第38話 音速解決やめてくんない?

基本的に、俺は回りくどいことをやらない主義だ。


「よう、亜里沙」


「……は?あんた誰?」


あからさまに怪しいものを見る目を向けてくる亜里沙を捕まえて、食堂へ。


「……なんなの?」


「飯食おうぜ、奢るぞ」


「……何がしたいの?」


「飯が食いたいんだよ、お前と」


「……あんたもどうせ、やらせろって言うんでしょ?!」


おお、こりゃ相当に参ってるな。


色んな男に抱かせろと迫られて、気が滅入っているみたいだ。


「亜里沙。そりゃ俺もお前みたいな良い女は抱きたいさ。だが、いきなり金を叩きつけて抱かせろ!みたいな風情のないことはやらねぇよ」


「………………」


「良いか?俺は俺の魅力でお前を口説く!そして、お前から『抱いてくれ』と言わせてみせる!」


「……馬鹿みたい」


馬鹿?


俺が?


そうでもないだろ。


「……でも、嫌いじゃないかな。良いよ、好きに口説きなよ」


よし!




亜里沙を口説いていると、千佳と栞が乱入してくる。ついでに瑠衣も。


そして騒がしくしながらも仲良く過ごす。


そんなある日、俺は銀座のガールズバーを見つけて、そこに入店する。


何故か?


それは……。


「うぇっ?!ちょ……、あ、あんた、何でここに?!」


亜里沙を見つけたからだ。


亜里沙については既に調べた。ってか、調べるまでもない。


だってあからさまにおかしいんだもんよ。


虐められてるとしても、こんな風にビッチだなんだと酷い扱いをされるには理由があるはずだってな。


容姿がいいからブス女に目の敵にされるってのは、女の世界じゃありがちなことだろう。


だが、あることないこと吹聴されてるにしても、亜里沙の悪評の殆どは、貞操のユルさを揶揄したものばかりだった。


風俗店で働いてるとかいう噂だな。


でも、高校生が風俗店で働くとか、今時そんなブラックなことができるのか?って疑問もあった。


だってそんなの、バレたら一発でお縄だぞ?このご時世にそんなことやるアホいるか?


で、その辺の適当な不良君を締め上げてインタビューしたところ、新宿のガールズバーで働いてるという情報を得たのだ。


ガールズバー=風俗店


風俗店=ビッチ


みたいな、雑な中傷。いかにもコーコーセーって感じで胸が暖かくなったぜ!


ってか、ガールズバーはあくまでもバーだからね?風俗店じゃなくて飲食店扱いだ。


まあ、高校生はそんなの知らんだろうから、なんとなくエロい感じの店に入ってるからエロい人!みたいな感じだろうよ。


え?なんで俺が知ってるのかって?


そんなん、年齢偽ってキャバクラやら風俗店やら行ってるからに決まってんだろ。


さて……、俺に見つかってギョッとしてる亜里沙に声をかけてやるか。


「お前を見かけたから気になってな」


「……その、学校には言わないでくれる?」


「まあ、座れよ」


俺は亜里沙を隣に座らせた。


「う、うん……」


ふーん?


確か、風俗法では、ガールズバーは風俗店じゃないから接待はやらないはず。


隣に座らせるのはグレー、いや、アウトだ。


だが、亜里沙は、あっさりと隣に座ってきた。


こりゃ、あんまりいい店じゃないなここ。


「とりあえず頼んでいいか?」


「えっと、ここ、お酒しかないけど」


「何ある?」


「え?飲むの?」


「ジャックダニエルある?」


「あるけど……」


「じゃあ、ジャックダニエル瓶ごと持ってきて」


「えっと、分かった。グラスはどうする?」


「ストレートでいくから一つだけ。お前も飲むか?」


「じゃあ、一杯だけ」


はい、確定。


この店は黒。


未成年に酒飲ませて接待させてんだ、知らなかったじゃ済まされないぞこれ。


え?俺は未成年なのに飲んでいいのか?


いいんだよ俺は。


さて、じゃあ、酒を飲みながらお話タイムだ。


俺は、安物のジャックダニエルを一気に飲み込んで、アルコール塗れの息を吐き出した。


おーおー、なんだこりゃ、コンビニ酒か?


鉛筆をしゃぶってるみたいな気分にさせてくださるなあ。


「すっご……、強いんだね、アンタ」


「そらそうよ。俺は基本的に無敵だからな。無敵だから……、お前を助けてやろう」


タン、と俺はグラスを置いた。


「で?誰にやらされてんだ?」


「……どうでも良いでしょ、ほっといてよ」


俺はもう一杯グラスを煽る。


「駄目だね、美人は助けてから口説く主義だ。その方が気持ちいいし面白い」


「訳わかんないし……」


もう一杯。


「本当に分かんねーのか?」


「……それは」


「もし借金なら、肩代わりしてやる」


もう一杯。


「もし脅されてんなら、ぶちのめしてやる」


もう一杯。


「もし趣味なら……、毎日この店に通ってやるよ」


ボトルを空にしたジャックダニエルをデコピンで倒す。


「……助けてくれるの?」


「ああ」


「……本当に?」


「本当だ」




話を聞いた。


どうやら、母親に無理矢理働かされているらしい。


金遣いの荒いクソババアだそうだ。


どれ、一丁とっちめに行きますかね。


まず、亜里沙と母親の住むアパートに乗り込む。


「な、何よアンタ?!警察呼ぶわよ?!」


ケバいおばさん、こいつが母親か。


どうやら、亜里沙は父親の方の連れ子らしいな。で、父親は死んだ、と。


なるほどね。


「亜里沙っ?!アンタ、何よこの男!それに、仕事はどうしたのよ!」


俺は、喚くババアにビンタした。


「ぼへぁ?!!!!」


ババアは、回転しながら棚に突っ込んだ。


「あ、あがっ、ぐ、が……!」


俺は、ババアにポーションをかけて傷を治した。


「あ?あれ?治った……?」


「おい、ババア」


「あ、アンタ、急に何を」


俺は、這いつくばるババアに蹴りを入れた。


「ごはぁっ!!!!」


ババアは吹っ飛ぶ。そこにまたポーション。


「おい、ババア」


「ひ、ひいいいっ!!!!」


逃げようとするババアを掴んで投げ飛ばした。ポーション。


「おい、ババア」


「は、はひぃ、ひぃい!」


「亜里沙は俺のものだ。手を出したら、殺す」


「はいぃぃ!!!分かりましたああああっ!!!!」


はい、解決!


人間が暴力に勝てる訳ないだろ!!!

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