第16話 早く戻ってこーい!

『ほう……!生の魚か。ノルディンのようだ』


「ノルディン?」


『北方の民族を総じてノルディンと呼ぶ。ノルディンは、生の魚を食う事があるそうだ。北の地は寒いから、魚が腐りにくく、そんな事ができるらしいと聞く』


「へー、そうなんだ」


ノルウェー人みたいな感じのアレってこと?


北の方は涼しいから好きだぞ俺は。


『では、いただこうか』


寿司を口に運ぶセシル。


『ふむ、驚いた。思ったよりも美味だ』


「そらそうよ。ここは高いからな」


『ビネガーの風味が香るライスが良いな。主張し過ぎず、生の魚の旨味を受け止めている』


「そうかい」


『これは……、また別の魚か。ふむ……、魚の種類によって、切り身の分厚さが異なる。硬い歯応えの魚は薄く、柔らかい魚は分厚く。工夫されているようだ』


「こいつは寿司っつってな、この国の代表的な料理なんだよ」


『そうか。単純ながらも洗練されているな』

 

「だろ?」


て言うか、こいつ、箸が使えるんだな。




「どうする?女でも抱くか?」


『私には婚約者がいる。不義はできん』


はえー!


今時こんなガッチガチのやついるんだ!


あ、いや、異世界人だったな。


もうなんかコスプレ衣装みたいなローブと革鎧で移動しているが、大分馴染んでるんだもんこいつ。


「おーおー、お堅いねぇ。じゃあ明治神宮にでも行くか」


電車。


『グワーッ!人混み!』


「はっはっは」


そして到着。


『な、何だここは?凄いな……。ひょっとして、この国の聖域か?』


「え?そうなのか?よく分からん」


『見えないのか?沢山の精霊に溢れている……。ここで精霊魔法を行使すれば、普段の倍の威力は出せるだろうな』


ふーん、精霊ねえ……。


「この国は島国でな、外の大陸と切り離されているから、古い信仰が今の時代まで残っているんだよ」


『ほう』


「八百万の神と言ってだな、世界にはそれくらいの神がいて、あらゆるものに神が宿っているって信仰だ」


『なるほど、エルフの精霊信仰とそっくりだな。本当にこの国の人間は魔法が使えないのか?』


「んー?使えないぞ?」


『そうなのか?人混みの中で、何かしらの術を使えるであろう術師を見かけたが……』


えっ、なにそれ怖い。


地球にもこっそり、魔法使いとかそういうのが生き残ってるってこと?


確かに俺も、インドで宙に浮かぶジジイと会ったり、イギリスで箒に乗って空を飛ぶババアに会ったりしたが、アレって手品とかでは?


もしかしてマジもんだったのかな?そうだったら笑えるな!ガハハ!


『にしても、良い土地だ。精霊が喜んでいる』


「あ、そうだ。お前、嫁さんいるんだろ?なんか土産でも買っていけば良いんじゃねえか?」


『そうだな、そうするか』


「ほれ、家内安全のお守りだってよ」


『これは……!精霊を宿した護符か!』


「銅貨五枚だってよ」


『……精霊を宿した護符を、そんな安値で売って良いのか?』


「あー?まあ、宮司さんが良いってんなら良いんじゃねえの?知らんけど」




夜は居酒屋に行きます。


「何飲む?」


『ワインはあるか?』


「ある。赤白どっち?」


『赤で頼む』


「あとなんか食いたいもんとかある?」


『昼は魚だった故に……、肉が良いな』


「んじゃ、赤霧島と赤ワイン、それと串焼きと鳥唐揚げ7ピース、あと馬刺し。ほうれん草ベーコンとバターコーンもよろしく」


「はーい」


「あ、酒は瓶ごと持ってきてね」


「はい」


さあ、こんな感じで……。


『ほう……!こちらのワインも中々だな。鳥の肉も美味い』


「だろぉ?」


『このフリッターも堪らん味だ。衣がザクザクとしていて美味である』


唐揚げを齧るセシル。


『フリッターは、オリブの実などが豊富な西方世界の、上流階級が好むメニューだ。しかしこの香り、オリブの実ではないな?』


「あー?菜種油だろ」


『ナタネ……?』


「黄色い花だよ。そっちにはねえのか?」


『知らんな……。オリブの実以外で油がとれる植物など、知られれば栽培されているはずだ』


「んじゃ、そっちにはない種類の植物なのかもなあ」


そうして酒を飲んだ後に……。


「んじゃ、締めのラーメン、行きますか!」


『ラーメン?』


「麺だよ」


『麺?』


「あー?えーと、棒状のスープパスタだ」


『パスタか。パスタなら知っている。西方での高級品だ』


てな訳でフツーの醤油ラーメン食いに行く。


「すいませーん、チャーシュー麺特盛りで!それと大チャーハンと餃子よろしく!あと生ください、大ジョッキで!」


「あいよっ!」


「お前はどうする?」


『では、ラーメンの大盛りと半チャーハンセットなる物を。それと大ジョッキのエールももらおうか』


「ラーメン大盛りと半チャーハンセット、大ジョッキ生よろしく!」


「あいよっ!」


そして……。


「「ズルズルズルズル……!!!」」


麺美味ェッ!!!!




「いやー、ラーメンは最高だな」


『うむ。魚と獣骨のフォンが効いたショーユのスープに、小麦の香り漂うパスタ、それと煮込まれた肉と卵に、ネギ。少々塩気が強いが、腹に溜まるし力も付く味だ』


「ラーメンは他にも色々な味があるぞー、豚骨の家系やら、あっさりな塩味、味噌なんてのもある」


『興味深いな……』




そうして、帰って風呂入って寝た。


セシルと仲良くなれた気がする……。

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