第27話 うちの子を誘拐しないで……?!

「よう、調子はどうだ?」


俺は、土曜日で学校が休みなので、再び異世界に来ている。


「悪くない」


エルフのセシルは、突然現れた俺に対しても全く驚かずにそう返した。


「……いきなり出てきたが、驚かないのか?」


「空間魔法は、影響を及ぼす空間が魔力で大きく揺らぐからな。簡単に予測できる」


「なるほどね」


そんなもんかね?よく分からんけど。


「まあ、どうでもいいや。ちょっと付き合えよ」




日本。


某所の、スクラップカー置き場。


『何だ、ここは?馬車の……、墓場か?』


セシルが、周りを見回してそう言った。


馬車の墓場か。


詩的な表現だな。


流石はエルフ様だ。


『そうだ。ここはゴミ捨て場、廃材置き場』


『まだ動きそうな馬車まで打ち捨てられているようだが?』


『さあな。見た目が整っているだけでもう動かない老人なのかもしれないし、いらなくなったから捨てられた若者なのかもしれない』


『道具とは言え、憐みを感じるな……』


『人間なんてそんなもんだろ。自然の為にと言いながら、自然を蝕んでいく……』


『なるほど、人間らしい。だが、それはエルフも同じだ。更に言えば、真に他種生命の手が加えられていない自然とは何か……?自然という言葉の定義の話になってくる』


『こりゃ驚いた、エルフ様は詩篇だけじゃなく哲学までおやりになるんで?』


『茶化すな、馬鹿者。エルフも、情動もあれば理を説くこともある』


馬鹿話をしながら、スクラップカーの海を漕ぐ。


そして……。


「……こりゃ驚いた」


『どうした?』


『珍しい車を見つけたんでね。丁度いい、こいつをもらっていこう』


俺の目の前にあるのは、スクラップカー。


こいつの『生前』の名前は……。


「メルセデスベンツ、W111型 220SEカブリオレ……」


古い、四人乗りのオープンカーだ。


『はい、ここにありますは《リペアポーション》!これをかけると、壊れたものは立ち所に……』


直る。


《メルセデスベンツ W111型 220SEカブリオレ

HP:100》


そしてすかさずランクアップポーション。


《電気自動車 メルセデスベンツ W111型 220SEカブリオレモデル

HP:500

耐火

耐酸

カーナビ搭載》


ほい。


《水素自動車 メルセデスベンツ W111型 220SEカブリオレモデル

HP:1500

耐火

耐酸

耐低温

カーナビ搭載

AI搭載》


はい。


《核融合自動車 メルセデスベンツ W111型 220SEカブリオレモデル

HP:3000

耐火

耐酸

耐低温

不壊

カーナビ搭載

AI搭載

飛行機能搭載

ガトリング砲搭載

レーザー砲搭載

バリアフィールド搭載》


最後にほい。


《機械生命体 "リーゼ" メルセデスベンツ W111型 220SEカブリオレモデル

五十八歳 無性

Lv1000


HP:5000

MP:0


筋力:8570

魔力:0

耐久:11000

敏捷:7844

器用:3380

知能:5677

運勢:10


絶対耐火

絶対耐酸

絶対耐低温

絶対不壊

自己修復

カーナビ搭載

量子コンピュータ搭載

飛行機能搭載

慣性制御装置搭載

ガトリング砲搭載

ミサイルランチャー搭載

レーザー砲搭載

プラズマ砲搭載

バリアフィールド搭載

単分子カッター搭載

高周波ブレード搭載

永久回路搭載

分身機能搭載

変形機構搭載

この車は生きている》


「んんー?世界観が変わってしまったぞー?」


ヤバイなこれは。


某社に怒られたらどうしよう。


まあいいか……。


目の前のクリーム色のベンツは、ギゴガギゴと駆動音を立てながら、物理法則を完全無視した変形をし、人型のロボットになる。


「マスター、おはようございます。私は、永久回路搭載型ロボット車、『リーゼ』です。以後、よろしくお願いします」


リーゼと名乗った車ロボットは、六メートルほどの上背を屈めて、俺にカメラアイを向けながら言った。


カメラアイは、薄いブルーのバイザーの下に、白く発光する二つの目のような器官がある感じ。


ボディパーツはマッシヴでありながら、丸みを帯びつつも鋭角なパーツが多く見られる。シルエットとしては、胸を中心にパーツが放射状に広がっていくような感じか?細部はSFっぽく見える。


クリーム色の装甲パーツにスカイブルーのラインが走り、胸元に『RIESE』……、ドイツ語で巨人の意味を持つ紋章がゴシック体で綴られている。


最大の特徴は、側頭部から伸びるウサミミのようなブレードアンテナ。背中のウイング付きブースターもオシャレだな。


『ゴーレムか』


俺がリーゼに見惚れていると、セシル呟いた。


「ご友人ですか、マスター」


リーゼがそう言った。


うーん、話が通じないのは困るな。


ポーション生成っと。


「ほい」


『……これは?』


俺がセシルに差し出したのは、『地球語スキルポーション』だ。


飲むと地球語を理解する。


俺がそう説明すると……。


『しかし、ただで貰う訳にはいかん。私にも誇りというものが……』


と遠慮してきやがる。


『じゃあ、代わりに、いつかお前の故郷を案内してくれ』


『……良いだろう』


さて、これでセシルが地球の言語を理解したので……。


「こんにちは、ゲストユーザー。お名前を教えてください」


「私はセシル・プルートと言う者だ」


「『セシル・プルート』を『マスターの友人』に登録。こんにちは、ミスターセシル。私は、機械生命体のリーゼです」


「ふむ、貴様は生き物なのか?」


「はい、私には知性と人格が存在します」


「そうか……、興味深いな」


二、三言葉を交わした二人。


俺は、長くなりそうだったので、リーゼをアイテムボックスにしまう。


「セシル!リーゼとの会話は今度にしてくれ。まずは、買い出しに行くぞ」


「買い出し?」


「ああ……、いいか、説明しよう」


まず、この世界とあっちの異世界は、時の流れが一緒。


俺は、平日は学校に通う必要がある。


つまり、異世界で別の街に移動するとなると、長い時間がかかる。


「なるほど。つまり、七日のうち五日は私を待たせる事になる故、物資の買い出しをする必要がある訳だな」


「話が早くて大変結構だ。俺の都合でお前を週五で待機させるんだからな、食費とかは俺が出すぞ」


「ふむ、雇用されていると考えれば、それが妥当か」


「分かったか?じゃあ、行くぞ」

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