第32話 いやあ、テンプレだねえ
「分かりましたわ……。賢者様が、このわたくし自身を欲するならば、この身を捧げましょう。死ねと仰るならば死にます……、ですが……」
ですが?
「ドミニクには、どうか、酷いことをしないで下さいませ……!ドミニクは、私の姉妹も同然なのです……」
ほう……。
いや驚いた、ガチの聖人だわこの子。
ただ、大局が見えてないよね。ここで知らん男の種を仕込まれたりしたら、王家の信用問題になるじゃん?
そうなれば、どれだけの人が露頭に迷うのやら……。
「ふむ、分かりました。リーゼ」
「はい、マスター」
リーゼが、ドミニクを放す。
「リリーベル様っ!私のことなど、どうでも良いのです!貴女様の御身こそがっ……!」
ドミニクはそう言った。
「ドミニク……、ありがとう。でも、良いのです」
「ですがっ!」
「良いの。……ね?」
「くっ、う、うわああああーっ!!!」
なんかドラマが始まっちゃったぞ〜。
さて。
「はぁ……、良いかな、リリーベル様」
「は、はい」
「あのね、アンタがここで知らん男に身を許したら、この国の王家の血が他所に行く訳だろ?」
「そ、そうですね?」
「そうなったらどうなると思う?王家の血が流れるガキがその辺に潜むんだぞ?そうなったら、そいつを支持する馬鹿が現れて、最悪国が割れるぞ?」
「そ、そんな……!」
「ここでアンタがやるべきことは、俺に犯された時点で自刃することだ」
「は、はい!」
全く……、善人だが、箱入りだな。
狙われているとか言われていたが、そりゃ狙われるわ。
この子、めちゃくちゃ敵を作りやすい子だもんよ。
王家の生まれで?美しい外見で?性格が良くて?善人で?
凡人には眩し過ぎらあ。
狙われている理由も、恐らくは、この姫様が無自覚に善人ムーブして、それにムカついた奴の逆恨みが原因だろうな。
施政者ってのは、その辺のことも考えて上手く動かなきゃならねぇんじゃねえかな?知らんけど。
まあほら……、偉い人ってのは、清濁併せ呑む必要があるのに、この子は『清過ぎる』ってこった。
「そ、その、賢者様……?」
「んー?何?」
「それでは、わたくしはどうすればよろしいのですか?」
はあー?
「自分で考えろ、頭が付いてるだろ」
そう言って、デコを小突く。
「は、はい!で、ですが……」
「何だ?」
「わたくしは、何もできないのです……。ダンスや詩は得意ですけれど、戦ったり、狩りをしたりすることはできません。やはり、賢者様に助けてもらう他ないように思えます」
「どうやって俺を動かす?」
「わたくしは何でもします……。け、けれど、その、痛いのはちょっと……」
「何でもするってのは事実上の降伏宣言なんだよなあ。何でもするから許して!ってなる前に、色々やっておくべきだと言ってんのよ」
「は、はい!」
「お前もだドミニク。あっさり事情とか話してんじゃねえぞオラ」
ドミニクの方を向く俺。
「は、はあ……」
はあ、じゃないが。
「あのね、知らん奴に『我々は狙われている』だのと弱みを見せるなよ。偶然を装って『護衛が全滅しちゃったんですぅ〜!』とか言って俺達に近付いたら、事情は一切話さずに護衛として雇うとでも言え!」
「は、はい!」
「無茶な要求をされそうなら、『我々は貴人だから、その内捜索に騎士が来るかもしれない』とか、『ここで我々を殺せば、後で来る捜索隊にバレるぞ!そうなれば追われる身になるぞ!』とか言って脅せよ!」
「し、しかし!それは余りにも不誠実です!」
「誠実さで命は救えないんだよなぁ!!!」
「そ、それは……、そう、ですが……」
主従揃ってこんな感じなの????
ヤバくない?
政治の世界ではこの誠実さは致命的な弱点じゃない?
「因みに、お前らは何でここにいるんだ?」
「ええと、祖母に会いに来たのですが……」
ははあ、祖母に会いに遠隔地へ、ねえ。
「護衛の数は十人だったか?少ないんじゃないのか?」
「……はい、少ないです。ですが、護衛を手配してくださったサザーランド伯爵はとても良いお方で……」
「そいつだよ!犯人そいつ!」
わざわざ王族の護衛を手薄にするとかそれもう第一容疑者でしょ。
「で、ですが!騎士の方々は、ワイバーンが現れると、応援を呼んできてくれると言って……!」
「逃げたんだよそれは!!!」
分かんないかな?
どう考えても逃げてるじゃん。
「嵌められたんだよお前らは!気付け!!!」
「は、嵌められた……?」
「騙されてるんですぅー!最初から始末される予定でしたー!」
「そ、そんな、酷い……!」
あ、それと。
「姫を狙う存在ってのはサザーランド伯爵だな?」
「あ、いえ、それは違います」
ドミニクが答える。
ふーん、そうですかそうですか。
「じゃあ複数の敵がいるじゃねーか!!!」
「は、はい、そうなります……」
いや、違うのか?
サザーランド伯爵に関係がある奴が敵なのかもしれないし。
まあなんにせよ……。
「今回はもう『詰み』な訳だからな。今日から、リリーベル様とドミニクは俺のものになるべきだろう」
「は、はい……」
リリーベル様が俯いた。
「……とは言え、暫定的なものだ。泣き叫ぶ女を無理矢理組み伏せても楽しくないからな。とりあえず、二人の身柄を所有して、王国とやらに送り届け、そこで改めて二人と同じ価値があるものを要求する。それに俺が納得できたら解放しよう」
いや、これはマジ。
美人二人をそのまんま貰えてもラッキーだし、換金して大金を貰えてもラッキー。
俺としてはどっちでも構わない。
「ほ、本当ですか?!」
ドミニクが叫んだ。
「本当だとも。だがもし、王国とやらがお前らを見捨てた場合は、お前らは正式に俺のものになる。良いな?」
「は、はい!大丈夫です!リリーベル様の父君にして、国王にあらせられる『ディラン陛下』は、穏和な人格者でいらっしゃいますから、必ずや、賢者様の欲するものを用意して下さるでしょう!」
そうだと良いね、本当にね。
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