第13話 人攫いに遭いました
気がつくと暗い部屋に居た。
意識はぼんやりしている。
なんだかふわふわしていて気持ちが悪い。
動こうと思い、体を動かしてみたが、ジャラジャラと鎖のような音がし上手く動かせない。
鎖?
どうして鎖の音がするのだろうか。
そう思い何があったか思い出そうとするが、よく思い出せない。
確か、自分の名前はアレシア。
奴隷だったけど、優しいご主人様に拾わた。
それで……いろんな事があって……
裏路地に入った。
その後のことは思い出せない。
きっと裏路地に入った後なにかあったのだろう。
そして今ここに居ると。
そこから考えるにこう言うことだ。
裏路地に入る。
→人攫いに遭う。
→連れて行かれる。
→そしてこの部屋に監禁される。
きっとそう言う感じだろう。
なにせ魔族は人攫いに遭いやすいのだ。
私が奴隷になった時も、人攫いに連れて行かれたから分かる。
魔族で、女で、若いのだから人攫いに攫ってくださいと言っている様な物だ。
この世界が魔族に厳しい事を忘れてしまっていた。
「こっから出なきゃ」
ここから早く出てご主人様のところに戻らなきゃ。
きっと優しいご主人様の事だから、心配してくれてると思う。
……心配してくれている、と思う。
キョロキョロと辺りを見渡してみると私と同じくらいの年頃の女の子が居た。
その子は私と違って角がなく、どうやら人族みたいな見た目をしている。
綺麗な格好をしていて、育ちの良さそうな顔。
きっとどこかのお嬢様なのだろう。
「ねえ、ここはどこですか?」
そう囁きかける。
「……」
しかし反応はない。
瞼が降りており、気を失っているのだろうか。
しばらく待っていると意識が戻ったのか体を起こした。
バッと体を起こすと、後ろで鎖に繋がれているのが分かり、
「これはなによ!」
騒ぎ出した。
大きな声で喚く。
「私を誰だと思っているのよ!こんな事して許されると思っているの!?」
とっても大きな声を張り上げる。
たぶん今までこんな体験をした事がないのだろう。
私は奴隷だったときはこんな感じで毎日檻の中に繋がれていたから慣れているけど、貴族のお嬢様とかだったら辛いのだろう。
すると彼女の声が聞こえたのか、
「うるせえぞ!クソガキが!」
部屋の中に大きな男が入ってきた。
粗末な服を纏っていて、全身から血の匂いがする。
頭は禿げていて、盗賊みたいな見た目。
いや、文字通り盗賊だ。
「臭いわね!近寄らないで貰えるかしら!」
お嬢様(仮)はギロリとその男を睨みつける。
すごい迫力だ。
流石は貴族のお嬢様、眼力が凄い。
まあ、本当にお嬢様なのかどうかは知らないけど。
ゴッ
その時だった。
鈍い音と共にお嬢様が蹴り付けられる。
痛々しい音と共に、彼女はえずいた。
今のは相当痛いだろう。
私が奴隷だった時、奴隷商のおじさんにこうやって蹴り付けられていた。
「ああ?あんまり舐めた口を聞いてるとぶっ殺すぞ?お前、自分の立場わかってんのか!?」
そして、地面に伏せるお嬢様を何度も何度も蹴り付ける。
「お貴族様はいい身分だよぁ。毎日いい飯食って、あったけえ風呂にあいれるんだからよ。こうやって踏みつけるとせいせいするぜ!」
「やめ……痛ッ!おねがい!やめて!やめてください!!!」
男は長い時間、お嬢様を蹴り続けた。
そして、ペッと最後に唾を顔に吐きかける。
「おい、あんまりやり過ぎるなよ」
「分かってるよ、兄貴!」
外からそんな声が聞こえると、男は懐からポーションを取り出し、蓋を開ける。
「かひゅ……かひゅ……」
苦しそうに息をするお嬢様を見下すと、ポーションを自身の靴に垂らした。
「ほらよ、舐めろ」
「なッ……そんなこと」
「うるせえ!黙って舐めろ!!!」
もう一回蹴った。
「ゲホッ……オ、オエエエエ!」
口からボタボタと血を吐いた。
あれは……酷い。
地を這い、お嬢様は男の靴を舐めた。
何度も何度もねぶる様に舐めると、体の傷が癒えていった。
それを見た男は下衆せた笑みを浮かべ、満足そうに部屋を出ていった。
▽
「大丈夫、ですか?」
「……ごっ……ごほっ、おえ……」
苦しそうにえずくと、苛立っているのか怒鳴ってきた。
「うるさいわね!こっちは今、とても不愉快なのよ!魔族の分際で馴れ馴れしく話しかけないでくださる?」
まあ、分かっていた。
私は魔族だ。
お貴族様とかだときっと家畜とかとそんなに変わらない様に見えるだろう。
まあ、それでもやっぱりいい気はしないけど。
「……あなた、魔族の癖にいい服着ているわね……愛玩奴隷ってところかしら」
ゴミを見る様な目でこちらを見ると、そう言い放った。
「性的な目的で飼われたんでしょうね──本当に気持ち悪い。奴隷が奴隷なら主人も主人だわ」
あ、だめだこの人。
大丈夫かと心配に思って話しかけてみればペラペラと平気で人のご主人様のことを……最悪の気分だ。
ペシリ
ビンタする。
なにが起こったのか、お嬢様(仮)は戸惑った。
ヒリヒリとする頬を抑える。
「私の事を馬鹿にしてもらうのはいいけど、ご主人様のことを馬鹿にしないで」
「は?」
どうして、という顔をしている。
きっと分からないのだろう。
家畜がなんで人間の頬を殴るのか。
どうして家畜如きが怒っているのか。
まあ、そんな事はどうでもいい。
こんなムカつくやつは無視しよう。
▼
窓に近づく。
手をかざし、集中。
何をしてるか?
