4話 カンという青年

 俺の名前はカン。家族からはカン兄と呼ばれている。だが、俺は自分の家族が好きではない。なんというか、考えが冷たいというか傲慢というか、まぁそういうことだ。

 俺の母はもうこの世にはいない。俺が十歳の時に亡くなっている。そして俺の弟妹はリサという女から産まれた。正直俺はこの女が好きではない。そして父のことも好きではない。だって父は俺の母というものがありながら他の女と浮気してしかも子供まではらませているのだから。それにリサという女は結構な我儘な女だった。俺の母が死んでからすぐに父が家に連れてきた。が、その女も俺が十六歳の時に突然姿を消した。父は、

「他に男ができたというのだ。まったくお転婆で困ってしまうな。まぁ、すぐに戻ってくるだろうから安心しろ、カン。大丈夫だ。お前のお母さんは帰ってくるからな」

 と言っていた。

 いや、帰って来なくていい。というか帰ってくんな‼俺の母はただ一人。俺を産んでくれた人だけだ‼あの女なんか俺の母じゃない‼

 そう思い俺は十九歳の時に家を出て働き、自立した。が、父は年に何回かは帰ってこいと言う。

 父のお願いは聞いとかないと後が面倒くさい。まったくもって聞きたくないがな‼

 ということで父のお願いでクリスマスイブから年始までは長期休暇を取って実家に嫌々帰ってきている。

 まぁ、これはいい。いつものことだ。

 それより今年はあの女が居ることだ‼なんで戻ってきた?しかも父は今更戻ってきたことを許している。おかしいだろう⁈なんで他の男のところへ行っていた女を側に置く?頭おかしいんじゃないか?そして、あの女の言動にも吐き気がする。

 俺は帰ってきた時を思い出した。


* * *


「あら!お帰りなさい、カン‼すっかり大きくなって!あの女に似て綺麗な顔になったわね‼でも男らしさもある……素敵だわ‼」

 あの女…リサは俺が玄関に入ると待ち構えていたかのように出迎えた。そして俺の顔を見ると色目を使うかのようにそう言った。

 確かに俺は自分の母に似て綺麗な顔をして父に似て少しマッチョ…世間でいう細マッチョだと思う。注目されることも多々あるがこんなにあからさまに色目を使われると気持ち悪いと思う。背筋に嫌な汗が伝う。

あの女は真っ赤でスリットが入ったドレスを着ている。どこぞのパーティーにでも行くのだろうか?というような服だった。しかも装飾品をこれでもかと着け、ジャラジャラさせ、真っ赤な口紅をしていた。

 …品がないと思うのは俺だけだろうか?

 俺がそう思っていると、あの女は俺の腕に自分の腕を絡ませ他の連中のところに連れて行き自分は「あの人を呼んでくるわ。ちょっと待っていてね」と言い部屋を出て行った。

「わあ!カン兄お帰りなさい‼」

『おかえりなさい‼カン兄!』

 皆それぞれ俺のところに駆け寄り口々に話し出す。ここまではいい。だが、俺が嫌なのは…

「カン兄!クリスマスプレゼントちょうだい‼皆よりたくさん‼奮発して‼」

『ぼく(わたし)も‼』

 そう言われたがそれが嫌なのだ。俺が帰ってくるたびに何かをねだられる。しかも皆が他の人よりたくさんだの高いのだのと言ってくるのだ。もう少し遠慮という言葉を覚えた方がいい。十八歳の子まで同じことを言っているんだぞ?どうしようもないな。俺の貯金が底をつくのが速いっての!

「わかった、わかった。高くて美味い菓子を買って来てやるから夜まで我慢しろ」

『えー』

 連中は不満そうな声を上げるが、俺がニッコリ笑うと黙った。

 よしよし。そう思っていると、

「あら?それは私にも何かもらえるのかしら?ねぇ、カン」

 甘ったれる声が聞こえてくる。これはあの女の声だ。

 その声の方を見ると、案の定あの女が父の腕に自分の腕を絡ませて部屋に入ってきたところだった。

「あなたは大人なんだからいらないでしょう?」

 俺がそう言うと、

「あら、女は貢がれたいものよ?」

 と、くそむかつく風にさも当たり前というように言ってきた。

 ……頭おかしいんじゃないか?何が貢だ‼この散財家め‼

「いいじゃないかリサ。カンの代わりにオレが君に貢ごうじゃないか。さて、何が欲しいんだい?なんでも言ってみな」

「あら!ダン!あなたはやっぱり素敵な人ね!そうねー、バックも欲しいし、アクセサリーも…」

 なんか色々要求してるけど…。この家大丈夫か?まぁ、父は金だけは持っているから大丈夫か。それより助かった。あの女に贈り物なんてとんでもない!一銭たりともやりたくないね‼

 心の中で舌を出して悪態をついていると、

「カン兄あそぼう、あそぼう‼」

『何してあそぶ⁉』

 子供たちが興奮してそう言ってくるが俺は、

「悪いなお前ら。俺は寝る」

『えー⁉』

「しょうがないだろ。この長期休暇のために仕事を猛スピードで終わらせてきたんだから。それじゃ、そういうことで」

 それらしい理由を付けてその場を退散する。いや、あながち間違いではない。この休暇のために仕事を終わらせてきたのは本当だし、忙しかったのも本当だ。これでも仕事はできる方だし給料もそれなりに貰っている。だが、毎回「何かくれ!」という声に応えていたらきりがない。それに、あのくそ生意気な連中、媚びを売る連中に何か物を送りたいと思うだろうか?否。絶対に嫌だね‼やるなら消え物だね。それに限る。

 俺は自分の部屋へ入り、鍵を閉めベットに倒れこんだ。

「はー…疲れた。来てすぐ疲れた。毎年思うけどこんなことなら来る途中の店で菓子でも買ってくればよかった…。なんで毎年忘れるんだろうか…。疲れてるんだな…。うん、そう思うことにしよう」

 決して嫌すぎて記憶から消去しているわけではない。ないったらない。

「ちょっと寝よ…」

 まだ昼間なので夕方まで少し寝ることにした。


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