第29話 うーん、地球には干渉できないからなあ……

山ほど本を買って、食品、雑貨、酒、何から何までアイテムボックスに詰め込んで、セシルに押し付けた。


その次の日に、俺は……。


「はーい、じゃあリーゼ、頼むぞ」


「了解しました」


異世界に転移し、車のリーゼに乗り込んで、鉱山都市ガロニカへ向けて出発していた。


「セシル!読書は終わりだ、行くぞ」


「ん、む……、分かった」


そう言って本を閉じるエルフのセシル。


因みに、本のタイトルは、『世界史入門』だった。




「リーゼ、カーステレオでなんかかけてくれよ」


「はい、マスター」


移動中。


ザ・ストロークスの名曲が流れるついでに、車用芳香剤の香りがほんのりと漂う車内。


え?自動車免許?ちょっと何言ってるかわかんないっすねぇ!


そもそもリーゼは自動運転だ。


読書中の俺の隣に座るセシルが、懐から地球産のメモ帳とボールペンを取り出して、徐に口を開く。


「質問をしても良いか?」


「どうぞ、ご勝手に」


俺は、本から目を離さずにそう言った。


因みに、読んでいる本は漫画だ。


「私は昨晩、軽く史学の書物を読んだのだが、この世界はどうやら、貴様の世界の『ルネサンス』と呼ばれる時代よりも前……、『暗黒時代』に酷似しているように思える」


うんまあ、そうだね。


「そうだな、合ってるぞ」


「この世界も、かれこれ数百年間の停滞を見せている。どうすれば、我々も貴様の世界のような『ルネサンス』を起こすことができるだろうか?」


はぁ〜?


おいおい、難しい質問だな。


だが良いだろう、答えてやる。


「ルネサンスが起きた理由ってのは色々あるんだが……、まずは『十字軍遠征』だな」


「ふむ」


「まあなんだ、お国が遠くへ軍隊を派遣して、その際に外国の文化に触れて人々の意識が変わったっていう外的要因だ」


「なるほど、他国の文化を取り入れる、か」


セシルはメモをした。


「それと、『東方貿易』だ。遠くの国とたくさん貿易をして、商人が儲かる」


「儲かるとどうなる?」


「権力を持ち始める。すると、キリスト教で頭の凝り固まった貴族や僧侶より、俗物の商人共、金持ちが偉くなる」


「商人が偉いと、経済的に発展するということだろうか?」


「大体そんな感じだ。そして地球では、フィレンツェ辺りでは、金持ちのメディチ家がレオナルド・ダ・ヴィンチ辺りの天才を飼っていた。これもデカい」


「ふむ?どういうことだ?」


「レオナルド・ダ・ヴィンチってのは、地球人の殆どの人間が知っている大天才だ。画家であり学者でもある。そんな天才達を後援していた訳だ」


「なるほど、優れた人間が、その能力を万全に活かせる環境を提供したということか」


セシルはまたもやメモをした。


「そういうことだ。他にも、外国で戦争が起きて学者達が逃げ込んできたことや、教皇の武力が弱くなったことも挙げられるだろうな」


「なるほど、理解した。つまり……」


セシルは、ある言葉を大きくメモ帳に書き殴った。


その言葉は……。


「『宗教の否定』か」


セシルはそう呟いた。


「いやあ、何もそこまでしろとは言ってねえよ。宗教は道徳も内包しているからな、全てを否定するのは良くない」


「だが、宗教の都合により思考を停止させることが良くない、と」


「そうだな。社会が発展するには、神に挑戦しなければならない。神の定めた法則を解き明かし、ともすれば禁忌とされているような学問も研究せにゃならん訳だ」


俺は、そう言いつつ、読み終わった漫画を閉じてアイテムボックスにしまった。


うーん、まあ、適当に講釈垂れたが、合ってるかどうかは分からねーや!


そういうのはこの世界に生きる人類が考えるべきものじゃない?俺は知らん。




さて、夜になったな。


セシルが野営の準備を始める……。


が、セシルはプロなのでほんの数分でテントを張った。


「では、夜間の見張りはこのリーゼという者がやるのだな?」


「はい、ミスターセシル。私は、機械生命体ですので睡眠が必要ありません」


「ふむ……。とはいえ、何かあれば起こしてくれよ?」


「はい。1:敵対的な他種生命体:カテゴリー名『モンスター』の襲撃。2:敵対的、友好的問わず人型実体の接近。3:天変地異などの周辺環境の変化。以上の3パターンのインシデントが発生した場合、100dB相当のアラーム音を発信します」


「……こいつは何を言っている?」


俺の方を見てそう言ったセシル。確かに、異世界人には分かりにくい表現だ。


「dBってのは音の大きさの単位だ。100ともなると、犬の鳴き声よりうるさい」


俺が解説してやる。


「なるほど、何か問題があれば、大声で知らせるということか?」


セシルが、再びリーゼにそう訊ねた。


「はい。申し訳ありません、ミスターセシル。評価:『分かりにくい表現』を了解。会話データを記録しておきます」


まあ、それは良いとして……。


「じゃあ、セシル。見張りはリーゼに任せて、地球に飯でも食いに行こうぜ」


「うむ」




はい神奈川。


「ここは何の店だ?カツ丼、とは?」


「揚げた豚肉を米に乗せたやつ」


「ふむ、興味深い」


えーっと、メニューは……、うん、これだな。


「ドデカ5kgテラ盛りMAXカツ丼で。それと豚汁とビール、大ジョッキで」


「では私は、カツ丼特盛りのカツ倍盛り、ビールの大ジョッキを頼む」


「はーい」


さて、カツ丼。


ここのは揚げたてのカツを揚がった瞬間即卵とじするからな。ザクザクの衣を楽しめるんだ。


「「ザクッ!」」


「うん、んまい」


「んむ、美味だな」


この後、居酒屋を三軒梯子して、ラーメン三杯をシメに食って帰った。


「お兄ちゃん、お酒臭ーい!」


「うるせぇ!」


「きゃー!抱きつかないでよー!お酒の匂い移るじゃん!もー!」

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