9話 家荒れる
カンがカナタを連れて行ってからすぐ……
「はぁ…なぜこんなことになったんだ……」
カンの父ダンは今の状況を嘆いていた。
カナタ…愛しのリサが連れてきたカナタという子供は結局壊れなかった。外見は可愛かったから心を壊したのを見届けてからその手の収集家に高値で引き渡そうと思っていたのに…カン…息子が連れて行ってしまった。
カンは昔から真面目で優しかった…と思う。オレからしたら甘い考え方しかできないと思っていた。だから、もしあの子供が見つかってもカンは家族であるオレたちを優先して協力してくれるに決まっていると思っていた…。甘かった…。カンは昔から俺のリサのことを毛嫌いしていたらしい。らしいというのはオレがその事実に気が付いてなかったからだ。いや、リサがというよりオレ達家族のことを嫌っていたのだ。オレが思うにカンが一番愛していたのは亡き妻…カンにとっては母親のキヨだけだったのかもしれない。オレも勿論キヨのことは愛している。いや、愛していた。今は断然リサの方が好きだ。いや、愛している。今になっては写真を見なければキヨの顔を思い出せないほどだ。
カンは何か勘違いしているのかもしれない。認めたくはないがあの子供はリサの子だ。だが、オレの血が入っていないんだから他人で間違いない。他人はオレの所有物だ。会社の人間だってそうだ。ただの駒でしかない。オレがどう扱おうが勝手だ。なのになぜ、カンはあそこまで俺たちを嫌う?カンの考え方は間違っている。親こそ子供の宝だ。敬って傅かなければならない。親こそ絶対的存在。そして、俺にとっては権力こそすべて。会社のトップである以上、下のものを使わなくてはならない。駒は何を言われても実行しなければならない。それがルールだ。
…カンにはお仕置きしなければいけないな……。
と、ここまで自分の書斎で考えていると入口の扉が勢いよく開いた。
「ダンっ!どうしましょう!カンがあの子を連れてってしまったわ!」
扉からリサが入って来た。
「あぁ、わかっているよオレのリサ。大丈夫ちゃんとあの子供は戻ってくるよ。なんたってカンだからね。あの子は賢い。きっとすぐに自分の過ちに気づいて戻ってくるよ。だから、安心していなさい」
オレが優しくそう言うと、リサはだんだんと落ち着いてきた。
「そうよね…あのカンだもの。きっと今自分のしたことを後悔しているわね。だって私の義息子なんだもの。優しい心を持っているはずだわ」
リサはそう言うとオレのところに寄ってきて、こう言った。
「ねぇダン。もし、もしもよ?もしカンが帰ってこなかったらどうするの?」
リサが不安そうにしている。ここはオレが慰めてやらんとな。
「あぁ、オレのリサ。大丈夫だ。もし、明日中にカンが戻ってこなかったら、その時はオレの全権力を使って戻ってくるようにしよう」
オレがこう言うと、
「どうして今日中じゃないの?」
リサは不思議そうに聞いてきた。
「それは簡単なことさ。カンは実の親であるオレに逆らったんだ。それを後悔しているのは目に見えている。だが、カンは臆病なんだ。帰ってきて怒られるのが目に見えているのにすぐには帰ってこないよ。だから、一日だけ猶予をあげるんだ。そしてもし、明日中に帰って来なかったら…その時はお仕置きしないとね」
オレがニヤッと笑うと、リサは納得がいったように笑顔でこう言った。
「そうね。カンは賢いからすぐに自分の過ちに気づくわ。ごめんなさい。私がこんなんではダメね。ちゃんと母親としての役目を果たさないと…」
リサは決意したようにそう言うとオレの膝の上に乗って甘えたように抱き着いてきた。
「もし、カンが帰って来なかったら私もお仕置きを手伝うわ。だってそれが母親でしょう?」
「ああ、そうだな」
オレはそう言うとリサを抱きしめ返して今日は二人で甘い時間を過ごそうと決めた。
……もう二人の頭の中にはカナタなどいなかった。あるのは、お互いの気持ちを確かめ合うことと……カンのお仕置き方法だった。
カナタを虐待していたなんてことは微塵も気にしていない…というか自覚がないのだった。そして、今この瞬間、カンに猶予を与えたことを後悔するのはもう少し後のことだった……。
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