いね、最高だ』


『じ、実はね、歌詞はもうあるの。趣味で昔書いてたやつが……。その、だから!一緒に作曲、してくれない?』


『やらいでか』


こうして、即興でバンドを組むことになった。


一度だけ、歌姫様の反抗期ってことだ。

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