第10話 異音修理は難しい
皆さんこんばんは、夏目漱一郎です。
今日ご紹介する作品は、ショートショートのコメディ作品です。
【ショートコメディ福袋】
https://kakuyomu.jp/works/16817330669343696196
これは、以前に書いたコメディの短編を6作品まとめて一つの短編集にまとめたものなんですが、僕はどうもこういう短い作品はバラバラに公開せずに一つにまとめて短編集として公開したくなるんですよ。そうすれば、読む時もそのつど作品を探す手間が省けると思うんです。
ところがカクヨムでは結構頻繁にKAC2024のようなイベントをやりますよね。あれに参加するとどうしても単発の短編ばかりがどんどんと増えていってしまうんですよね。しかし、あとで『皆勤賞』に景品をプレゼントとか言われてしまうとそれらをむやみにまとめられないのですよ。これらはまたほとぼりが冷めてから整理しようかなと思います。このショートコメディ福袋はお正月用に作ったものですが、ゴールデンウイークの読書にもピッタリの気軽に読めるお笑い短編集ですので、よかったら読んでみてください。
そして、いよいよ5月1日からチャリパイのファイナルエピソードが公開されます。今せっせと下書きを書いていますが、チャリパイ以外の作品を非公開にしていたのも、こうやってエッセイを書いて注目を浴びようとしているのも、全てはこのチャリパイファイナルエピソードの連載を成功させる為にやっている事です。今度のファイナルエピソードは今までのチャリパイシリーズの作品のなかでも最高傑作になる予感がします。ぜひとも公開を待って連載を追いかけていただけたらと思います。
さてこのエッセイ、車の話ばかりで恐縮なんですが、今日も車の話です。
僕は長年整備士として自動車の修理を仕事にしてきたんですが、自動車修理の中でも難しいと言われるのが異音の修理です。自動車も機械ですから動いていれば音が出るのは当然なんですが、明らかに通常と違う音や大きすぎる音などドライバーが不快に感じる音が出ないように原因を突き止めて修理するのが整備士の仕事です。
その日僕はお客様から異音の修理を依頼されました。といっても依頼してきたのはお客様本人ではなくお客様から車を預かってきたセールスマンからの依頼です。なんでもお客様はかなりご立腹の様子で、まだ新しい車なのにまるで油の切れた機械みたいにギシギシいうなんてありえないなんて怒っていたようなのです。だからこれはなんとしても直さないと、次から車を買ってもらえなくなるかも知れない…と、セールスマンはとても心配していました。
これは責任重大です。僕は、とりあえずどんな音がするのだろうとお客様の車を運転してみました。ところがその時は、お客様が指摘するような異音は再現出来なかったのです。僕は、車を持って来たセールスマンに『車を持って来る時に異音は出たのか』確認をとったのですが、そのセールスマンも特別におかしな音はしなかったと言うのです。しかし、お客様は『こんなのは有り得ない』と怒っていたのです。つまりそれほど酷い異音が聞こえていたという事でしょう。僕はセールスマンにこれはすぐには直らないかもしれないから時間の猶予が欲しいと伝えると、セールスマンは『必ず直して欲しいから余裕をもって一週間預かってきたと言うのでした。
(一週間か…まあ、それだけあればなにか原因は掴めるだろう)僕はそんなふうに思っていたのです。
ところが、それからどれだけ試運転をしてもお客様のいう異音は発生しませんでした。条件を変えて悪路を走ってみたり速度を変えたり上り坂や下り坂、あるいは乗る人数をかえてみたり…たしかお客様は『油の切れた機械みたいにギシギシいう』と表現していたようですが、そんな音は全くしません。そのうち日にちばかりが過ぎていってとうとう音の再現もできないままお客様の所へ車を届ける日が来たのです。
「俺が担当した車だから、納車は俺が行くよ」
僕は自ら納車を志願しました。直せなかった責任もあるし、音が再現出来なかったのがどうにも納得出来なかったのです。お客様に会う事が出来れば、あるいはなにか
ヒントのようなものが得られるかも知れないと、まだ
「こんにちは~!お預かりしていたお車をお届に参りました~~~~!」
『ご苦労様、今そっちに行きます』
玄関のドアが開き、出てきたのはまるで元大関の小錦のような体の大きな男の人でした。体重は200キロ以上はあるでしょうか、一般人であんなに大きな人間はなかなかお目にかかれません。
「それで、音は直ったの?」
「いや、それがですね。僕が乗っても音が全然出ないんですよ。それで今度はお客様に運転していただいて僕は助手席で音を聞いてみたいんですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、べつに構わないよ。おかしいな…音なんて毎回出てたけどな…」
お客様の口ぶりから、僕は既にこの時ある可能性を見出していたのです。なんだかとても嫌な予感がしました。
やがてお客様は運転席へ僕は助手席へと乗り込みました。ちなみに運転席の位置は一番後ろ、リクライニングもかなり寝かせてあります。その状態でシートベルトをしようとすると、ベルトは目一杯引き出さなくては出来ません。もう、パッツンパッツンです。そしてお客様はおもむろにエンジンをかけて、車を発進させました。するとどうでしょう…あれだけ試運転しても出なかったギシギシという異音が、ものの数秒で出始めたのです。
「ほら、この音だよこの音。新車でこんなのありえないだろ?」
確かにお客様の言う通りギシギシとかなり大きな音が出ていました。その音の発生源を探ると、音はどうやら室内から出ているようでした。僕は助手席で室内のいろんな所を手で触ってみたのです。すると、僕がある所を触った瞬間に音がしなくなったのです。
「あ、・・・」
「あれ、今、音が止んだね」
音の原因は僕の予想した通りでした。原因は、お客様がしているパッツンパッツンのシートベルトでした。あまりに余裕なくきつく締められている為にシートベルトのバックルと真ん中のコンソールボックスが干渉してギシギシと
「ありえないのはお前の体型の方じゃね~のかっ!」と言いたい気持ちはグッと抑えて、僕はシートベルトのバックルの間にタオルを挟みながら笑顔で言ったのです。
「一応音の方はここから出ているようです。タオルを挟めば止まるみたいですよ」
やっぱり異音修理は難しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます