第45話 なんでこんなに女の子が集まってくるんだろう?あ、幸運ステータス?!

「今起きた」


朝起きたら、9:30……。


ばっちり遅刻だな!


あーだっる。


まあ、一応高校は出ときたいし、登校するっかぁー。




「おっすー!セーフか?!」


「セーフじゃありませんっ!遅刻ですっ!」


おお、担任の美幸ちゃんがお怒りだぜー?


「おはよう美幸、愛してるよ」


「んにゃー?!!!」


抱きしめて額にキスをする。


二回目なのにガチでキョドッてんのマジおもろいわー。


いやーかわいい。


ふと、隣を見ると……、んん?


「おい美幸!可愛い子がもう一人いるぞ!どう言うことだ?」


「転校生のアンジェリカ・ナザレンコさんですよ……。昨日から話しておいたじゃないですか……」


んー。


「いや俺、昨日は渋谷で居酒屋巡りを……げふんげふん」


「はい?!ちょっと!またお酒飲んだんですか?!!薬研君!!!」


げふんげふん。


「で、えーと、アンジェリカさん?」


『ええと、なんて言っているのかしら……?』


お、これは……。


『これで通じるか?多分、アストルツカ語だろ?』


東欧の共産国、アストルツカの言葉だな。


アストルツカには、中学生の頃に二ヶ月ほどいたから、言葉は覚えている。


なので、相手に合わせてアストルツカ語で話しかけてやる。すると……。


『あ……、ええ!良かったわ、言葉が通じる人がいて……』


と返してくる。


んー……?


『え?何々?亡命でもしてきたのか?こんな時期に話の通じない奴しかいない日本の学校に転校とか、訳ありだろ?』


確か、アストルツカでは今、戦争が始まったんだとか?


あの辺は昔から政情が不安定だからなあ。


それの煽りを受けた感じだろうかね?


『……ええ、そうよ。でも、そうやってデリカシーのないことを聞くのは良くないわ』


ありゃ、怒られちった。


『こりゃ申し訳ない。俺は海外暮らしが長くてな、どうしても遠慮や謙遜ができんのよ』


『そう。じゃあこれから気をつけて』


いやぁ、あんたも、日本人と比べればはっきりものを言う女だと思うがねえ。


っと……、にしても。


この声、どこかで聞いたような……?


アストルツカで聞いたような……、ああ!


『あんた、アンジェリカって言ったか?』


『ええ』


『もしかして、《アストルツカの聖女》さん?』


『……この国にも、その呼び名を知る人がいるなんてね』


あー、やっぱりか。


日本ではあまり知る人はいないが、アストルツカでは大人気の若き歌姫……。


銀髪碧眼に白い肌、まるでピグマリオンが彫り込んだかのような美しくもどこか作り物を思わせる美貌。


スリムでありながらも、女性にしては高身長な170cmの肉体。


そして何より、『アクアマリンで造られたベルのような』と形容される、人間離れした美声が特徴の歌手。


歌姫が国外逃亡たぁ世も末だなおい。


『OK、分かった。とりあえず、俺はリク・ヤゲンだ』


『リック・レーゲン?』


『外国の人は俺をそう呼ぶな。日本語の発音とは違うんだが……、まあそれでも通じるからそれで良いさ』


『ええ、分かったわ。リック、良ければ私にこの学校のことを教えてもらえる?担任の先生は少し英語が通じるみたいだけれど、他の子達とは全然話が通じないの』


んー?


そうなのか?


英語ならあいつらもできるはずだぞ?


「千佳」


「アストルツカ語は片言でしか話せないぞ」


「英語もいけるってさ」


「む、そうか」


後は……。


「瑠衣」


「英語?」


「できるよな?」


「うん、発音下手だけど」


それと。


「栞」


「アストルツカ語はほんの少ししか話せませんが……」


「英語は?」


「喋れます」


因みに。


「亜里沙は?」


「無理に決まってんでしょ、誰もがあんたらみたいな変人だと思わないでよね」


おー、言うねえ。


そんな訳で。


『あそこの三人は英語なら通じるぞ』


『そうなのね、助かるわ。可愛い女の子ばかりだなんて、あなたもやるわね?』


揶揄うように言うアンジェリカだが……。


『いや、あいつは男だぞ』


『………………は????』


うんまあそうね、そうなるね。




さて。


『じゃあ早速、学校の案内でもするか?』


俺は、転校生にしてアストルツカの歌姫、アンジェリカにそう持ちかけた。


『良いのかしら、これから授業が……』


『おいおい、日本語が分からないのに、日本語で進行する授業を受けて何になるんだ?』


『それは……、そうだけど』


うーん、意味分からんなあ。


『なあ、マジな話、何で日本に来たんだ?』


亡命するんなら別の国でも良いだろうに。


『日本には親戚がいるの』


あー、なるほど?


