前世ルーレットの罠

前世ルーレットの罠

「わらわらわらわら。前世ルーレットだってぇい？」

「はい～！多種多様な前世ルーレットからお一つだけお選びいただいてえ。そこにこの玉を放り投げていただきい、玉が入った人物の前世の疑似生生を体験していただいておりましてえございましてえ」

「ほおう！それは面白そうだなあ。無料か？念の為に、誓約書を作らせてもらうぞ。こんな時代だからな」

「はい～！もちろん、無料でございますう。さらさらさら～っと。はい書き上がりましたあ」

「うむ。確かに受理した！で。どんな前世ルーレットがあるんだ？」

「はい～。俳優、料理人、歴史上の人物、音楽家、建築家、小説家、映画監督、プロスポーツ選手、経営者、歴代の総務大臣、医者、巫女などなど、多種多様な職業から名が知られているお方の前世ルーレットをご用意させていただいておりますう」

「ふ～む。ならばここは冒険家の前世ルーレットを選ばせてもらおうか」

「はい～。ではどうぞこの玉を放り投げてくださいませえ～。あ。僭越ながらわたくしがルーレットを回させていただきますう」

「うむ」

　ニヤリ。

　前世ルーレットを男性に勧めた賭博の胴元は、腰を低くしながらも不敵な笑みを浮かべた。

（シェシェシェシェシェエ。一度疑似生生を体験したが最後、どっぷりはまっちまって、次から次へと永久に前世ルーレットの玉を放り投げ続ける人生が待っているんだよお。シェシェシェシェシェエ。もちろん永久に無料ですよ～。ただ、その間に空っぽになっている身体をわたくしがちょいと拝借するだけでえ。あっ。ちょっとじゃないかあ。これからの人生丸ごとかあ。シェシェシェシェシェノシェノシェ）

　賭博の胴元はとりあえず一回目の体験が終えるまで、男性の身体をちょいと拝借しようとしたのだが。

「うむ！面白かったぞ！次！また頼む！」

「えっ？え。ええええ。もちろんでございますう」

（予想より早いな。いや、早過ぎないか。一分も経ってないんじゃないか？普通なら、最低一時間はかかるんだが………まあ、次があるか）

「うむ！面白かったぞ！次！また頼む！」

「ええええ、もちろんでございますう」

「うむ面白かったぞ！次！また頼む！」

「ええええ、もちろんでございますう」

「うむ！面白かったぞ！次！また頼む！」

「ええええ、もちろんでございますう」

（いや、早過ぎない。早過ぎるよ！全部一分以内で帰って来るんだけど！身体に入って、この男の人生を楽しめないんだけど！）

「うむ！面白かったぞ！次！また頼む！」

「ええええ！もちろんでございます………え゛？」

「わらわらわらわら。どうした？次の前世ルーレットはまだか？」

「え。えええっとお」

（嘘だろまさか全職種のルーレットが終わっただとお！？確かに一職種につき、一回しか玉は放り投げられないという規則があるが、この膨大な職種をすべてやり遂げる。だなんて、そんな。この男の寿命を使い尽くしても全然足りないってのに。こんな。こんな不可能な事が………まさか。いや。ターゲットは詳しく調べている。この男がまさか、）

「どうした？次の前世ルーレットはまだか？なんならもう一度最初の前世ルーレットからやり直してもいいか？どうせなら、すべての枠の人物の前世の疑似生生を体験したいのだが？」

「あ。は、は。いえ。そのお。大変申し訳ないのですがあ。一職種につき、玉を投げられるのは、一回までと決まっておりましてえ。そしてえ。お客様はすべての職種の前世ルーレットに一回、玉を放り投げておりますのでえ。そしてそしてえ。前世ルーレットはもうないのでございましてえ………では、ごきげんようという事でございましてえ」

「わらわらわらわら。なに。そんなに急いで立ち去ろうとせんでもよかろう。まだ俺と一緒に遊ぼうや。なあ。今度は、檻の中と外で一緒に。なあ？」

「ええええええっと。囚人と看囚ごっこでございますかあ？わたくしごっこ遊びはちょっとお遠慮させてもらいとおございましてえ」

「わらわらわらわら。遠慮する事はなかろう。さあさあさあさあ」

　もっと遊ぼう。

「わらわらわらわら。存外、肝っ玉の小さい男じゃのお。ちぃっと殺気を籠めて近寄うただけできぜつしちょったわい。お！賭博の胴元を捕獲したぞい！」

「は～い。お仕事ご苦労様でしたあ」

　男性は赤帽子と赤マントを身に着けた女性に、賭博の胴元を差し出した。

「どうでしたあ？有名人の前世の疑似生生体験は？」

「いや～。面白かっちゃんけんども、やっぱり、有名人の人生を疑似体験してみたかったのお」

「あはっ。ご自分も有名人なくせにい」

「わらわらわらわら。俺なんてまだまだ若輩者じゃき。あ、でも、俺の名前が書かれた枠もあったな。どうせなら、俺の前世の疑似生生を楽しめばよかったな」

「そうしたら抜け出せなかったかもしれませんよお」

「わらわらわらわら。だったら玉が入らなくて正解だったわい」

(2024.4.15)