第8話 ¿
☆
私が狂っているのか。
それとも彼とあの女が狂っているのか。
それは分からないが。
だけど私は正しい事をしている。
そう思っている。
「おせーんだよ!!!!!」
怒号が響き渡る。
それは...私の父親の怒号だ。
オンラインカジノで金銭の全てを使い果たし狂った親父の怒号。
私に向けて酒瓶を投げつけてくる。
酒瓶は私を掠めて横に落ちる。
どうしてこうなったのだろう。
昔は親父はそれでも憧れだった。
だけどオンラインカジノに嵌ってからは破滅した。
少なくとも家族も破滅した。
母親はいつも親父に媚びを売っている。
そうしなければ親父は荒れる。
そして私は殺されるだろう。
私は思いながら酒瓶を拾ってから親父の傍に置く。
「私が遅かったのはお金を儲ける為。...だから仕方が無い」
「まあそれなら良いけど。...つーかなら金は」
「...」
私はゆっくり差し出す。
そのお金の中身は抜いている。
何故ならそうしないと生活できないから。
そう思いながら親父にお金を取られる。
だけどもう仕方が無い。
私達は洗脳された。
「恵理子。これだけか」
「...そんなものだけど。...何か文句でもある?」
「...父親に対しての言いぐさかそれは」
「私は貴方を父親として見てない。...ただひたすらに破滅を導く野郎だって思っている」
「...まあそれならそれでも良いけど」
そしてスマホを弄り出す親父。
私は頭を掻いてからそのまま親父から離れてから自室に向かう。
実の所こんなんだが私達は仲の良い一家だった。
だけど全てはオンラインカジノが悪い。
全てを破綻させた。
「まあ」
だけど私は何も悪い事だと思って無い。
取られるものは取られるけど。
そのお陰で新しい恋人も出来たし。
だけど隆一の事だけが上手くいかない。
私は親指を噛む。
「...あれは許せないな」
そんな事を呟きながら居るとドアが開いた。
それから「恵理子」と母親が入って来る。
私は「何」とそっけなく答える。
すると「お金が欲しいんだけど」と母親が言う。
またかこの女。
「あのさ。いい加減に働いたら?貴方も」
「私は父親を支える義務があるの。分かる?」
「...」
毎回毎回。
この女は買い物依存だ。
私は不愉快な顔で母親に鞄からお金を渡す。
すると1万円札を折りたたみながら母親はニコッとした。
「有難う。恵理子。大好きよ」と明るく言いながらだ。
それはお金を渡された時だけだ。
私には普段...滅茶苦茶に冷たい。
破滅しているぐらいにだ。
私は...家を出て行った姉を想いながら外を見る。
「...私も大概だな」
出て行った母親を見てから考える。
簡単に言えば私もこの家を出て行ったら良いのだけど。
親を見捨てれないというのもある。
というか私が歪んだのは親のせいなのか?
「...まさかな。私は歪んでいるのか?」
そんな事を呟きながら居ると「うがぁ!!!!!」と声がしてくる。
親父がカジノで負けた合図だ。
煩い。
考えながら勉強をする。
いつかこの束縛が解除される日が来るだろうか。
そんな事を思いながら。
☆
そして私はその日、寝た。
それから翌日になってから起き上がる。
そうしてから準備をしてから家を出て行く。
親父も母親も寝ているので静かに。
そして数メートル歩いて目の前を見ると何故か隆一が居た。
「...何をしているの」
「お前に会いたくも無いんだが。...お前の事で1つだけ引っ掛かってな」
「...何が?」
「お前の親父さん。...ギャンブル依存症だってな」
「私はそうは思わない。...何処で聞いたのそれ」
「...お前の親友に聞いたよ。北川白菊(きたがわしらぎく)さんって人に」
「,,,何でその人を知っているの」
「...公園で泣いて座り込んでいた女子が居てな。それで聞いたらお前の名前が出た」
「そして全てを聞いたよ。あの子が可哀想だってな」という感じで言う隆一。
私は「そうは思わない」と否定した。
「それよか貴方の事だよ。危険だって言ったでしょ」という感じでだ。
すると隆一は「話をすり替えるな」と怒る。
「病院に連れて行けよ。親父さんを」
「だから私はそんな感じに思って無いっての」
「お前は狂っているぞ。...全てが狂っている。お前は正常じゃない」
「私の脳みそが焼けているとでも?」
「回線が狂っている。...まあお前の家族だからお前の自由だけど」
そして踵を返す隆一。
私はそんな隆一の背中に「あの女と別れる気になった?」と尋ねる。
すると隆一は「そんな事を考えるよりお前自身の未来を考えるべきだ」と答えた。
それから隆一はそのまま去って行く。
「...」
私がおかしいのか?
そんな訳ない。
私は考えながら歩いていると白菊が電信柱から出て来た。
それから私を見上げてくる。
丸眼鏡の少女。
私をおずおずと見てくる。
文学系の少女だ。
だけど私の大切な友人である。
「白菊。おはよう」
「...ねえ。恵理子」
「うん?何?」
「...私...貴女が心配」
「...」
「貴方のやっている事も全部...破滅的。私は...貴女の友人を何度も辞めようとしたけど...だけど辞めようって思わない。家庭の事情を知っているから」と言う。
私は白菊を見る。
そして笑顔になった。
「大丈夫だよ。白菊。私はまともだから」
「恵理子。...私は浮気も正常じゃ無いって思う。もう止めよう。全てがおかしい」
「私は止めないよ。だって私はまともだから」
白菊は涙を流す。
そして私を見ながら「分かった」と言う。
それから私達は学校に向かう。
そう。
私はまともだ。
至って正常だ。
おかしいのはこの世界だ¿
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