第14話 決闘と圧倒
グランシエル王立騎士学園にある、第一決闘場。
決闘だけでなく、学園の様々なイベントで使用される施設であり、その面積はかなり広大だ。
刃を潰した鍛錬用の剣を持った俺は、ひとつ息を吐いて決闘場に足を踏み入れる。
「――――よく来たな、没落野郎」
決闘場の中央で待ち構えていたガトーがそう言うと、観客席のほうから歓声が上がった。周囲を見回せば、結構な人数が俺たちの決闘が始まるのを今か今かと待ち構えていた。
「なんでこんなに観客がいるんだ?」
「俺様は有名人だからなぁ。決闘場の使用許可を申請するだけで、すぐに話が広まっちまう」
「……暇だな、どいつもこいつも」
「なんだ? 人前じゃ戦いたくねぇってか? ま、テメェもこれ以上恥かきたくねぇか!」
ゲラゲラと笑い始めるガトーを見て、俺は鼻で笑った。
「……テメェ、その態度はなんだ?」
「気の毒だなって思ってさ」
「あ?」
「こんなに有名じゃなければ、ガトー=ジェラードの敗北は誰にも知られずに済んだのに」
「……ぶっ殺す」
「ああ、せいぜい頑張れ」
俺は制服のポケットから、用意した手袋を投げつける。これは決闘を申し込む際の習わしだ。
相手がこれを拾えば、決闘は成立。これで、他人が口を挟む余地は完全になくなる。
ガトーは、俺を睨みつけながら手袋を拾い上げる。
そして互いに背を向け、決闘のルールに定められた位置まで移動する。
「このコインが地面に落ちたとき……それが決闘開始の合図だ」
「オーケー、さっさと投げてくれ」
「俺様に歯向かったこと……絶対に後悔させてやるからな」
ガトーがコインを指で弾く。コインは回転しながら宙を舞い、やがて地面に落ちた。
「死ね……!」
剣を抜き放ったガトーは、すぐさま俺との距離を詰めてきた。
すさまじい瞬発力だ。やはり成績優秀者は伊達じゃない。
横薙ぎに振られたガトーの剣を、俺は自身の剣で受け止めた。甲高い音と共に、火花が散る。
なるほど、思いのほか重たい攻撃だ。まともに受けると、腕の芯に響いてくる。
「オラァ!」
ガトーは、俺に向かって何度も剣を打ち込んできた。
そのたびに俺は、剣の角度を少しずらして受け流した。
「なっ……」
俺に連続攻撃を捌き切られたガトーは、目を見開いた。
この程度の攻撃、フランの嵐のような乱撃を思えば、むしろ心地のいいそよ風だ。
「終わりか?」
「っ! なわけねぇだろ!」
大きく剣を振りかぶったガトーを見て、俺はため息をつく。
こんな大振り、こっちは壊し放題だ。
「よっと」
「がっ――――」
俺は瞬時に一歩踏み込み、がら空きの胴に拳を叩き込む。
肉を打つ音が響いた直後、ガトーは蹲るようにして倒れた。
観客が静まり返る。彼らはガトーによる没落貴族の公開処刑を見に来たのだ。それと真逆の光景を見せられて、言葉を失ってしまうのも無理はない。
「……立てるか、ガトー」
「――――がっはっ……ごほっ!」
呼吸の仕方をようやく思い出したガトーは、苦しげに咳き込む。
そして荒い呼吸を繰り返しながら、唖然とした表情を俺へ向けた。
「な、何をしやがった……」
「一発拳をぶち込んだだけだ。優しくな」
「ふ――――ふざけんなぁ!」
剣を拾い上げ、ガトーが飛びかかってくる。
俺はそれを横に避けながら、足を引っかけた。
「うおっ⁉」
体勢を崩したガトーは、勢いよく地面を転がる。
なんとも間抜けな転びっぷり。スマホがあったら、是非とも録画しておきたかった。
「ざけんな……卑怯な手ばっか使いやがって……!」
「どこが卑怯なんだよ」
剣を突きつけると、ガトーはビクッと肩を跳ねさせる。
この時点で、すでに勝敗は決している。しかし、俺はまだまだ終わらせる気はなかった。
「簡単に倒したら、お前は何かの間違いとか抜かして、また絡んでくるかもしれないからな。俺には勝てないってことを、徹底的にその体に教え込んでやる」
「っ……!」
ガトーがワナワナと震え始める。俺の煽りが相当効いているようだ。
「て、手加減してたら調子に乗りやがって……!」
「手加減?」
「見せてやるよ! 俺様の才能を!」
ガトーが俺に向けて手をかざす。
「〝集いし炎よ! 我が敵を焼き払え!〟」
そんな言葉と共に、ガトーの手にどこからともなく炎が集まり始める。
――――なるほど、魔法か……。
この世界には、魔法という概念がある。人が内包するエネルギー〝魔力〟。それを用いて様々な現象を操るのが〝魔法〟。魔法は才能がないものには、決して扱えない。遺伝が深く関わっているようで、親が魔導士だと子も魔導士になりやすいとか、なんとか。
ガトーは、すでに天から二物を与えられている。そこに魔法の才能まで加われば、まさに敵なしだ。ただ、その才能をきちんと磨ければの話だが――――。
「吹き飛べ……! 〝
俺に向けて撃ち出された、炎の弾丸。当たれば火だるまになること間違いなし。
魔法は、ただの斬撃では斬れない。ならば、魔法が使えない者はこれをどう防ぐか。
答えは簡単。普通にかわすか――――。
「剣に魔力を纏わせるか、だ」
俺の持つ剣の刀身が、青白く光る。俺に魔法の才能なんてない。しかし、魔力は誰でも持っている。魔力を操ることができるようになれば、己の肉体や武器を、より強力なものへと進化させることができるのだ。
たとえ鈍らであっても、魔力を注ぎ込んだ刃は、魔法さえもたやすく斬り裂く。
「……は?」
ガトーの口から、呆気に取られたような声が漏れる。
両断された炎は、俺のはるか後方に着弾した。爆音と共に燃え上がる炎をバックに、俺はガトーへと歩み寄る。
「お、俺様の……魔法が……」
「来ると分かってる魔法なんて、まともに当たるわけないだろ?」
「くそっ……クソォォォォオ!」
ガトーは再び剣を振り上げ、俺に飛びかかる。さっき痛い思いをしたばかりなのに、もう忘れてしまったようだ。
「いい加減、学習しろ。
「ぐっ⁉」
潰した刃で、ガトーの胴を打ち抜く。最初と同じように地面に崩れ落ちるガトーに、俺は冷たい視線を向ける。
「はぁ……はぁ……」
「情けないな、ガトーサマ。もう終わりか?」
「うるせぇ……! こんなところで俺様が――――」
落とした剣に、ガトーが手を伸ばす。精神が限界なのか、その手はやけに震えていた。
――――あとひと押しか。
震えながらも剣を拾い、立ち上がったガトーを見て、俺は笑みを浮かべる。
「よし、続きをしよう。まだ勝敗はついてないぞ?」
「うっ……うわぁああああああ!」
滝のように汗をかきながら、ガトーは突きを放つ。俺はそれを剣で弾き、その首に刃を添えた。
「ほら、次だ」
「ひっ……」
仕切り直すために、俺は剣を退ける。
その瞬間、ついにガトーの顔が恐怖に染まった。
「ははっ、その顔が見たかった」
満足した俺は、剣の柄をガトーの腹に叩き込み、その意識を奪った。
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