2話 ここに来て初めての満月
この家に来て三日ほど経った。今は十一月。明日は満月だ。今回の満月は無事に過ごせるだろう。だって、ここに来てから僕は部屋から出ていない。いや、出してもらえない。母は一度も会いに来てくれない。ううん、誰も来ない。でも、食事は一日三回、朝昼晩いつも誰かが部屋の扉の鍵を開けて中に入れてくれる。その後すぐに閉められるけど…。トイレはなんと!屋根裏部屋にもあるのだ‼如何にも新品という様な感じで部屋の奥に。
新しく造ってくれたのかな?ありがたい。いや、閉じ込めることを前提に造ったんだろうからありがたくはないか…。
でも不思議だ。何が不思議かって言うと、僕をここに閉じ込めているのに対して誰も何も言わないんだもの。普通は誰か一人でも『おかしい』って思わないのかな?皆、僕に冷たく当たる。あぁ、そうか。カナさんが言った通り、僕はこの家の『異物』で、この家ではこれが『普通』なんだ。それは…寂しいな……。この屋根裏部屋は広いけれど、暗いし、誰もいない。光はたった一つの窓からしか入ってこない。そして、寒い。ここに来てからは、端の方に大量に積まれている毛布に包まって寒さをしのいでいる。でも、もっと寒くなったらどうしよう…。僕はいつまでここに居なければいけないのだろうか…?
そう思いながら今日も眠りについた。
◇ ◇ ◇
今日は満月の日だ。と言っても何もすることはない。ただ誰も来ないように祈るだけ。母は僕が狼男だとは誰にも言わないだろう。というか言えないだろう。僕みたいな存在を知れば母まで異物扱いされてしまう。だって僕を生んだのは母だからね。だから言えないのだ。多分だけど…。
ここに来てから朝起きてただそこにいてそして寝るだけ。とてもつまらない。なので、筋トレをすることにした。前にテレビでやっているのを見たことがあるからなんとなくだがわかるだろう。あ、汗をかいたらどうしよう…。お風呂はここにはないし、入れてくださいとも言えない。しょうがないから毛布と一緒に積まれていた手拭いで拭くことにする。
そうして、僕は暇な時間は筋トレをすることにしたのだった。
* * *
夜になった。月が雲の間から顔を出す。僕は狼の姿に変身した。僕の毛は、灰色でも月の光を受けると銀色に輝く。
僕はこの姿が嫌いだ。自分が嫌いというわけではない。そうすると、育ててくれた父を否定することになるから。僕が嫌いなのはこの姿だ。この姿は父を思い出す。父から聞いたことがあるが、普通の狼男は真っ黒なのだそうだ。こんな灰色で光が当たると銀色に輝くことはないそうだ。どうして僕と父は違うの?と聞いてみたら、それは『特異体』だからだそうだ。狼男の中にも稀に特異体が生まれることがあるらしい。二代揃って特異体になることはとっても稀らしい。でも父は特異体のせいである程度の大きさまで育てられて捨てられたらしい。
父は優しい人だった。いつもは普通の仕事をして帰ってくる。ただ、それだけだったが、満月の日は違った。その日は、一日僕と一緒に居てくれたのだ。母にはこの姿を見せられないからかはわからないが、夜は父と二人きりでくっついて眠った。
それは暖かくて、懐かしくて、途端に寂しく悲しくなってしまった。泣きたい。でも我慢だ。僕は強い子。泣いてはいけない。
そう思いながらこの日は油断しないようにずっと起きていた。
◇ ◇ ◇
それから何日経ったか覚えていない。でも、夜にずっと夜空を見て月を確認していたからもうすぐ十二月の満月の日というのは確かだ。が、その前にクリスマスがある。外を見ると飾りつけをしている人が居たり、そういう車を見ることが増えた。僕の五感は普通の人よりずっと良いらしい。近くに人が来るとすぐに気が付く。狼男の姿になればそれがもっと鋭くなる。これは正直に言うと今はとてもありがたい。なんせ、僕は満月の晩は一睡もできないのだから。いつもは眠くてもその日だけは眠ることができないのだ。まぁ、それはいいんだけどね……。しょうがないことだから。
僕にとっては父しか味方は居なかったのだから。これからは一人で生きていかなければならないので。でも、泣いてはいけない。泣いちゃいけない。泣いても何も変わらない。何も変わってはくれない。これは仕方がないことなんだ。この世界は『異物』を嫌う。僕と同じ人は同族以外信用ないのだから。
……僕は同族も信用できないけど……。
◇ ◇ ◇
十二月二十四日の夜。
この日僕のところにはサンタさんは来ないだろう。だって、母がそれを許さないだろうから。
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