第3話新人のアキヤマ君①
皆さんこんばんは、夏目漱一郎です。今日はとても良い事があったのですよ。僕が毎週買っている【ミニロト】の宝くじで、三等が当たったのです。何だよ一等じゃね~のかよ!なんて言わないで下さい。三等当てるのだって結構大変なんですよ。ちなみに【ミニロト】というのは1から31までの数字の中から任意の5個の数字を選ぶ宝くじなんですが、選んだ5個の数字が全て当選すれば一等で当選金額はおよそ一千万円です。僕の場合は4個が当選して当選金額は9700円あと一つ当選すれば良かったんですけどね。だけどあと一つ当たるかどうかというのは確率的には大変大きな差があるということです。では昨日の続きをどうぞ。
アキヤマ君は普通高校を卒業してウチの会社に入社してきました。ウチの会社は自動車ディーラーです。何を言いたいかというと、普通高校を卒業したからといってウチの会社からしてみれば、自動車の知識を何も持たないアキヤマ君は現状の僕らの店舗のサービスの仕事では全く役に立たないという事です。こういう人材を将来会社の戦力になるように一から教えなければならない僕の身にもなってもらいたいものです。
本社で一ヶ月程研修をしたようですが、自動車整備を舐めてもらっては困ります。たった一ヶ月で何が出来るというのでしょう。せいぜい車を安全にリフトで上げ下げする方法とかタイヤの外し方とか、やってもオイル交換程度の事だと思います。そんなことは一ヶ月もかけなくても、一日あれば覚えられる事です。僕が教えたいのはもっと実践的な事です。
「じゃあ~アキヤマ、『ブレーキの分解~組み立て』を教えるから」
自動車整備の基本は『走る』、『曲がる』、『止まる』に関わる部分を特に念入りに整備する事から始まります。その中でもブレーキは運転者の安全に直結するもっとも重要な部分です。指導方法というのは人によって変わるものですが、『大事な事は最初に教える』というのは僕が考える指導のポリシーでした。
分解と組み立てでどちらが難しいかといえば、圧倒的に組み立ての方が難しいのは感覚的に皆さんでも判るだろうと思います。ジグソーパズルを例にとれば解るでしょう。分解はただバラバラにするだけです。逆に組み立ては順番通りに元通りに組み立てなければなりません。分解する事を僕らの用語で『バラす』といいますが、基本的にブレーキは左右同じものが付いているので初めて整備する時はまず片方をバラして組み上げてから、もう片方をバラして組み上げるようにした方が失敗が少なくて済みます。何故かというと、例えば右を組み立てる時にもし解らなくなった時、左をお手本にして組み立てる事が出来るからです。今だったらスマホで写真を撮っておくなんて方法もありますね。
僕はアキヤマ君の目の前でブレーキをバラして組み上げ、途中で『ここは注意すべきポイント』などを含めそれは丁寧に教えたのですよ。
「じゃあ、今度は自分でやってみて」
そう言って工具をアキヤマ君に手渡しました。あまり間近で先輩に見ていられるとアキヤマ君もやりにくいだろうと思って、僕は少し離れたところにいたのです。そして一時間位が経過した頃です。
(そろそろ組み上がったかな?いや、しかし初めてだからもう少しはかかるか…)
なんて考えていると、それは突然聴こえたのです。
「ああああああああああっ!!」
「な、なんだどうしたアキヤマ君!」
「バネを飛ばしました!」
組み上げる時、『このバネはよく飛ばすから気を付けろよ』と注意したバネをアキヤマ君は見事に飛ばしてくれました。しかし、気を付けたって飛ぶ時は飛ぶものです。飛ぶといってもおそらくは足元に落ちているでしょうから、要は見つければ良いのです。しかし、バネはなかなか見つかりませんでした。僕も一緒に探したのですがその時はバネは出てきません。これが無いと仕事が前に進まず僕は最悪の場合も考え、部品の在庫を確認する為に一旦事務所へと出ていったのです。そして戻ってきた時、アキヤマ君は工場に這いつくばって、まだバネを探していました。
「まだバネは見つからないの?」
「まだ見つかりません。どうしよう…」
「アキヤマ、バネ飛ばした時に大体どの辺に落ちたとか見てなかったの?」
「だって何も見えなかったんですよぉ~」
そう答えて泣きそうな顔で僕の方を見るアキヤマ君を見た時、僕は思いました。
(そりゃあ~一生かかっても見つからねぇだろうな…)
自分では、とても気づきそうに思えなかったので、僕は教えてあげたのです。
「アキヤマ、お前オデコにバネが刺さってるぞ」
「え・・・・・・?」
僕にそう指摘され自分のオデコを触ったアキヤマ君は、一時間以上探しても見つからなかったバネがそこにある事に気付き、まるで戦争が終わった戦地の国民のように全身で喜びを表現していました。よく見ると飛ばしてしまったバネが見つかり涙を流して喜ぶアキヤマ君のオデコには、刺さったバネを引き抜いた後の痛々しい流血の痕がありました。
次回はアキヤマ君エピソード【その2】をお届けします。あと、少し宣伝させて下さい。僕の作品で『チャーリーズエンゼルパイ』というシリーズ物の作品があるのですが、これのファイナルエピソードを来月のゴールデンウイークから新連載しようと思っています。興味を持たれた方は是非読んでみて下さい。また、その予備知識としてこの作品を読んでいただければより一層楽しめるのではないかと思います。
【チャーリーズエンゼルパイEpisode1】
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