そう、窓から脱出しようとしている。
外の男たちを倒すことは私には出来ない。
だって、私は弱いから。
戦い方なんて知らないもの。
ご主人様は強いらしいけど、私は強くない。
そもそも今まで奴隷だった身分で、どうやって戦うかなんて知っているわけがないのだ。
だから、こうやって逃げるべきだと判断した。
魔力を集中させ、炎のイメージをする。
奴隷だった時に一回だけこうやって手元に集中したら爆発が起こった事がある。
あの時は何が起こったのかよく分からなかってけど、たぶん魔法を使ったんだと思う。ちなみにその後、奴隷商のおじさんにボコボコに殴られた。
だからあの時と同じように爆発を起こして窓を吹き飛ばそうと思う。
「お願いお願い……」
だんだん魔力が集中し、炎の渦ができる。
「あなた魔法が……!?」
爆ぜるイメージで、炎の渦を解放する。
すると、凄まじい音と共に壁が吹き飛んだ。
「やりすぎた」
どうやら制御失敗したようだ。
これは早く逃げないとやばい。
そう思い、吹き飛んだ壁から外に出る。
手錠は爆発に巻き込んで吹き飛ばした。
「それじゃあ、さようなら。私は出ていきます」
お嬢様は先ほど蹴られたせいで動けないらしい。
あと、手錠がまだ嵌っている。
きっとこの後私のせいでボコボコに殴られる事だろう。
まあ、知った事ではないが。
ご主人様を馬鹿にしたのだ。
いい気味だ。
「ぉ……お、おいてかないで!」
部屋の外から走る音が聞こえる。
「おい!音がしたぞ!」
「あいつらやりやがったな!」
足音がどんどん近づいてくる。
お嬢様は恐怖に表情を歪ました。
「──いやです」
そりゃそうだろう。
私だけでなく、あいつはご主人様を侮蔑した。
許すべきではないだろう。
それに、お嬢様は足手纏いになる。
正直言って邪魔だ。
「金ならいくらでもあげるから!」
「いらないです。金なんかもらっても嬉しくない」
その答えを聞き、お嬢様はさらに顔を歪ます。
わなわなと体を震わし、恐怖で股を濡らしている。
淑女として酷い姿だ。
「私の事、魔族と言って馬鹿にしましたね?それだけでなくご主人様まで。そんなんで助けてもらえると?」
「ご、ごめんなさい……ゆるして!」
「いやですね」
今更謝られたところで困るのだ。
それに誠意なんてこもってないだろう。
これが終わればきっとまた私の事を家畜と同じ程度の存在として見下すだろう。さらにはご主人様のことも同じくだろう。
そんな人間を助ける義務など私にはない。
「ほんとうに……たすけて……あいつらが来ちゃう」
みっともない姿だ。
地面に縋り、涙をこぼしている。
本当に、本当に醜い。
これだから人族は……いや、そういうのはやめよう。
それをしたらコイツと同格になる。
「……仕方ないですね、特別に助けてあげますよ。でも約束してください。足手纏いな真似をしたらすぐに捨てますからね?」
コクコクとお嬢様が頷く。
そして、お嬢様の手錠も吹き飛ばし、背負い外に出た。
────────────────────
【作者からのお願い】
アンケートをします。
作者自身、こういったジャンルの物語を執筆するのは初めてですので皆様の意見が欲しいです。
ですので、
⭐︎
微妙
今後に期待
初めは面白かった
⭐︎⭐︎
普通
取り敢えず読んでる
そこそこ面白かった
⭐︎⭐︎⭐︎
とても良い
次話がとても楽しみ
これからの展開が気になる
という観点のレビューで教えて下さると、とても嬉しいです。
作者自身、こういったストーリーは初めてですので読者の皆様を楽しませれているか不安ですので、こう言った形で教えてくださると、もうそれはそれはとても嬉しいです。
次作や、今後のストーリー展開の参考にしますので是非是非お願いします(土下座)
また、コメントで直接感想を頂けると助かります。
────────────────────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます