第13話 いやこいつ英雄にはなれんわやっぱり!

チンピラに絡まれるなどのアクシデントがあったが、基本的には楽しく観光した。


飯を食ったり、その辺の人に話しかけたりして適当に過ごす。


この世界の人々は割とコミュ力が高いな。


日本では、その辺の人に話しかけると逃げていくんだが。世間話ができるくらいには、この世界の人は社交的らしい。


いや本当に、日本人は喋らないからなあいつら。


俺、ガキの頃はフランスで育って、十二歳くらいから日本に来たんだけど、日本人マジで喋らねぇ。


俺のタッパがデカくて威圧的で、外国人の血が一部流れているからって俺をガイジン扱いしやがる。


道を聞いても、「アッチョ、イヤ、ソーリー、スミマセン」とか言っていなくなるし。


その辺のガキに話しかけたら変質者扱いされるし。


おかしくない?


まあそれはどうでもいいや。郷に入っては郷に従えと言うものだし、それが日本のデフォルトだと思っておくことにしたからな。




さてさて、そろそろ夕暮れ時。


酒場にでも行って一杯ひっかけていくか!などと思い、酒場を探す。


うーん、この辺は歓楽街なのかな?


娼婦が多いな。


飲んだ後に一発やっていこうか。


鑑定すれば病気かどうか分かるんだしな。


っと……?


「はぁい、お兄さん?私と遊ばない?」


おっと、娼婦。


んー……。


まあ、顔はそこそこ良いんじゃない?垂れ目がちのセクシーな顔。化粧が上手いから誤魔化されそうだが、流石に全盛期のマリリン・モンローよりは劣る。


それでも全然綺麗だよ。良い女だ。


そりゃマリリン・モンローには勝てないさ。


まあ、俺のイチオシはローレン・バコールだがね。


『三つ数えろ』って古い映画を知ってるか?それに出演してたんだよ。


キリッとした女でさ、強かで、機知に満ちている。


ああ言う女をベッドの上で鳴かせるのが堪らなく良いんだよな。


そんなことを一瞬考えて……、俺が「良いよ、ついてきな」と言う前に、娼婦の女は俺の腕を掴んできた。


「へえ、積極的だな」


「貴方みたいなかっこいい人を逃したら、一生後悔しそうだもの」


「そうだろうなあ」


うーん?


何かの詐欺かね?


まあ、そうだとしても罠ごと食い破れば良いんだから、どんどん引っかかっていこうぜ。




その後、女に、おすすめの酒場があると言われて、そこに行くと……。


「おっ」


柄悪い奴多いなー。


無視してカウンター席に座る。


すると……。


「おい、テメェ」


「あ?」


チンピラが話しかけてきた。


無駄に筋肉をつけたケツアゴ野郎だ。


袖のないタンクトップのような服、腕に刺青、首には金の首飾りがじゃらじゃら。


「その女、誰の女だか分かってんのか?」


「今は俺のだ」


しかし……。


「あ"ぁ……?そいつは俺の女だぞ?鰐の顎団の幹部である、このバイケン様のな!」


ふーん?


女を見る。


「あなたぁん、この人が無理矢理私を連れ回したのぉ〜」


ははーん?


「美人局か!こんな古臭い手段、日本じゃもう見ねえぞ?!」


「何言ってんだかわかんねぇがよぅ、俺様の女に手を出して、タダで帰れると思ってんのか?お?」


うーん。


「なあ、姉ちゃん」


俺は女に話しかける。


「……何かしら?」


「こいつより俺の方が顔がいいだろ?俺に乗り換えねえか?」


「そうかしら?バイケンもハンサムな顔してるわよ?それに、私は強い男が好きなのよ」


ああ、そうか。


「じゃあつまり、こうすりゃいいのか」


「ああ……?へぎょ」


俺は、バイケンとか言う男に、ノーモーションからアッパーカットを決める。


バイケンは、百数十キロはありそうな巨体が三メートルほど浮かび上がって、酒場の天井をぶち抜いた。


そして、降ってきたバイケンの首を掴んで、女の前に突きつける。


「ほら、見ろよ姉ちゃん!こいつの顔は、こいつのお袋でももう見分けがつかねえくらいにぐちゃぐちゃでブッサイクだぜ?そして、こいつを潰した俺はこいつより強い!な?俺の方が強くてハンサムだろ?俺に乗り換えねえか?」


「は、ひ……!!!きゃあああああああああっ!!!!!」


女の金切り声が響く。


すると、その光景を薄ら笑いを浮かべながら見ていた酒場のチンピラ共が、武器を抜いて叫んだ!


「バイケンの兄貴がやられた!」


「囲め!」


「やっちまえ!」


「ぶっ殺せ!」


なるほど、美人局だけじゃなく、この酒場そのものがトラップってことか。


「まあ、だから何だって話だが。おらっ、かかって来いクズ共!!!」




目ん玉金玉、ついでに相手の肝っ玉もぶっ潰して、おまけに面子もぶっ潰す。


腕をへし折り足をへし折り、生きてるのが不思議なくらいに半殺し。


数十人いたチンピラの群れは、全員が、自分の口から漏らした血反吐に塗れながらぶっ倒れた。


「んー……!運動すると清々しい気分になるなぁ」


ん?


隅っこの方で娼婦の姉ちゃんが震えてら。


逃げてなかったのか?ラッキーだね。


「おい、姉ちゃん」


「ひいっ!!!や、やめて!許して!命令されてただけなの!!!」


はっはっは、そんなこたぁどうだっていい。


「で?バイケンは……、ああ、いたいた。踏まれてボロ雑巾だな、ははは」


俺は、死にかけて白目を剥いているバイケンの頭を掴んで、姉ちゃんの前にぶん投げる。


「ひ、ひいいっ!もうやめて!謝るから!騙してごめんなさい!」


「バイケンと俺、どっちかハンサムだ?」


「あ、貴方よ!貴方の方がハンサムよ!」


んー。


「バイケンと俺、どっちが強い?」


「貴方、貴方よ!貴方はとっても強いわ!」


んーんーんー。


「じゃあ、バイケンと俺、どっちが好きだ?」


「……あ、貴方よ」


「よし!これで俺は、寝取ってないってことになるな!姉ちゃんが自分の意思で、バイケンから俺に乗り換えたんだからな!」


「え、ええ、そうよ!」


「じゃあ、デートの続きだ。隣でお酌してくれよ」


「わ、分かったわ……」


姉ちゃんを隣に座らせる。


「おい、バーテン!」


「は、は、はい」


バーテンもどうせグルだろ?


「この店で一番いい酒を出せ。代金はバイケンにツケといてくれ」


「ひ、は、わ、分かりましたあっ!!!」


ま、そんな感じで軽く酒飲んで、今日の観光は終わりよ。

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