第30話 また主人公ムーブしてそうな予感!

ゴーーールデンウィィィーーークである。


休みだ!


早速、セシルと移動しよう!と思ったんだが……。


「ちょっと良いかな?」


天才少女、千佳に呼び止められてしまう。


「キスしてくれたら爆速でスケジュール空くわ」


「分かった、ほら。ちゅっ」


俺が頭を下げると、頬にキスをしてくれた。


「あーっ!ず、ずるいですよぉ!」


隣にいた元病弱の文学少女の栞が嫉妬してきた。


「じゃあほら、栞も」


「え、えっと……、ちゅっ♡」


ヨシ!


「じゃあ僕も!ちゅっ♡」


ついでに、男の娘の瑠衣にまでキスされた。


なんだか知らんがとにかくよし!


「で?何?」


「研究室に来てくれたまえ」




帝都大学。


東京に存在する、日本最高の大学だ。


もちろん、この工学部は理系なのでオタクしかいない。


まあ、何者にもなれない陰キャよりは、何かに夢中になっているオタクの方が人間的に魅力があるのでマシだろう。


そんな訳で、千佳に手を引かれて、千佳の父親がやっているという研究室に連れて来られた。


「こんにちは」


「父さん!連れて来たぞ!」


千佳の父親は、丸眼鏡に黒の短髪、白衣姿の気弱で温厚そうなおっさんだった。


うちの親父みたいな、サティスファクションでゴリラゴリラゴリラでスラングルみたいな全身ゴリラ人間と違って、普通の人だな。


ただ、そう身長が高い訳でもないのに背筋を丸めているのがよくないな。その姿勢の悪さが、自信なさげな雰囲気に見える。


「ああ、君が……!私は光坂伝太(こうさかでんた)です。よろしく、薬研君」


「薬研理玖です。よろしくお願いします」


と、俺は、この前行った神奈川の菓子折りを渡す。


え?


いやそりゃ、友人の親に無礼な態度とれないでしょ。


先方が無礼な態度で突っかかって来たんならいざ知らず、何もやってこない弱そうなおっさんを虐めてもねえ。


「ああ、これはどうもご丁寧に……。神奈川銘菓『クリーム饅頭』……?」


「先日、友人と遊びに行きましてね」


「そうですか、娘と違って社交的な子なんですねえ」


「父さん!」


自分の娘を引き合いに出して俺を褒める光坂のおっさん。それを聞いて顔を赤らめる千佳。


お、娘っぽいねえ。


可愛い一面が見れてグッドだ。


「で、千佳。俺を呼んだ理由は?」


「父さんが会いたいと言っていたからだ」


ふむ。


「会いましたが、何か?」


俺は、おっさんに向き直って言った。


「ああ、いや……。子供の頃から、友達の一人も作らない娘がね、初めて、他所様の子供の話をしたから、気になってね」


なるほど。


「親として当然の判断ですね。ましてや、男ともなれば……」


「ええ、そうなんですよ。でも、良かったです」


良かった?


「何故、とお聞きしても?」


「私は、人を見る目はないのですが、流石に悪人かどうかは分かります」


「ええ」


「薬研君、君はとびきりの『悪人』だよ。そうですね?」


へえ……。


「悪人は、自分を悪人ですなどとは言わないものですよ」


「ふふふ……、もうその時点で、ねえ?いや、良いんですよそれは。悪人であるのは確かでしょうが……、君はきっと、娘を悲しませない男だ」


「当たり前でしょうよ。こんな良い女、粗末に扱ったらバチが当たります」


「ははははは!私はね、薬研君、私はですね!単なる『善人』よりも、娘の理解者になってくれる子の方が好感が持てるんですよ!」


なるほど。


「ただの『善人』では、娘の為を思ってなどと理由をつけて、娘を無理やり『普通の人』の枠に押さえつけるでしょう。でも、君は違う!娘のありのままを受け止めてくれている!」


そりゃそうだ。


「恋愛の基本は、まず相手を受け入れることからですよ?」


「ははは!恋愛?!恋愛と来ましたか?!本当に、本当に……、良かった……!」


うわ、泣き出したぞ。


「娘は、千佳は、ずっと孤独な子だったんだ。なまじ賢いばかりに、周りの子や教師からの理解が得られず……。年頃の女の子なのに、恋の一つもできないで、なんと不憫な子かと……っ!!!」


あ、はい。


俺はそんなに考えてないんだけど……?


可愛い子いたら声かけるでしょ普通……。


まあ、あえて言う必要もないか。


俺は悪人だしな。




その後、研究について二、三個議論を交わす。


「ふむ……!いや、凄いですね!この歳でここまでの知識を持っているのは、娘くらいのものかと思っていましたが……、まさかこれほどとは」


「まあ、俺は悪人なんで、ちと『ズル』をしてるんですがね」


「構わないですよ。工学と言うものは、『いかにズルをできるか?』を研究するものなのですからね」


そうとも言える、か?


しかし……。


「閑散としていますが、研究員の方は?」


「……流石に、気付きますか」


ふむ、なんか訳ありか。


「予算がね、足りないんですよ」


「ああ、なるほど」


「研究費が潤沢な中国やアメリカと違って、経費削減に次ぐ経費削減で……。今や、クラウドファンディングにまで頼る有様です」


ははあ、いつもの文部科学省さんか。


この国の天皇ですら研究者なのに、大学の研究費を削ってくるとか、文部科学省は朝敵と言っても過言じゃねえよなあ?


「しかし、資金は全く集まらず……。理論は、理論は完璧なはずなのに……!」


「はあ、それは大変だ。クラウドファンディング……、これですか?」


俺は、ネットで検索して出てきたクラファンのページを見せる。


「え、ええ、それです」


「三千万円の目標額に対して、百二十万円……。足りてないですねえ」


「ええ、本当に……。三千万円と言うのは最低額で、本当は一億円ほど必要なのですが……」


「まあ、近いうちにいいことがありますよ!頑張ってください!じゃ、俺は帰ります」




俺は、このクラファンのサイトに登録して、三億円振り込んだ。

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