第12話 喧嘩っ早い子には英雄の素質があるよね

「いてててて……」


ベッドが固え。


ハンモックにすりゃ良いのに、なんでわらのベッドに?


まあ良いか。


さて、宿は一晩五千円のところに泊まったのだが、まあ酷かった。


だが、このくらいなら、親父と行った南米の謎部族の調査による二ヶ月の旅。あの時の方がキツかったし、俺にはなんのダメージもない。


いやあ、あの時はヤバかったな。


なんか、よく分からん石でできた仮面を被ったら、いきなり目からビーム出すようになった謎の原住民がクソ強くて、最終的に俺と親父でクロスボンバー決め込んでさ。で、朝になって太陽の光を浴びたらなんか灰になってさあ……。


よく分からんね、まあ夢でも見てたんだろ。


で、朝飯!


……黒パンだ。


黒パンと、臓物ソーセージのぶつ切りが入ったシチュー。


それとチーズふたかけらと、エール。


朝からエールである。


未成年?異世界だからセーフでしょ。


あ、日本人はシチューと言えば、牛乳が入った白いのを想像するだろうが、海外やこの世界でのシチューと言えば、塩肉じゃがみたいな感じだ。


ポトフ的な……?いやコンソメほど繊細な味はしてねーけどもさ。


臓物のミンチが詰まった黒いソーセージのぶつ切り、それとキャベツとにんじん、レンズ豆の入ったスープだ。


味付けは……、ローリエと……、ワインビネガーかな?それと塩。セージもがっつり入ってるんだが、その風味が臓物ソーセージのモツ臭さを軽減してくれている。


うん、うん。


まあ割と美味いぞ。


やっぱりこう、モツの臭さはあるんだけど、ハーブ多めだと気にならないね。


ワインビネガーの酸味が爽やかで良いなー。


あ、エールはクソ不味かったです。




チェックアウト。


観光タイム!


「城壁の上って登れねーの?」


俺がセシルに問いかける。


折角だし、高いところから街を一望したいじゃん?


「無理だ。町の防衛に関わるから、兵士しか登れん」


「あー、そっか」


現地政府からNG出ちゃったかー。


そう言われるとどうしようもねーなー。


んじゃ、街でも歩くか。


さっき食べた宿屋の朝食は少なかったしな。


食べ歩くか。


まず、ここ。


「こりゃなんだい?」


「知らねえのか兄ちゃん!こいつは、ウルカストル名物の『ラッセル塗りパン』だぜ!」


茶色いペーストが塗られたパンだ。


「ラッセルってのは?」


「むかーし、このウルカストルの長をやっていたラッセル伯爵って人がいてだな!そいつが発明した料理だって言われてんだ!」


「へえ、作り方はどんなんだ?」


「お貴族様には精進日ってのがあんのは知ってるか?なんでも、精進日には、動物から取れるものは食っちゃならねえらしい。だが、ラッセル伯爵は相当に食い意地が張った奴でな、精進日にも大好きな豚が食いてえって思ったんだよ」


「ほうほう」


「それでな、ひよこ豆をすり潰したのに、ラードを混ぜるんだ。すると、見た目は豆のペーストで精進料理にしか見えないんだが、味はラードの味だ。で、ラッセル伯爵はこいつを精進日のたんびに食うようになったんだ」


ははあ、なるほどなあ。


「でもな、ラッセル伯爵は結局、後で精進日破りを坊主にバレちまって、腰が抜けるほどどやされたらしいぜ!ははは!」


「そりゃ面白いな、一つくれよ」


「おう!三百フリンだ!」


味は……、うん!美味えな!


ひよこ豆をラードで伸ばしたペースト。美味い。


ほんのり塩味で濃厚だ。


無限に食える味してるぜ。




別の屋台へ。


「おい兄ちゃん!ウルカストル名物はどうだ?」


「ん?さっき食ったぞ?」


「『ラッセル塗りパン』がウルカストル名物ぅ?はっ!バカ言っちゃいけねぇ!本当のウルカストル名物はこれだ!」


串焼肉だ。


「こりゃなんだ?」


「マムートの肉だよ!知らねえのか?」


「知らねえなあ」


「良いか?マムートってのは、この辺にいるデッカいモンスターだ!見た目は、長い牙と長い鼻を持つ毛達磨だが、こいつの肉が美味いんだよ!」


へー?マンモス的な?


「じゃあ一つくれ」


「よし!六百フリンだ!」


もぐ。


お!結構美味い!


筋だらけの見た目なんだが、筋は全然噛み切れるし、脂も乗ってて美味いな!


アフリカで象を食ったことがあるが、アレに近いかな?


胡椒を振ると美味いと思うんだが……。


「胡椒はないか?」


「胡椒?ははっ!こんな場末の屋台にそんな高価なもんがある訳ねーだろ!」


へえ、高級なのか。


後でセシルに聞いてみよう。


あ、言い忘れてたけど、セシルは冒険者ギルドの方で仕事してるみたいだ。


しばらくはこの街に滞在するし、宿も俺が今日泊まったところと同じとこに泊まるらしい。


それに、セシルは千里眼のスキルがあるから、この町の範囲内ならどこにいても見つけてくれるそうだ。


「おい、兄ちゃん!これはどうだ?今朝とれたての『ペリエの実』だ!」


「おー、買おう」


んー?何かこう、オレンジ的な?


「あんちゃん!こっちの『焼きヴルスト』はどうだ?うんめぇぞ〜!」


「買う買う」


ソーセージだ。


んんっ、ラードの細切れと臓物がたくさん詰まってるな!


これはこれで美味い!


「マスタードとかないの?」


「何だそりゃ?」


ないのね。




そうやって買い食いして回っていると……。


「おい兄ちゃん、景気が良さそうだな?」「ヒヒヒ……」「くけけ……」


人相の悪い男達に囲まれた。


ああ、物盗りか。


よくいる、よくいる。


治安悪いなあ。


「ああ、景気は良いぜ、最高だ」


「それじゃ、オレ達にもその景気の良さを分けてもらおうじゃねえか!ぎゃはははは!!!」


「へえ」


なるほどな。


「なあ、聞きたいんだが」


「あ?なんだぁ?」


「物盗りってのは、間違って殺しちまっても罪に問われたりするのか?」


「……てめぇ、舐めてんのか?」


「ん?ああ、舐めてるよ?だってほら」


俺は拳を突き出す。


「はぁ?何だそりゃ?」


それをゆっくり引いて……、目の前の男を殴り飛ばす。


「ぁ」


「うわ!やっべー……、ステータス効果を甘く見てたなー……。かなり手加減したんだが、ありゃ死んじまったか?」


十メートルくらいかっ飛んだぞ。


「ひ……?!」「お、お前」


「ん?やるのか?」


「お、お前、オレ達が誰だか分かってんのか?!」


「知らんけど」


「オレ達は『鰐の顎団』だぞ?!分かってんのか?!」


「知らねーって。何だそれ?」


「て、てめえ」


「で?やるのか?」


「お、覚えてろ!」


何だ?マフィアがなんかか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る