第4話 うんうん、その調子で僕の世界で旅をしたまえ
「本当に、ロマリエル様がそう言ったのだな?」
信心深いのかね?
あーんなシステマチックな天使に「様」!だなんて。
小粋なジョークの一つも飛ばしてくれやしない、あの愛想のない天使が、「様」かい。
アメリカの入管の方がまだマシだぞありゃ。
いやごめん嘘ついた。
アメリカの入管の方がクソだ。謝る。
「ああ、まあ、俺はその創造神ゼロとやらを知らないからな。よって、その天使も知らない。だから、本物かどうかも分からない」
「どんな……、ロマリエル様は、どのような姿をなさっていた?」
エルフ君がそう問いかけてきた。
どんな姿?
うーん、そうだな。
「服は着てなくて……、何枚も生えてる羽で、顔と身体を覆っている、ミノムシみたいな奴だ。人に顔を見せないなんて、相当ひどいツラをしてるんだろうな」
「馬鹿者!何を言うか!いいか、ロマリエル様はだな……」
軽く聞くと、「顔のない天使」ってことらしい。
顔がないってことは「無私」を表していて、私情を挟まずに神の命令を聞く忠実なシモベ、ってことだそうだ。
全てを捨てて神に仕えるってことか。
なるほどなあ、この世界の神話も中々に厨二病だなあ。
まあ、聖書もなろうの三流ラノベみたいなもんだし、そんなこともあるでしょ。
「……と、まあ、こんな感じだ。貴様、名は?」
「俺?俺は理玖」
「リックだな、良い名前だ」
「えっ、何で急に態度良くなってんの?怖……」
「いや、リックとは、古いエルフの言葉で『宇宙』という意味を持つ。大変に縁起が良い言葉だ」
ふーん、そうなの。
「それで……、リックよ。貴様は、どのような使命を受けて、この世界に来たのだ?」
「何も言われてない。あの天使サマは、何の説明もなしに、いきなりチート能力なるものを押しつけて、そのままこの世界に飛ばしてきたんだ」
「チート能力?」
「ああ、ユニークスキルってのを……」
「ユニークスキルだと?!!!」
うお、急に耳元で叫ぶな!
俺の鼓膜はビッチの処女膜のように薄いんだ!
「ユニークスキルと言ったか、貴様!」
「そうだよ」
「『彼方の者』にして、『天稟持ち』となると、それはつまり、『神人』ではないか!」
分からん分からん。
変な固有名詞を出すな。
「何の話だ?」
「神人とはつまり、神の候補者だ」
あー?
つまりは、天皇陛下のようなものか?
「ユニークスキル、つまりは天稟を持ち、遥か彼方から来たりし者。それは、この世界で功徳を積み、死後に新たな神となるのだ」
「へえ」
「人の手によって召喚された、『勇者』などという紛い物ではなく、ロマリエル様の手で召喚された純粋な神人の降臨は、実に千年ぶりだ」
ふーん。
「しかし、神人か……。その馬鹿げた魔力を持つのも納得だな」
「魔力?」
「気付いていないのか?恐ろしいほどの魔力を撒き散らしながら歩いておいて?」
あー?
ステータス上げ過ぎたか。
偽装ポーション生成っと。
「むっ?!何だ?!いきなり、魔力が人並みになった?!」
「ああまあ、なんかこう……、あれだよ、ユニークスキルで偽装したんだ」
「なるほどな。あらかじめ言っておくが、あまり目立たぬ方がいい。我々エルフは、世俗のことに執着しないが、人間は違う」
ふむ、その辺は俺でも分かるぞ。
俺がこいつの言う通り、神候補だとしたら、いろんな奴が利用しようとしてくるだろう。
バレたらめんどくさいことになるな。
「なるほど、よく分かった。神人であると言うことは誰にも話さない」
「うむ、その方がいい」
うん。
「……その、それで、貴様は何を為そうと考えている?」
「何を為す?いやいや、旅行だよ。二週間後には高校が始まるからな、しばらくここいらを見て回ろうと思って」
「旅行、とは何だ?」
旅行の概念がないのかな?
「えーと、娯楽目的の旅だ。この世界にもあるはずだろ?綺麗な古代遺跡や、大きな城、涼やかな自然とかな」
と、俺が言うと……。
「娯楽目的の、旅……?功徳を積もうとは思わないのか?」
「そうだな。悪いが、積極的に良いことをするつもりはない」
「ふむ、神人も、初めはそんなものなのかもしれんな。貴様も、いきなりこの世界に来て戸惑っているだろう。そこで、いきなり功徳を積めと言われても困惑するはずだ」
せやな。
「だが、ロマリエル様は間違いなく、貴様を選んでくださったのだ。貴様はこの世界で功徳を積み、神になる運命にある」
運命、運命ときたか。
「俺が望む望まざる関係なしに、俺が自由に生きたら、功徳ゲージが溜まって、やがて神になる、みたいな?」
「げーじ?まあ、そんなものだな」
なるほどなあ。
「……もし、良ければ、貴様の旅とやらについて行っても良いだろうか?」
ん?何だいきなり?
「別に構わないけどさ、俺、学校が始まったら旅のペースが遅くなるよ?」
「学校?学校とはあれか?人間が通う……?」
「そうだよ、この世界から地球に戻って、学校に行かなきゃならない」
「待て!お前、今何と言った?!この世界から別の世界に戻る、だと?!」
おお、びっくりびっくりー。
「ユニークスキルの力だ」
「な、なるほど?ま、まあ、ユニークスキルは、この世界のスキルでは考えられない力があるそうだからな。然もありなん、と言ったところか」
「まあ、そんな感じで、俺は定期的に地球に戻る必要がある。それでもよければついて来い」
「構わん。私はエルフだ。人間のようにせかせかと生き急いでいない。ゆっくりとした調子でいい」
ふーん。
「ああ、そうだ。言い忘れていたな」
「何だ?」
「セシル・プルートだ」
「プルート?縁起が悪い名だな」
「何故だ?エルフの古い言葉で青い星を意味するのだが」
「こっちでは冥府の神の名前なんだよ」
「なるほどな」
「っと、もう一度名乗っておく。俺はリック。そうだな、リック・レーゲンだ」
外国人に名乗ると、大抵はリック・レーゲンと呼ばれる。
だから、それでいいかと思った。
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