狼少年

夜月月華

1話 狼男の少年


 狼男。

 それは、よく物語の中に出てきて、満月の夜に狼の姿になるとか、悪さをする悪役などのイメージが多い立場の架空の存在。

 そんな存在が人間社会にひっそりと溶け込んで暮らしている……。

 これは、そんな狼男の少年を描いた物語……。


◇ ◇ ◇


 狼男。それは、僕が一番嫌いな種族。

 そんな種族架空の存在だ……と思う人の方が多いのではないだろうか?いや、存在はする。皆がその存在なんて居ないと思っていて認識できていないだけだ。狼男は人間社会にひっそりと存在している。人間は異物を嫌うことが多い。というかほとんどの人はそうだろう。だから僕も父から教えられて、父以外とその話をしたことは一度もない。

 だが、その父が事故で死んで僕は一人ぼっちになった。いや、正確には一人ぼっちではない。それは母が居るからだ。母は人間だった。そして子供は僕一人しかいない。母は父と僕が狼男だと知っている……と思う。何故なのかと言うと、父が母と狼男の話をしたことが一度もないからだ。僕は自分が狼男だと言おうと思って父に相談したことがある。しかし父は、「お母さんにその話をしてはいけないよ。絶対だ。お父さんとの約束だよ」と言い指切りをさせられた。僕は何故言ってはいけなのかわからなかったが、その約束を守っている。

 そして、父が死んで母と二人きりになった。その途端、母は僕に今まで向けてきたことない冷たい目と顔をしてこう言った。

「お前も狼男の血を引いているのだろう?なら、私は衣食住の保証はするけどもうお前を息子だとは思わない。あの男とは顔がいいから結婚したんだ。死んだらもうあの顔は拝めない。だから、お前は置物のようにそこに居ればいい。いいね?」


 こう言われたら僕には頷くしか選択肢はなかった。

 どうしてそんな悲しいことを言うの?どうして僕をそんなに冷たい目で見るの?どうして、どうして…‼

 僕はそんことを思いながら母に手を引かれ、僕の家とは別の大きな家に連れてこられた。

 そこでは、たくさんの人が待っていた。十人くらいだろうか?あ、子供が沢山居る。でも、皆僕より年上っぽい。


「おお!待っていたよ愛しのリサ‼さぁさぁ、こっちにおいで‼」

 そう言うダンディでマッチョなおじさまが僕の母、リサを呼んだ。

 母も人の目も気にしていないようにダンディでマッチョなおじさまに抱きついて甘える。

「ああ!ダン‼私も会いたかったわー‼やっとあの男が死んでくれたんですもの!ここでは幸せに暮らしたいわー‼」

 母はそう言うとダンディなおじさまとキスをする。ラブラブである。

 僕は何を見せられているのだろうか?と思っていると、

「それで、リサ。その子があの男との子か?」

 と冷たい目で僕を見る。

「ええ、そうよ。あの男と私の子。でも、私はこの子が嫌いなの。ねぇ、ダン。この子のことは、衣食住さえ整っていればどんな扱いもいいわ。それより!私はあなたとまた一緒になれて嬉しいわ‼積もる話もあるでしょうから早くあちらで二人きりになりましょう?」

 母が僕に冷たい目を向けてそう言うと、ダンと呼ばれた人は母の行ったことに従い、二階に行ってしまった。

 ……僕はどうしたらいいんだろうか?と悩んでいると、子供の中でも身長が高い女性に声をかけられた。

「あなた、お母さんの子なの?」

 と言われた。『お母さん』とは誰のことだろうか?もしかして、僕のお母さん?

「僕のお母さんのこと?」

と聞くと、

「あなたのお母さんじゃないわ‼わたし達のお母さんよ‼」

と言われた。僕は何を言われているのかわからなかった。

 僕のお母さんでこの子たちのお母さん?ということはお母さんは二股していたということ?

 …五歳の少年は幼いながらも理解した。

「ねぇ、聞いているの?あのね、あなたはこの家の異物よ。つまりゴミってこと。ゴミはどんな扱いを受けてもいいのよ?わかった?」

「……うん…」

 と答えた。しかし、女性はその答えが気に入らなかったのだろう。僕はビンタされて横に吹っ飛んだ。それはもう勢いよく。

 痛い‼

「あなた‼返事は『はい』でしょう⁉そんなこともできないの⁈このグズ‼」

 僕は怒鳴られた。周りに助けを求めたが皆ニヤニヤしてこっちを見ているだけだった。

 あぁ、僕の味方なんて最初から居なかったんだ

 僕がこの大きな家に来て初めて学んだことは『絶望』だった。


「まぁ、いいわ。今回はこれくらいで許してあげる。あ、そうそう。家族の紹介がまだだったわね。あなたみたいな子には必要ないかもしれないけど、仕方がないから紹介するわね。一度で覚えてね?」

 と言われたので頬が痛いが我慢して聞く。


下から七歳のランくん。九歳で男女の双子のシンくんとリーンさん。十二歳のアイリさん。十五歳のカインくん、十六歳のマナさん、今話しているのは十八歳のカナさん。そして、今は家を出て別の家で暮らしている二十三歳のカン兄というお兄さんが居るらしい。あとは、おばあちゃんのエナおばあちゃん、おじいちゃんのヨシジおじいちゃん。おばさんのナナおばさん、おじさんのシキジおじさんというらしい。よし、覚えたぞ。

「説明はお終いね。一応聞いといてあげるけどあなたの名前は?」

「僕はカナタと言います。よろしくお願いします」

 と言いしっかり挨拶をした。

「ふんっ!あなたなんかと誰が仲良くするもんですか。あなたの部屋は屋根裏部屋ね‼あそこは暗くてお化けが出るかもしれないのよ!どう?怖い?」

「…いえ、あまり…」

 だって、僕自身、狼男でお化けみたいなものだから?

「ふん!強がってもすぐ壊れるわ!皆行くわよ!」

 そして、皆ぞろぞろとそれぞれの部屋へ行ってしまった。カナさんは最後に一言、

「あ、あなたは屋根裏部屋から出るの禁止ね!ご飯は部屋に運んであげるから勝手に食べなさい。まぁ、残り物だけどね。あるだけいいと思って感謝してよね‼ほら!あなたの部屋はこっちよ!」

 と言い、僕を引きずり屋根裏部屋に連れて行くと、ポイっと部屋の中に放り投げると扉の鍵を閉めてしまった。

「……部屋があるだけマシかな…?」

 僕はそう言い、部屋の隅に見つけた掃除用具で掃除しようと思い部屋に一つしかない窓を開けて掃除をしだしたのだった。


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