第6話 アレシアの手料理
朝、目が覚めるといい匂いがした。
鼻腔をくすぐる香辛料の香りと、肉や野菜を煮込んだ良い匂い。
不思議に思いブラウスは辺りを見渡したが、昨日一緒に寝たアレシアの姿がない事に気づく。
「アレシア?」
彼女の名を呼ぶと、台所の方から返事が返ってくる。
「ご主人様、お目が覚められましたか?」
そして、アレシアがエプロン姿で寝室へ入ってくる。
「アレシア……それは?」
「これですか?ご主人様の朝食を用意しようと思っていたのですが……迷惑でしたか?」
「ああ、いや、迷惑なんてことはないぞ」
「そうでしたか……それは良かったですっ!そろそろ出来上がると思うのでもう少しだけお待ちください!」
ブラウスの返答を聞くと、アレシアは嬉しそうに台所までちょこちょこと歩いて行った。
「さて、俺も起きるか」
そう呟き、腕を伸ばして起き上がる。
ベッドから出てリビングを目指すのだった。
▽
「うん、上手いな」
リビングの一角にてブラウスはアレシアの手料理に舌鼓を打った。
ダイニングテーブルの上には、二皿スープとパンが用意されており、食欲をそそらせる香りが漂っている。
「なんて言うんだろうか……この酸味が美味いな。俺好みの味だ」
「お口に合ってよかったです!」
スープはトマトで程よい酸味と塩気で構成されている。
スパイスを使っているのか、香り高い後味が引き、次の一口を誘ってくる。
次から次へとスプーンを口へ運び、パンと共に食す。
「それにしても美味いな。どこで習った?」
アレシアは14歳だ。
若く、そして奴隷であったのにどこでこんな調理スキルを身につけたのだろうか。
個人的な彼の感想だが、アレシアの料理はレストランで出しても良いレベルだった。
だからこそ、どこで身につけたのか疑問に思ったのかもしれない。
「えーっと、母に教えてもらったんです。材料が足りなくて色々違いますが、これは故郷の村の伝統料理なんです。まあ、今はもう燃えちゃって無くなっちゃったんですけどね」
少し、寂しそうな顔をしてそう言った。
そう言えばそうであったな。
確かアレシアの故郷はこの王国の東にかつて位置していた共和国だったハズ。
今は王国との戦争により戦火に焼けてしまったが、かつてそこには人の営みがあった。
そして、そこにアレシアの故郷があったのだろう。トマトを使った料理は共和国特有の物だから、納得である。
ただ、彼女の故郷が燃えてしまったことを考えると申し訳ない気持ちになってしまうが。
「それは……王国人として謝らなければな。すまなかった」
「あー、いえいえ!別にご主人様が謝れることじゃないですよ!でも、この国の王様はちょっぴり嫌かもしれないですけど……いや、やっぱり今のはナシでお願いします。魔族の癖にやっぱり変ですよね、私」
「別に変じゃないぞ?誰だって故郷を燃やされて、奴隷になれば憎いの感情くらい一つはあるもんだ。そこに魔族や人族で差はない。だからアレシア、お前は至って普通だ」
ブラウスは今まで何度もそう言った人間を見てきた。勇者だからこそ、そのようなものに何度も出くわすのだ。
魔族も、人族も平等に見てきたのだ。
そして、それを見てきたからこそ至って普通の感情だと言えた。
「そうですか……優しいですね、ご主人様は……」
「──おーい、ブラウスー。いるかねー?」
その時だった。
玄関の戸が誰かによって叩かれた。
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