閑話“交差点”
北方領土、某所。
男性たちが頭を突き合わせ、
モニターに釘付けになっていた。
そこに写し出されているのは、
人工衛星が撮影している戦場だった。
「こんなっ……。
魔王が集結するなんて!」
「日本政府は何をしている?!」
そんな怒号が飛び交う。
自分たちは自国民を極寒の地に置き去りにして、
ここへ逃げ込んだと言うのに、だ。
「このままでは、“櫻葉涼治”が危ない。」
「魔王の一人、二人なら相手取れるだろうが、
四人は多勢に無勢だ。」
「他のハンターは何故助けにいかない!」
人類の最終兵器、最強のハンター。
暗にそう揶揄される少年の名前が上がった。
モニターには、魔王に翻弄される少年が写っている。
まだ、魔王側に形勢が逆転したところらしい。
「……やむ終えない。
あのアイテムを使用しよう!」
男性たちは皆、肯定的に首を振る。
あのアイテム、とは、
ロシア政府が隠し持っていたドロップアイテム。
「……“召喚陣”の使用を許可する。」
「“櫻葉涼治”を、ここに一時避難させる。
万全の態勢にし、我が国がバックアップして、
再戦し魔王を討伐する。」
“召喚陣”。
名前の通り、遠くはなれたところにいる者を、
陣の中へ呼び寄せるドロップアイテム。
大きな石の板がある一室に運び込まれ、
刻まれた魔法陣の真ん中に真っ赤に血濡れたマントが置かれた。
「工作員がゴミ捨て場から回収した、
“櫻葉涼治”のマントだ。
彼の血がべったり付着しており、
召喚の触媒にぴったりだ。」
「待て。
そのマント自体、かなりの価値があるものでは?」
「研究所では解析できなかった。
血を採取できたから、後は不要だ。」
魔法陣の端に大きな魔石が置かれた。
魔石は光だし、陣も一緒に輝きだした。
「おぉ。素晴らしい。」
男性たちが感嘆の声を上げる。
なお、このアイテム、
性格には“召喚陣”と言う名前ではない。
正しくは“ゲート”と呼ばれるものだった。
これは、
確かに遠くにいる者を呼び寄せることができる。
呼び出したい者と縁のある物質を触媒にすれば、
相手を選ぶこともできる。
魔石があれば何度でも使用可能だ。
ロシアの政府関係者たちはこれを使って安全に北方領土に逃げてきた。
だが、触媒に縁がある者が複数いる場合を、
彼らは知らない。
基本的に触媒と強い縁の者を呼び出し対象にするが、
例えば、その触媒を作った作成者も対象に含まれる。
このマントの場合は、
櫻葉涼治と作成者の小田玖美と言う具合だ。
そこにこのマントの経歴上、
縁のある者も追加される。
例えば、櫻葉涼治の従魔のガーネットとネル。
このマントで簀巻きにされた、猿の魔王等。
ただ、使用者と作成者に比べると、
呼び出し対象になる可能性は低い。
具体的に言えば、
櫻葉涼治が八割、小田玖美一割、
ガーネットとネルが五分、猿の魔王等が四分。
残り一分について、
これは縁と呼べるが方向性が違った。
対象側が、強く強く、強く強く、
櫻葉涼治との縁を求めたため割り込んだものだった。
「出てくるぞ!」
魔方陣が光を強め、
陣の中に人影が見えた。
一分。1%。
ゼロでなければ、彼女はそれを掴みに行く。
愛しい愛しい人に、逢いに行くため。
光が爆発し、何も見えなくなった。
光が収まり、皆が魔方陣を見る。
「ここは、どこかしら?」
彼女はそう言って、周囲を見渡した。
阿鼻叫喚。
控えていた軍部のハンターたちが部屋に飛び込み、
彼女に攻撃するが当たるわけがない。
彼女はため息をついて、その一撃を振るった。
建物が真っ二つに両断され、一瞬で崩壊する。
まばたきしている間に、ロシア政府は全滅した。
「いつもの山じゃない。
草原でもない。
ここは、どこ?」
彼女は月夜の空を見上げ、瓦礫に腰かけた。
ふと、瓦礫から音が聞こえた。
それは男たちが見ていたモニターだった。
彼女は慎重にそれをつまみ上げた。
そこに写っているのは、愛しい愛しい彼だった。
思わず彼女の顔がほころぶ。
「ここに、はいないのね。
どこかには、いるのね。」
彼女はそう言って、モニターをそっと地面に置いた。
檻から出た凶獣は、月光を浴び踊る。
そして、風に乗ってきたかすかな闘いの匂いを嗅ぎ付けて、
彼女は駆け出した。
闘いの中に、愛しい愛しい彼がいるはずだから。
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