第8話 ¿


私が狂っているのか。

それとも彼とあの女が狂っているのか。

それは分からないが。

だけど私は正しい事をしている。


そう思っている。


「おせーんだよ!!!!!」


怒号が響き渡る。

それは...私の父親の怒号だ。

オンラインカジノで金銭の全てを使い果たし狂った親父の怒号。

私に向けて酒瓶を投げつけてくる。

酒瓶は私を掠めて横に落ちる。


どうしてこうなったのだろう。

昔は親父はそれでも憧れだった。

だけどオンラインカジノに嵌ってからは破滅した。

少なくとも家族も破滅した。


母親はいつも親父に媚びを売っている。

そうしなければ親父は荒れる。

そして私は殺されるだろう。

私は思いながら酒瓶を拾ってから親父の傍に置く。


「私が遅かったのはお金を儲ける為。...だから仕方が無い」

「まあそれなら良いけど。...つーかなら金は」

「...」


私はゆっくり差し出す。

そのお金の中身は抜いている。

何故ならそうしないと生活できないから。

そう思いながら親父にお金を取られる。

だけどもう仕方が無い。


私達は洗脳された。


「恵理子。これだけか」

「...そんなものだけど。...何か文句でもある?」

「...父親に対しての言いぐさかそれは」

「私は貴方を父親として見てない。...ただひたすらに破滅を導く野郎だって思っている」

「...まあそれならそれでも良いけど」


そしてスマホを弄り出す親父。

私は頭を掻いてからそのまま親父から離れてから自室に向かう。

実の所こんなんだが私達は仲の良い一家だった。

だけど全てはオンラインカジノが悪い。

全てを破綻させた。


「まあ」


だけど私は何も悪い事だと思って無い。

取られるものは取られるけど。

そのお陰で新しい恋人も出来たし。

だけど隆一の事だけが上手くいかない。

私は親指を噛む。


「...あれは許せないな」


そんな事を呟きながら居るとドアが開いた。

それから「恵理子」と母親が入って来る。

私は「何」とそっけなく答える。

すると「お金が欲しいんだけど」と母親が言う。

またかこの女。


「あのさ。いい加減に働いたら?貴方も」

「私は父親を支える義務があるの。分かる?」

「...」


毎回毎回。

この女は買い物依存だ。

私は不愉快な顔で母親に鞄からお金を渡す。

すると1万円札を折りたたみながら母親はニコッとした。

「有難う。恵理子。大好きよ」と明るく言いながらだ。


それはお金を渡された時だけだ。

私には普段...滅茶苦茶に冷たい。

破滅しているぐらいにだ。

私は...家を出て行った姉を想いながら外を見る。


「...私も大概だな」


出て行った母親を見てから考える。

簡単に言えば私もこの家を出て行ったら良いのだけど。

親を見捨てれないというのもある。

というか私が歪んだのは親のせいなのか?


「...まさかな。私は歪んでいるのか?」


そんな事を呟きながら居ると「うがぁ!!!!!」と声がしてくる。

親父がカジノで負けた合図だ。

煩い。

考えながら勉強をする。

いつかこの束縛が解除される日が来るだろうか。


そんな事を思いながら。



そして私はその日、寝た。

それから翌日になってから起き上がる。

そうしてから準備をしてから家を出て行く。

親父も母親も寝ているので静かに。

そして数メートル歩いて目の前を見ると何故か隆一が居た。


「...何をしているの」

「お前に会いたくも無いんだが。...お前の事で1つだけ引っ掛かってな」

「...何が?」

「お前の親父さん。...ギャンブル依存症だってな」

「私はそうは思わない。...何処で聞いたのそれ」

「...お前の親友に聞いたよ。北川白菊(きたがわしらぎく)さんって人に」

「,,,何でその人を知っているの」

「...公園で泣いて座り込んでいた女子が居てな。それで聞いたらお前の名前が出た」


「そして全てを聞いたよ。あの子が可哀想だってな」という感じで言う隆一。

私は「そうは思わない」と否定した。

「それよか貴方の事だよ。危険だって言ったでしょ」という感じでだ。

すると隆一は「話をすり替えるな」と怒る。


「病院に連れて行けよ。親父さんを」

「だから私はそんな感じに思って無いっての」

「お前は狂っているぞ。...全てが狂っている。お前は正常じゃない」

「私の脳みそが焼けているとでも?」

「回線が狂っている。...まあお前の家族だからお前の自由だけど」


そして踵を返す隆一。

私はそんな隆一の背中に「あの女と別れる気になった?」と尋ねる。

すると隆一は「そんな事を考えるよりお前自身の未来を考えるべきだ」と答えた。

それから隆一はそのまま去って行く。


「...」


私がおかしいのか?

そんな訳ない。

私は考えながら歩いていると白菊が電信柱から出て来た。

それから私を見上げてくる。


丸眼鏡の少女。

私をおずおずと見てくる。

文学系の少女だ。

だけど私の大切な友人である。


「白菊。おはよう」

「...ねえ。恵理子」

「うん?何?」

「...私...貴女が心配」

「...」


「貴方のやっている事も全部...破滅的。私は...貴女の友人を何度も辞めようとしたけど...だけど辞めようって思わない。家庭の事情を知っているから」と言う。

私は白菊を見る。

そして笑顔になった。


「大丈夫だよ。白菊。私はまともだから」

「恵理子。...私は浮気も正常じゃ無いって思う。もう止めよう。全てがおかしい」

「私は止めないよ。だって私はまともだから」


白菊は涙を流す。

そして私を見ながら「分かった」と言う。

それから私達は学校に向かう。


そう。


私はまともだ。

至って正常だ。

おかしいのはこの世界だ¿

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