第5話 勘弁してよ、そっちの世界は管轄外だから上手く覗けないんだ

エルフのセシル・プルートを仲間にした。


長い耳は言わずもがな、金の御髪に北欧風の顔。御髪の方は、女のように長く伸ばした髪をオールバックにしている。


身長が高い俺より少々小さい上背に、細く引き締まった肢体。その身体は、無駄な脂肪は一切ないが、無駄な筋肉もない。


背中に背負うのは、モンゴルの騎馬民族のような短い弓。それと、腰に矢筒と、柄に翡翠が嵌め込まれた、短剣よりは長く剣よりは短い刃物を帯びる。


若竹色の鮮やかな緑衣を纏い、その上から革製の……、まあ、恐らくはモンスターの革の部分鎧を身に纏う。クソ、カッコいいじゃねえか。


しかし、その上から、茶色の獣革のフード付き外套を着込んでいるので、見た目は怪しい人だ。


うーん……。


「なあ、セシル」


「何だ?」


「俺の格好って、おかしいか?」


今の俺は、ジーパンにハイカットスニーカー、胸元に寿司の絵と『SUSHI』と書かれたネタTシャツ、それにミリタリー系のジャケットという出で立ち。


ひょっとして、この世界にミスマッチなのでは?と思い、訊ねると。


「おかしいな」


即答であった。


「ただの旅人が着るにしては質の良い上着、見たことのない生地の服。そして、精巧な作りの靴。その姿で街に行けば、怪しまれるだろう」


とのこと。


なるほどな。


「じゃあ、服を買いに行くか。お前もついて来い」


「……え?」




木を隠すなら森の中、コスプレを隠すなら?


「答え、秋葉原、と……」


「な、ななな、何だ?!どこだここは?!」


俺は、世界線移動のスキルを使って、日本へと移動した。世界線を移動できれば、転移も容易い。


「おい、セシル。離れるなよ、ここで迷ったら終わりだぞ」


「う、うむ。って、待て!本当にどこだここは?!」


「地球だよ、俺の世界だ」


「な、何と……。ここが地球……?」


セシルは、秋葉原のビルを見回す。


「天を衝くような摩天楼、つなぎ目のない石の建物、チカチカと光る看板、リードバーグの王都よりも人に溢れている街……。なるほど、まさに異世界だ」


納得したようだ。


「ここは、秋葉原という街だ。見ろ、お前みたいな格好のやつがいっぱいいるだろ?ここなら目立たない。ここで、俺の服を選ぶぞ」


「うむ。彼らは冒険者か?」


冒険者?


「いや、コスプレイヤーだろ」


俺は、この世界には、モンスターとか出ないんで、みんな遊びで、偽物の武装を着込んでカッコつけていると伝えた。


「そうなのか、そういう遊びか。貴重な布と染料を無駄にして遊ぶのか……。この世界は、呆れるほどに豊かなのだな」


うーん、そうなのか?


日本人は貧しくなったとは聞くが。


まあ、セシルの話を聞いた限りでは、異世界……、名前を『エンデリス』というらしいが、エンデリスは、地球でいう10〜14世紀くらいのイングランドっぽい世界であるらしい。


それと比べたら、地球なんて「呆れるほどに」豊かに見えるかね。


「さて、まずは飯にしようぜ。お前、食えないもんとかある?」


「いや、特にはないが」


「そんならまあ、適当にどこかで済ませるか。いや待て、お前、油物とか食えんのか?エルフだし、生野菜しか食えないとか言いそう」


「何だその偏見は。エルフは古来から、狩猟によって生きてきた民族だぞ。肉の方が好きだ」


「本当かー?」


「本当だぞ。むむ、肉の焼ける香りだ!リック!私は肉が食いたい!」


まあ、そう言うなら……。


と言う訳で、焼肉屋に入店。




財布には三十万円、カードもある。


金の心配は要らんな。


「好きなもん頼んでいいぞ」


「字が読めん」


「あー。えーと、ここでは、牛、豚、鶏の肉と、野菜と、米、あと酒が飲めるんだよ」


「ほう、そうか。しかし……、牛の肉は不味いぞ?」


「ああ、そっちの世界じゃ、老いて働けなくなった牛を食うんだろ?こっちでは、最初から食うために太らせた牛を食うんだ。だからうまいぞ」


「牛を太らせる?なるほど、面白そうだな」


という訳で、ビールと肉、俺はご飯特盛りと冷麺特大を頼んだ。それと、サラダを適当に。


「「乾杯!」」


え?未成年?!何のことだかわっかんねーわ!ごめんねごめんねー!!!!


見た目が歳食ってるとこういう時に得だよなぁ!!!!


「っぷはー!ウメェーっ!!!」


「ふはあっ……!これはとてつもなく美味いな!良い酒だ!しかも、よく冷えている!」


ピッカピカの笑顔を見せるセシル。酒、好きなのかね?


「あー、やっぱり、あっちの酒はまずいのか?」


「ああ、まずい。これと比べれば、馬の小便だ」


おっ、良いね。馬の小便みたいなエール。ファンタジーな表現だ。


そして、肉とサラダが来る。


「ほれ、テメーも肉を焼くんだよ!食うだけのやつは許されねーぞ」


そう言って、トングを押し付ける俺。


「うむ、こうか?」


「そんな感じ」


そして、肉を焼いている合間にサラダを食う。


あー、うめー。


俺は肉も好きだが野菜も好きなんだよ。


嫌いなものは特にない。


「これは、生の野菜か?食っても平気なのか?」


「あ?食えないもんを出す店があるかよ」


「ふむ……、農村では、新鮮なものなら生の野菜を食べることがあるそうだ。む?これは……、キューカンバか!すごいな、高級品だぞ」


ふーん。


「しゃり……。おお!美味いな!青々しい仄かな苦味と、植物の甘みが感じられる!それでいて、えぐみが一切ない!」


「そりゃそうだ。農家の皆さんが頑張って品種改良した野菜だぞ。美味いに決まってる」


「これは美味い……、美味いな」


「お、肉が焼けてきた。食え食え」


俺は、肉を一口食って、山盛りのご飯をかき込む!


……よく、焼肉の時に白飯を食うのはガキだけ!みたいなことを言う奴がいるが、それは白飯が腹一杯食えなくなった老耄だけってそれ一番言われてるからな。


おろしニンニクぶち込んだタレに脂っこいカルビをワンバウンドさせてから、タレで色がついた白飯をガバっとがっつくのが礼儀。


異議は認めねえ。


「うめーっ!」


「むおお……!これが牛の肉だと?!こんなにも違うものなのか……」


そう言って、腹一杯飯を食った……。

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