第14話 ドラゴンとか、是非退治してくれたまえよ

チンピラを蹴散らした。


その後に酒を飲んで、宿に帰った。


泊まっている宿屋は、一階が食堂兼酒場になってるんで、そこで酒を飲みながらセシルを待っていた。


え?さっき酒場で飲んできた?まあまあ、いいじゃねーか、がはは。


おっと、セシルが帰ってきた。


「よう!景気はどうだ?」


俺は明るい好青年なので、優しい言葉を投げかけちゃう。


「まあまあだ」


しかし、つれない。


「飯でも食おうぜ、おーい!女将さん!飯二人分と酒をくれ!」


「あいよ!」


俺が、丸太のようなボン!ボン!ボン!のキュッ!としたところがまるでない太ましボディの女将さんに声をかけ、飯を持ってきてもらう。


恒例の臓物ソーセージのシチューと黒パン、チーズ。


それとクソ不味いエールだ。


さて。


「で?冒険者ってのは何をやる仕事なんだ?」


「主にモンスターの討伐と、次いで採取。それと護衛なんかもやるな」


「へー、何でも屋って感じか」


「物を売るのではなく、武力や探索力を売る仕事だ」


なるほど。


「で、お前は、街を狙って現れる凶悪なモンスター達を、ばったばったと薙ぎ倒して、栄光と共に金貨を手に入れた、と」


「ふん、現実は叙事詩のように輝いてはいない。泥に塗れて這いつくばり、モンスターの返り血を浴びつつ駆けずり回って、それで銀貨程度の金を得るものだ」


「つまり、キツくて儲からん、と?」


「困難な仕事ではあるが、休みは好きなだけ取れるし、儲けも、私くらいのランクになればかなり大きい。とは言え、今回は日帰りで終わるような仕事だったが故に、儲けは多くない」


なーるほどね。


「やっぱアレなん?ドラゴン的なのとか退治したりすんの?」


「いや、私では無理だな。それは、もっと強い……、オリハルコン級冒険者がやるような大仕事だ」


「はー、ドラゴンは大仕事なんだな」


「兵士にやらせるなら、攻城戦並みの兵員が必要だ。冒険者にやらせるとしても、街一つ分の冒険者が一斉に動くくらいの仕事だ」


そうかい、そうかい。


「つまり何人くらい?」


「……まあ、直接戦う人員だけで千人。荷駄に馬が百と荷運び解体に人夫が五百は欲しいだろうな」


「アイテムボックスのスキルは?」


「アイテムボックスは極めて稀少なスキルだ。それに、アイテムボックスの大きさは最大魔力量に比例する。ドラゴン一匹丸ごとを収納できる、高魔力保持者となると、やはりオリハルコン級冒険者などの強者でしかあり得ない」


「なるほどな、普通の人達がドラゴンを倒すなら、千人以上の兵士が死ぬ覚悟で突っ込まないと勝負にならなくて、百匹の馬を連れて行かないと運べないんだな」


この街の人口がぱっと見で大体十万人くらい。


これは中世くらいの社会では結構に多いな。


で……、ガッツリ徴兵やってる国……、まあ昔のフランスとか?でも、大体、徴兵して兵士にできるのは、総人口の1%くらいなのよね。


いや、国家総動員体制とかなんかやばいことになれば5%以上引っ張ってこれるらしいけど、それをやると人口ピラミッドがジェンガみたいになる。


まあだから、このウルカストルには、十万人の1%である千人くらいの兵士がいるんじゃねえかなあ、と推測できる訳だ。


あらかじめ言っておくが、ウルカストルはそこそこの規模がある大きな街。本来なら公国などになって独立してもおかしくないレベルの規模である。


つまりは、ちょっとした国の総力を上げない限り、ドラゴンは倒せないんだと。


「それにだな、ドラゴンは、このような人里にはそうそう現れはせん。山奥や海原に棲むものだ」


「でも、ドラゴンを倒した冒険者とかは、どうせいるんだろ?」


「まあ、な。それは、運良くはぐれドラゴンを狩れた存在だが」


「はぐれ?ドラゴンは群れるのか?」


「いや、分からない。史記の中で、ドラゴンの群れが街を横切ったなどという一節を目にしたこともあるが……」


ふーん。


「で?貴様は今日一日、何をしていた?」


「え?まあ、飯食って酒飲んで、チンピラを半殺しにしてきたくらいか?」


「やってることがチンピラと変わらんではないか……」


「いや違うって、あいつらが絡んできたんだよ。自衛だ自衛」


「何人やった?」


「二、三十人?」


「やり過ぎだ馬鹿者……。これは……、今晩来るな」


「あー、復讐的な?」


「ああ。犯罪組織に手を出しておいて、ただで帰れる訳がない。ああ言う連中は蛇のように狡猾でしつこいぞ」


「ふーん、ならさ……」




「あれ?お兄ちゃん、どうして家に居るの?旅に出たんじゃ?」


「色々あってな」


「そっちの人はまた知り合い?」


「そうそう、新しいアミーゴさ」


「ふーん……、まあ良いけど、私の部屋には入らないように言っておいてよ?」


「ん?恥ずかしいもんでも置いてあるのか?ブルブル震えるマッサージ機とかぶべらっ」


「も、持ってないから!!!」


家で寝た。




次の日。


「おおー!見ろよセシル。部屋がズタボロだ」


床板はひっぺがされ、屋根にも穴が空き、ベッドはひっくり返ってクローゼットも蜂の巣。


「湯けむり殺人事件……、旅人は見た!って感じだな」


「何を言っているのかは分からんが、言いたいことはなんとなく伝わるぞ……」


げんなりとした表情を一瞬見せるセシル。


そりゃそうだ、厄介ごとだもんよ。


「あー……、なんだ。その、すまねぇな。もし嫌になったなら、他の街に……」


「ふん、構わん。これも神の与えし試練だ。……だがまあ、寝床は貸してくれ」


「おう!」


そんな訳で、今日のところは日本の観光だ!


とは言え、近場はもう行っちゃってるからなあ。


まあ、セシルを案内してやるか。

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