その縁で……、ってことか。


『まあ、いいんじゃないかね。アストルツカでヘタクソな歌を歌うより、日本でダラダラ生きた方がマシなんじゃない?』


と、俺は善意のアドバイス。


いやあ、この女、歌姫だの聖女だの言っておきながら、歌がヘタクソだからなあ。


『……何ですって?』


お?


『いや、ヘタクソってのは言い過ぎだな、すまん。歌そのものは上手いんだけど中身が空っぽでつまらんと言うべきだな』


『ッ!このっ!』


お、ビンタ。


良いねえ、気の強い女も可愛いよ。


俺は首を動かして避ける。


『当たりなさいよっ!』


おお!女の癖にストレートパンチとは!


感動的だな!


手のひらで拳をキャッチ。


『あんたに、あんたに何が!私の何が分かるのよッ!!!!』


マジギレじゃん怖。


周囲の空気もヒエッヒエだわー。


『おいおい、周りを見ろよ。日本では、場の雰囲気を乱す奴は嫌われるらしいぜ?』


『あっ……』


『まあ、お前の歌がつまんないのは変わらんけどな!』


『だからっ!あんたに何が分かるのッ?!』


うーん、煽り過ぎたかな?


俺、別にこの子のことが嫌いな訳じゃないんだけどさ。


『落ち着けよ、怒る気力があるなら大丈夫だ』


『分かった風な口を!』


俺は、アンジェリカを壁に押しつけて黙らせる。


所謂、壁ドンの形になるな……。


『俺だって多少は嗜んでいるんでな、だから言ってるんだ』


何せ昔、ウィーンでベートーヴェンの亡霊を名乗る謎の半透明ジジイと交響曲十番を作る遊びをしていたからな。俺は詳しいんだ。


『何を……ッ!』


『お前さ、音楽を楽しんでないだろ?』


『ッ……?!それ、は……』


お、図星っぽいな。


『確かに、歌の技術そのものはすげぇよ。大人の世界的歌手にも負けていない。声も、発音も、抑揚も全部最高だ、惚れ惚れとするほどにな』


『………………』


『だが、お前の歌には一切心が篭っていない』


『……心なんて、目に見えないものを』


うーん、そう言われりゃそうなんだよな。


けどさ……。


『要するに、機械的なんだよ。音楽は……、芸術は、常に最適解の正解を出力し続ければ良いと言うもんじゃないからな。おまけにどんなコンサートでも一切笑顔を見せない』


『ッ……!』


これも図星っぽいな。


そう、そうなんだよ。


この女、確かに歌そのものは馬鹿みたいに上手いんだが、まるで機械音声みたいで気味が悪いんだ。


本来なら世界的歌手としてワールドワイドに活躍してもいい実力があるのに、その無機質さが足を引っ張っていて大成できていないという印象。


俺はそれを丁寧に説明した。


『……あなたの言う通りよ。私、歌っていて楽しいなんて思ったこと、ないわ』


すると、おやおや。


あっさり認めなさったわ。


『やっぱり、見る人が見れば分かるのね……。ネットでも散々言われていたし……』


あ、そうなの?


ネット見てないから分からんわ。


けどまあ、ネットに書き込まれるくらいには、俺と同じことを感じている人がいるってことだろ。


『まあ、とにかく来いよ。話なら聞くぞ?美人の話なら特にな』


『……ええ、分かったわ』




屋上。


『……昔はね、歌うのが大好きだったの。両親も褒めてくれたし、周りの人も喜んでくれたし』


『ふむ』


『でも、今は違う。ミスをするなってプレッシャーをかけられて、成功しても当たり前だと褒めてもらえない。それも、最近では戦争の関係で、国を応援しろって強制される』


『なるほどな』


『そして何より、好きな歌が歌わせてもらえないことが嫌!周りは勝手に私を聖女だとかって祭り上げて!相応しくない歌は歌うなって!私の歌は私のものよ?!』


『辛かったな』


女の話なんて解決策は求められてないに等しいから、上辺だけ「共感してます」オーラを出して申し訳なさそうなツラしときゃOKだぞ!


だが。


俺は解決したいんで。


『じゃあ、どうしたい?』


『どうって……?』


『もし、全てが許されるなら。お前はどうしたい?』


『そんなの決まってるわ!私はッ……!』

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