第28話 文明力で殴ってくるのはルール違反だよ?!

俺とセシルは、ショッピングモールにやってきた。


「じゃあ、欲しいもんあったら言ってくれ」


「おお……!」


セシルは、感嘆の声を上げていた。


「ここ全てが商店なのか?」


「そうだ」


「素晴らしいな。呆れるほどに豊かだと前に言ったが、まさかここまでとは思わなかった」


「んん?エルフなんだから、森と共に生きてー、みたいなことを言うもんじゃないか、そこは?」


「ふん、それは年寄り連中の常套句だ。私のような若いエルフは、より豊かな生活を求めている」


そう言うもんなのかねえ?


「まあ、まずは食事を買いに行くぞ」


「ああ」




俺とセシルは、ショッピングモール一階のスーパーに来た。


「ここでは、食品と日用品を売っている」


「ふむ……、興味を惹かれるものが山ほどあるな」


口ではそう言っているが、お登りさんのように挙動不審にはならない。その辺は実にエルフって感じだ。


因みに、セシルには武装解除してもらい、外套と革鎧を脱いでもらった。なので、緑色のシャツとカーキーの革ズボンにブーツって感じの出で立ちだな。流石に剣は職質されてめんどくさそうだし……。


俺?俺はフライトジャケットにジーパン、ハイカットのスニーカーで、シャツは、シャケの切り身の絵とハリフキダシで『シャケ!』と書かれたクソダサTシャツだよ。


「まずはパンだな。ここはメーカーのベーカリーがあるそうだから、買っていくぞ」


「うむ」


パンコーナーに向かう。


「これは……、パンに具材を挟んでから焼き上げたのか?」


惣菜パンを指差して言うセシル。


「そうだぞ」


「パンの利点は保存が効く事だ。何故、保存性を下げるようなことをする?」


「良いか?この店では、毎日これが同じ量並ぶんだよ。不作だろうがなんだろうが、な。だから、必要なのは保存できるかではなく、『美味いかどうか?』ってことだ」


「また、豊かさを見せつけられたな……。なるほど、保存するまでもないのか」


「保存食も別にあるから、それも後で買うぞ」


「うむ」


「じゃあとりあえず、カゴ一つ分は買っておこう」


「そんなに必要か?」


「ん、ああ……、もしかしたら、不測の事態があるかもしれないだろ?アイテムボックスに入れておけば腐らないんだから、食料や日用品はたくさん買っておく」


「そうか」


あとは……。


「惣菜も買っておくか。何か欲しいものとかあるか?」


「ふむ?ここでは、出来合いの料理が売っているのか」


「そうだ。味はまあ、普通に美味いぞ」


「では……、ふむ、これはフリッターの一種か?」


そう言って、メンチカツを指差すセシル。


「ああ、玉ねぎと挽肉を捏ねたものに、パン粉をつけて揚げた料理だ」


「ふむ、良いな。これは?」


「チキン南蛮か。揚げた鶏肉を甘辛いソースで味付けして、酸味のあるソースをかけたもの」


などと、色々買う。


「カップ麺や乾麺も買って行こう」


「乾麺?」


「あれ?そっちに麺ってないのか?」


「いや、あるが……、あれは白麦を贅沢に使う故、贅沢な品だ」


「ふーん?こっちだとありふれた品だよ。麺を乾燥させてな、保存が効くようにしておくんだ」


「では、湯で戻すと言うことか?」


「そう言うこと。で、このカップ麺は、スープや具材も乾燥させたものだ」


「興味深いな……。この材質、どのようなものなのか検討もつかん」


あとは、青果コーナーにも寄る。


「……なんだここは?」


「青果コーナー」


「この野菜の瑞々しさ……、収穫してから一晩ほどだろうか?しかし、近くに畑の気配はないが」


「車で運ぶんだよ」


「なるほど。あの無人馬車の速さを見れば、それも納得できるな」


「おっ、贈答用のメロンじゃん。買い占めようぜ!」


「これは?」


「メロンだけど、知らないのか?」


「知らんな」


「果物だよ。高級なやつ」


「ほう、果物か」


「苺も箱買いーっと」


それと、ちり紙や替えの下着辺りも揃えて、一旦会計。


買ったものは、持ち帰ると見せかけて、ショッピングモールの死角に隠れてから、アイテムボックス袋に詰めておいた。


次は、アウトドア用品店だ。


調理器具や刃物を買う。


薪や炭、ガスコンロ、発電機、小型冷凍庫やテントをたくさん。


「因みに、エルフって金属製品持ってて良いのか?」


「ただの鉄には魔力が定着しない故、金属製品はエルフに嫌われている。が、しかし、そんなことを言っているのは老人だけだ。あるものは使う」


なるほどね。


「まあ、私が愛用しているショートソードはミスリル製だが」


「へえ!ミスリル!やっぱりあるんだ、そういうの」


「うむ、ミスリルは魔力を良く通し、鉄よりも遥かに丈夫で軽い」


「良いねえ、そのうち探してみるか」


「となれば、『鉱山都市ガロニカ』だろう。ガロニカには、ミスリルの鉱脈があるらしいからな」


「じゃあ、次はそこに向かうか」


「馬車で三ヶ月ほどかかるがな」


「うーん、まあ、車は馬車の数倍は速いが、週に二日しか移動できないとなると……、結局、三ヶ月くらいかかりそうだな」


そんな話をしつつ、俺はカゴに色々と放り込む。




そして最後に、旅の最中の暇つぶしにって事で、書店コーナーに寄る。


「これは……!」


セシルは、今までは大きな驚きを表面に出さなかったが、ここに来て度肝を抜かれたようだった。


「これは、全て本なのか?」


「ああ、そうだ」


「あり得んぞ……、写本師をどれほど抱えているんだこの国は」


ん?ああ……。


「活版印刷って、そっちの世界にはないのか?」


「活版印刷……?」


「要するに、文字の書かれたハンコでたくさん本を作るんだよ」


「ハンコ?そんなもの、本一冊作るのにどれだけ必要になるというのだ?!よしんば、それができたとしても、これほど大量の紙はどこから……?!」


「いやあ、俺も詳しくは知らんけど、亜麻とかサトウキビとかじゃなかったかな?」


「それにこの紙の色だ!雪のように白く、繊維質も見られない……。我らエルフの里で作られる特級品よりも質がいい!」


へえ、エルフって製紙やってるんだ。


「そして、驚くべきはこの内容だ!娯楽本だと?本を読むのが娯楽だと?!私の世界ではそもそも、文字を読むこと自体が一つの技能だというのにだ!つまり、この世界の人間は、みな文字が読めるのか!」


「ん、ああ、そうだな。義務教育ってのがあって、九年間は学校に通う国民の義務があるんだよ」


「義務教育!素晴らしい響きだ!教育を義務とするまでの経済力、工業力、安定した政治……。私の世界にはどれもない!是非、学ばせて欲しい」


「あー、ここの本はどれも大体、銅板一枚くらいの値段だから、好きなだけ買って良いぞ」


「感謝する、リック」


そう言って、本を物色するセシルを横目に、俺はジャプンの今週号を購入した。

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