第10話 託した未来
「...何の用事だ。遠島」
「朝に変なものを見せたのもあって謝りに来た」
「...今更。変なものというかお前の遭遇している事態だろ。...変なものですらない」
「...そうね」
遠島は俺を見てくる。
電信柱の横からすっと姿を現した彼女に眉を顰める美里。
俺は「お前は美里を殺人鬼呼ばわりした。...お前は絶対に許さない」と告げる。
そして「その前提で。何の用事だ」と話した。
すると遠島は「...私は家を出ようと思う」と言葉を発する。
「...そうか。...何処に行くんだ」
「この街には引っ越す。...だけど行方はくらませるつもり。あの家に行こうとしても私はもう居ないって事を告げに来た」
「...そうか。分かった。じゃあもう行かない。あの家には」
そう言いながら俺は目線を逸らす。
それからまた戻すと遠島は考える仕草をした。
そして俺達を見てくる。
「私が間違っているの?」
と問いかけてきた。
それは答えようがない。
そう思いながら居ると美里が「貴方は全て間違っています」と答えた。
それから「貴方がやり直せるとは思いませんが。...だけど貴方が今、脱するぐらいの危機的状況でありもがく。そして...行政に頼ればなんとかなると思います」と美里は話す。
「...私は...貴女に言われた事。絶対に忘れません。さーくんに対する事も全てを恨みに思っています」
「...」
「その上で。...私は貴女にはそんなに関わりたくないですが...だけど言わせてもらいます。一つだけ。貴方は全てが狂っている」
「...」
「...貴女は病院に行った方が良いと思います。精神的に」
「...そうね」
そして俺達は「じゃあな」と言って歩き出す。
その際に遠島は「...有難う」と呟いた。
それから去って行った。
俺達はその背中を一瞬だけ見てからそのまま帰宅を始めた。
☆
そして俺は家に帰って来た。
それから俺は玄関のドア...あれ?
開いているんだが。
そう思いながら中に入るとぽよんと胸の感触があった。
うぉう。
「おっかえりー」
「...母さん...何をしているの」
「見て分かる通り。おっぱいで受け止めている」
「...」
佐久間一子(さくまかずこ)。
俺の母親であり職業。
一応、グラビアアイドル。
「え?」という感じになったそこの君よ。
俺の母親は10代の頃に俺を出産している。
その為...まだギリギリ30代だ。
栗毛色の長髪で...胸がGカップある。
「パイパイ大きい女子は良いでしょー」
「母さん。思春期の男にそれは刺激が強い」
「えー。つまらない反応だね」
「...」
胸を持ち上げて落とすな。
というかよく俺におっぱいを滅茶苦茶に飲ませたのにそんなにデカいサイズを保てるな...、と思う。
そう考えながらため息混じりにリビングに荷物を置く。
すると母親は「そういえば」と切り出す。
そしてニコッとした。
「女の子が来たでしょ?」
「...そう...ああ!!!!!それ聞きたかったんだけど見知らぬ他人に鍵を渡しただろ!!!!?」
「そうだよ。だってあの子と関係性があるって言うから」
「母さん...勝手に鍵を...って、え?関係性?」
「え?覚えてないの...ってそうかぁ。確か記憶無くなっているもんねぇ」
「...え?」
俺は衝撃を受けながら「どういう事」と聞いてみる。
すると「白髪の子は貴方とは赤ちゃんの頃からの知り合いだったよ。以前はね。その中で貴方は麻疹の治療などの影響で高熱が出て5歳以前の記憶が無くなっているの」と言ってく...は?
俺は青ざめる。
「...待て。母さん...何で...っていうかじゃあ何で相手は...それでもあまり接して来なかったんだ俺に」
「...彼女も幼いながらに我慢していたんだ。色々とね。それに私達、親が交流しようにも私達は移動が凄かったでしょ?私が所属事務所のお仕事の撮影とかで。だから友人作ってもお別れしないといけなかった。彼女もそれを知っていたんだと思うよ」
「...」
愕然とした。
それから俺は「それで...印象に残っていたのか」と呟く。
母さんは「ゴメンね。忙しくて」と複雑な顔をする。
俺は「...その子が事故で死んだのは知っているか」と聞くと母さんは持っていて拭いていた皿を滑らせて落とした。
ガチャンと思いっきり割れてから笑顔が消える。
「...待って。何それ」
「...その女の子は電車事故に巻き込まれた。...そして亡くなった。...同姓同名と思っていたのか」
「じゃ、じゃあ...あの子は」
「...あの子は妹だ」
母さんは動揺する。
それから「...そうなの」と静かにトーンを落として喋る。
明らかに知らなかった様な感じだ。
俺は頷きながら「...俺の彼女が浮気したっていうのは知っているな?」と聞く。
すると母さんは「うん」と言う。
「...それに対して彼女が接して来た」
「...」
「...あの子は死んだんだ」
「...そうなのね...まるで悟った様な顔をしていたんだけど」
「病気だった。5歳の時に診断されたらしいけど」
俺は衝撃を受ける。
それから「待て...それじゃ」と動揺した。
「それも治療が難しいグリオーマという悪病だった」と言う。
え。
じゃ、じゃあ。
アイツが何かを隠しているのか?
「髪の毛からメラニン色素が抜けていたのは...抜け落ち過ぎた髪の毛の、抗がん剤のせいよ」
「...そうなんだな」
「そう。...大人になる将来性はないと宣告されたって...聞いた事があるけど。...そんな事に...なっているなんて...」
号泣する母さん。
俺は(それでその子は彼女に未来を託したのか...)と複雑になった。
彼女が...いや。
何故アイツが接して来たのか。
何だか分かった気がした。
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