第7話 あ、帰ってきた!おお、戦ってる戦ってる!

「僕は御白瑠衣!ルイルイの名義で女装ユウチューバーもやってるよ!」


「私は黒崎香苗。瑠衣の彼女で、撮影役をやってる」


瑠衣は、ピンクのフリフリのゴスロリを着た、白いロングヘアの美少……男だ。あの長髪は自前らしい。彼女より小さい155cmほどの小柄な男。


香苗は、短パンデニムに英字シャツ、シルバーアクセジャラジャラで、ピアス、茶髪に赤のウィッグをつけたロックミュージシャンみたいな女。


「俺は薬研理玖。来月に冷泉高校ってところに入学する」


「「えっ!」」


ん?


「奇遇だね!僕達もおんなじ高校に入学するんだー!」


「おお、そうなのか」


「ここで会ったのも何かの縁だね!友達になろうよ!イソスタのID教えてー!」


イソスタのIDを交換した。


「あれ?そっちのエルフコスプレの人は?」


セシルに目を向ける瑠衣。


「こいつ?まあ、知り合い」


「ふーん、そうなの?お名前は?」


「kvjokikvfca?」


あ、やべ。


こいつ、そういや、異世界語しか話せんのだな。


「うわ!外国人?!」


「そうだ。こいつはセシル、エルフだ」


「そっかー、よろしく、セシルさん!おいくつですか?」


「お前何歳?」


セシルに異世界語で話しかける。


『ん?ああ、私は今年で五百六十だ』


「五百六十歳だとよ」


と、俺が日本語で説明してやると……。


「え?あはははは!凄いね!そういうキャラ設定なのね、はいはい」


と、冗談だと受け取られた。


「二人はどうしてアキバに来たの?コスプレしに?」


と、瑠衣が訊ねてきた。


「いや、実は近々、異世界に行く予定なんだが、俺はこういう服しか持ってなくてな。異世界向きの服がないかと探してるんだ」


俺は、Tシャツに描かれた『SUSHI』のイラストを見せてやる。


「異世界に……?ああ、そういう設定のコスプレだね?確かに、セシルさんみたいなクオリティの高いレイヤーさんとイベントに出るなら、クオリティの高いコスを揃えないとだね。よーし!手伝わせてよ!」


と、俺の手を握る瑠衣。


「ん?手伝うとは?」


「僕はコスプレには一家言あるからね!良いお店とか教えてあげる!」


「おお、助かるわ。だが、良いのか?デートとかしてるんじゃ?」


と、俺が気を遣うと……。


「んーん、別にデートとかじゃないよ、今日は。さっきまでスタジオで撮影してたの」


とのこと。


「なら、付き合ってくれよ、にいちゃん」


「むむ!どっちかと言えば嬢ちゃんと呼んでほしいよ僕は!」


ええー……。




「へえ、じゃあお前、かなり人気があるんだな」


「うん!金額的にはもう、遊んで暮らせるくらいには稼いでるからね!一応、大学は出たいとは思うけど……」


「動画配信って儲かるんだな」


「まあ、素人がやって稼げるほど甘くはないけどねー」


俺は、瑠衣と話しながら道を行く。


四人で、瑠衣おすすめのコスプレ用品店に入って……。


「これなんか良いんじゃない?」


『どうだ、セシル?』


『ふむ、亜麻か?大麻の布よりかなり高価だが……、金持ち商人のドラ息子とでも言えばごまかせるはずだ』


「OK、こいつを買おう」


亜麻の冒険者っぽい服があったので、それを購入。


茶色の無地シャツ。地味なデザイン。これに、白革のズボンと革靴を合わせて、その上に鹿革製のチャコールグレーの外套と、赤い腰布に黒いベルトをつけた姿にコスプレする。


これは、アサシンブリードなるゲームのコスプレ衣装らしい。


「ふわー……!めっちゃ似合うね、理玖君!理玖君は体格がいいし、背も高いし、おまけにイケメンだから、何着ても似合うよ!」


「はっはっは!そうかそうか!」


俺は瑠衣を撫でながら、服を購入して外に出る。


「うん、まあ、こんなもんだろ」


替えの服もたらふく買って、買い物は終了。


異世界に行くことにした。




「異世界ウオオーッ!」


来た。


秋葉原で、路地裏に入ると見せかけて、セシルと二人で転移。


そして、例の森の中まで転移してきたって訳。


「じゃ、案内頼むぜ」


「ああ、任せろ」


と、移動を開始。


その道中で、この世界についての説明を受ける。


ここは、ヘロス州旧ハリオーのリードバーグ王国。


この大陸は、立ち上がって吠える獅子のような形をしている。某外車メーカーの一昔前のエンブレムみたいに左を向いているとのこと。


ヘロス州は、獅子の上側の前足の先端を指す領域で、この辺の臨海部をハリオーといい、そこをリードバーグ家という小さな王朝が支配している。


地域的にはマナウェイという。


この辺の風土は、軽く見た限りではイングランドに近い。


ということは、植物の植生も、その植物を食べて生きている動物も、イングランドに近いであろうと当たりをつけた。


セシルの話では、隣の州や、船でしばらく行ったところにあるリーシア地方……、獅子の前足の下側の地域や、アギト地方……、獅子の顎の部分の地方などからも人が来るらしい。


とは言え、基本的には人があまり移動しない社会ではあるようで、「旅行」という単語がないくらいには、世界は未開拓だそうだ。


最近では、北方から、比較的暖かいこのマナウェイ地方に移民が来ているそうだ。デーン人かな?


ついでに言えば、獅子の形をしたこの大陸の食道部分には、クソでかい山脈があり、山脈以北の獅子の背中の部分には、まだ何があるのかわかっていないらしい。


セシルの出身地は常盤の森と言うところで、獅子の腹部であるポリゾナ地方にあるそうだ。


なるほどな……、中々に面白い。


世界は違えど、似たような風土なら、似たような現象が起きるんだな。


などと考えていると……。


「止まれ!」


セシルが叫んだ。


「どうした?」


「モンスターだ、来るぞ!」


ん……、ああ、本当だ。


赤い瞳をした狼がこちらを見ている。


とは言え、俺は丸腰だ。


素手で野生動物は殴りたくない。


あ、そうだ。


「そら!」


俺は手刀で木を切り、それを持つ。


「丸太!」


『ギャン!!!』


針葉樹で狼をぶん殴り、叩き潰す。


「めちゃくちゃだな貴様はぁ?!!」


目を白黒させるセシルを他所に、俺は木で狼をボコる。


「丸太アターック!」


『ギャイン!!!』


「アタタタターック!!!」


『ギャン!!!』


狼は、仲間が一瞬で叩き潰されて恐れをなしたのか、逃げて行った。


「勝った!」

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