第8話 やっと街に入ったよ……。
「勝った!」
俺が叫ぶ。
セシルは、それを冷たい目で一瞥した後、潰れた狼の死体を漁った。
「ええ……、狼の肉とか不味いと思うんだが」
俺は、ドン引きしながらセシルに提言。
しかしセシルは……。
「違う、魔石だ」
と言って、狼の死体から、小指の先ほどの小さな赤い石を取り出す。
「何これ?」
「魔石だ」
「いや、魔石って何よ?」
「貴様の世界にはないのか?魔力の結晶だ」
「何それ知らん……、怖……」
魔力の結晶。
使い道は魔導具の燃料になったり、でかい魔法的な儀式に使ったりするそうだ。
魔導具ってのは魔法の道具で、セシルも魔法のランタンを持っていた。
魔法のランタンには、魔石を中に放り込むと、さっきの『フォレストウルフ』の魔石一つで一晩くらい光っててくれるらしい。
ほへー、なるほどなあ。
普段は、冒険者ってのが、モンスターを退治して治安を維持すると同時に、インフラのエネルギー源である魔石を集めるんだとさ。
よくできてるねこりゃ。
だがしかし、インフラのエネルギー源を施設ではなく人力で確保ってどうなん?とも思わなくもない。
まあ何にせよ、この魔石。
小指の先ほどの大きさでも、食事2、3回分にはなるらしい。
となると、一つ千円から三千円くらいだろうか?
いや、自炊してまとめて作ればもっと安く……。
とにかく、これで一万円分くらいは稼いだ感じらしい。
「ほら、持っておけ」
そう言って、魔石を手渡してくれるセシル。
「おお、ありがとよ」
俺はそれを、コスプレ用品店で買った革袋に入れた。
「全く……、次からはもっと綺麗に殺せよ?解体が面倒だ」
「あー、なんか武器が手に入ればな」
武器か……。
格闘技はちょっとやったが、武器は全然扱える気がしねえわ。
適当にハンマーとか買おうか。刃物は使える気がしない。
いや、ポーション生成を活かせるような武器を……、って、そんなもんあるか?
まあ、適当に考えておこうか。
「武器か、それもそうだな。しかし、呆れた怪力だ。神になる前の人間、と言うのも本当のことらしい」
「ん?ああいや、このパワーは副産物だ」
「副産物?」
「俺のユニークスキルはポーション生成で、筋力が上がるポーションを作って飲んだって話」
「なんだと?!筋力が上がるポーション?!」
「おかしいか?」
「当たり前だ!ステータス向上系のポーションはエリクサーの次に貴重だぞ!」
「エリクサーってのは?寿命でも伸びるのか?」
「知っているのか?そうだ、エリクサーは、死者すら蘇らせ、どんな難病も治療して、どんな怪我も治す。そして、怪我をしていないときに飲めば若返ると言われる、伝説の霊薬だ」
ふーん。
「それって、こんなの?」
生成、エリクサー。
「……馬鹿な。貴様、それは」
「エリクサー。作れるみたいだ」
「エリクサーを、作れる……?」
「ああ、それと、この世界を移動するスキルも、ポーションを飲んで手に入れた」
「スキルが身につくポーション?最早意味不明だ……」
セシルは、頭痛を堪えるように眉間を揉んでから、頭を軽く振って、俺にびしっと指をさした。
「とにかく!そのユニークスキルについては誰にも喋るなよ!そんなことができると知れたら、貴様は一生籠の中の鳥だ!」
「分かってるさ、誰にも言わねえよ」
多分……、覚えてたら……?いや言いそうだな。まあいいか。
そんな話をしつつ、街に到着。
この街はバルファと言う街らしい。
城塞都市で、街に入るのに、一人につき銅貨三十枚持っていかれるとのこと。
入門料ってやつだ。
とは言え、冒険者はこの入門料を免除されるそうだ。
冒険者は頻繁に街の外に出てモンスターを狩るからな。それに、護衛だなんだと街から街へ移動することも多い。
その代わり、冒険者は、冒険者ギルドという冒険者を管理する組織の命令に従わなくてはいけないらしい。
セシルは冒険者ギルドに入っているそうだ。
だが、話を聞いた限りでは、色々と決まり事があるらしくてめんどくさそう。
冒険者ギルドはやめておこう。
俺は当然、ギルドになんて入ってないんで、大人しく入門料を払った。
魔石払いでも良いらしく、フォレストウルフの魔石を一つ渡すと入門を許可された。
自由の対価があの雑魚狼の魔石一つなら、今後も冒険者ギルドとやらに入る必要はないな。
にしても、入門料で三千円くらいか。
んー……、まあ、首都高の料金とかの方が高い、か?
セシルが言うには、隣町まで馬車で一刻くらいらしい。
馬ってどれくらい速いのかちと分からんが、原付よりも遅いだろうな。馬はやっぱり、一日中走れないだろうし、馬車ともなれば重い車体を牽くのだから、遅いはずだ。
だが、人が歩くのよりは速いはず。
人は時速五キロくらいらしいね。原付は時速三十キロが法定速度。
なら……、まあ、時速十五キロくらいかねえ?
時速十五キロで二時間移動するとして、二掛ける十五。
隣町までの距離は三十キロメートルってところか。
もちろん、これは多めに見積もった概算だから分からんがね。
今まで道を歩ってきた感じだと、道は未整備で、治水もなされていないように感じた。
実際の距離はもっと近い……、半分の十五キロメートルくらいだろうな。
「因みに、隣町ではなく、隣国だ」
「え?マジ?」
あー?あ、そうか。
中世でも前期の方くらいの文明だと、分割されたりなんだりで、日本の都道府県くらいの大きさの国がいっぱいある感じなのか。
「トドーフケンというのはよく分からんが、このマナウェイ地方だけでも三十を超える国々が存在している」
ほへー。
大変そうだなー。
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