第44話 日本ってご飯おいしくて良いよね、僕も好き
俺は、放課後に、亜里沙と栞と千佳と、ついでに瑠衣とその彼女に囲まれながら、シャイゼリアというファミレスで駄弁っていた。
「デートなのに複数人で、しかも行き先がシャイゼって何なの?」
瑠衣はそう言うが……。
「まあ良いだろ、気にするな」
と、俺は1.5Lのワインを注文した。
一方で……。
「オゴリって言うんだし、ゴチャゴチャ言わないよ私は。すいませーん!ボロネーゼパスタと生ハムください!それとドリンクバー」
亜里沙は、既に新しい生活に馴染んでいるようだった。
俺の家で暮らし始めて、俺から小遣い貰って生活している。
最初は遠慮していたようだが、もうそろそろ慣れてきたのだろう。
色々と遠慮がなくなってきている。
「しかし、まさかあの亜里沙君と同棲とはね」
千佳が言った。
それは、蔑んでいるような雰囲気じゃねーな。
気難しい亜里沙と暮らすなんてすごいなー、みたいな意味合いが強い。
「それを言ったら、こいつみたいな変人とつるんでる私達全員がおかしいけどね……」
と亜里沙。
「私はシャイゼリア?でも全然大丈夫ですよ!むしろ、固形物を食べられるようになったのは最近なので、色んなものを食べてみたいですし」
と、重い台詞を返すのは栞。
栞はこの前まで死にかけの病人だったもんな。
最近はもうすっかり治って、肉もついてきてかなり美しい身体になっている。
「僕はまあ、事実上の浮気みたいなもんだし……。あ、香苗ちゃんの許可はあるけどね?」
と瑠衣。
瑠衣は男の娘。
その彼女の香苗は「彼氏である瑠衣がイケメン男に寝取られること」を性癖としている変態だ。
もちろん、二人はかなり仲の良いカップルだし、やることはやってるみたいだが。
瑠衣自身もバイセクシャルで、俺のような良い男が大好きなんだそうだ。
ん?
……「デートでシャイゼとかちょっとありえないって言うかぁ〜」
……「本当よねぇ、やっぱり、フレンチなら高級店が〜」
……「最低限の金もない男とかキモいわ〜」
近くの席でおばさん達がなんか言ってるな。
まあ、どうでも良いか。
俺は美女に……、いや一人男の娘だけど、美女に囲まれているんだから。
婚活ブスとは違う世界の話だよ。
「やっぱり、亜里沙ちゃんってアレなの?初デートでシャイゼはーとか言っちゃう系?」
瑠衣がふざけ気味にそう言った。
対する亜里沙は……。
「別に……。奢ってもらってる身で文句言えないっしょ。第一、その……、す、好きな人とならどこ行っても楽しいし!」
ほーん?
ほーーーん!
かわいいなあ!
「でもさあ、やっぱり高級店じゃないと駄目ー、とか言う人いるじゃん」
ふむ……。
「そう言う女は金に股を開くんだ。だったら、娼婦で良くないか?」
と、俺が返す。
「うひー……、よくそんなこと言えるね。SNSなら炎上モノだよ」
っつってもなあ……。
「でもここ、結構美味いだろ?」
「そうだけどさー」
俺は、赤ワインをカップに注ぐ。
「例えば、この赤ワイン。こりゃキャンティだ」
「銘柄のこと?」
「ああ。イタリアのトスカーナでとれる、サンジョヴェーゼって種類のブドウをメインにして作られるワインでな。イタリア本国でも、お手頃なテーブルワインとして親しまれているんだぞ」
公式サイトにはそう書いてあるが、まあ俺の体感としても大体合ってるんじゃね?って感じ。
昔イタリアに連れて行かれた時に飲んだ酒と同じ味するもん。
「へー、じゃあ、イタリア人が食事中に普段飲んでるワインってこと?」
「そうだ。これはな、サンジョヴェーゼ以外にも、白ブドウとかを少し混ぜて、飲みやすくされてるんだ」
「どれどれ……?」
俺の手元のワインをひったくった瑠衣は、一口ワインを飲む。
「うん……、本当だね!あんまり苦くなくて、飲みやすいね」
「そうだろ?このワインには……、というか、ワインはその原産地の食べ物と合わせるのが良いって言われてるんだがな、この店の食品は全部イタリア産だ」
「えっ、そうなの?」
「ん?麦の味で分かるだろう?日本人なら、米を食べてコシヒカリかひとめぼれかヒノヒカリかアキタコマチか、その辺は分かるよな?」
それくらいは分かるはずだ。
まともな舌を持っていれば。
「いや……、普通は分かんないよ?」
「おいおい、大丈夫かよ?まあ、麦の味がな、違うんだよ。欧州の麦は香りが強いんだ」
「へー、そうなんだ」
「特にこのパルマ産プロシュートなんて凄いぞ」
「プロシュートって何?グレイトフル・デッド?」
「あー、生ハムだな。スタンド使いは関係ない。これは、パルマって地域の、ホエーって餌をたくさん食わされた豚から作られるハムなんだが、本場イタリアで食えばこの量だと五倍の値段はするぞ」
「えー?それは流石に嘘でしょー?」
「いや、マジだが。普段ファミレスとか行かんから、俺も驚いてるぞ。これ、高級ホテルなら2000円くらいするんじゃないか?日本はスゲェよなあ、食い物が安い安い……」
「ん……、うわ、本当だ!ググったら、本場の生ハムをめちゃくちゃ安く売ってるって!」
スマホをいじりながらそう言った瑠衣。
「イタリア人がびっくりする価格帯なんだ……」
「おう、そうだぞ。まあつまりアレだな……、ファミレスなんかと馬鹿にしている連中は、そもそも味なんか分かってないってことだ。そんな連中は、もし、この店と同じ物を三倍の値段にして、見た目だけ洒落た店舗にすれば賞賛するだろうな」
俺がそう言ってワインを呷ると……、婚活おばさん達は逃げるように帰って行った。
それを横目で見ていた瑠衣は……。
「……はあ、やっと帰ったよ、あのおばさん達」
と呟く。
「ん?何かあったのか?」
「気付いてないの?隣のテーブルのおばさん達、ずっと理玖君の悪口を言ってたんだよ?」
あー?
「そうなのか?」
デートでシャイゼリアは駄目だみたいな話は聞こえたが。
これは別にデートじゃないだろ?
「あー……、理玖君ってそう言うところあるよね。遠回しに言ってもあんまり伝わらないって言うか」
「ああ、それはすまんな。俺は海外生活が長くて、はっきり喋らないとヤバいケースが多かったから、どうしてもな」
だからイギリス人と京都人とは話ができねーんだ。
「いや、良いと思うよ。そこは、理玖君のかっこいいところの一つだし」
「そうか、ありがとな」
まあ、そんな感じで、初夏の1ページは過ぎていった……。
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書き溜めもうないね。
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