閑話“空路”

 機体が軋み、

密閉されたはずのコックピットにすら悲鳴が届く。

何もかも度外視で、ただひたすら飛び続ける。

 このまま永遠に飛び続けられたら、

パイロットはあり得ないことを願う。


「応答せよ!

脱出できないのか?!

応答せよ!」


 管制官から怒号が聞こえる。


「……いや、脱出しない。

このまま行く。」

「何言ってんだ?!

脱出できるんだぞ!?」


 俺は懐の葉巻をカッターで切り、口にくわえる。


「それはできない。

あぁ、できないね。

こんなバケモノほっといて、

自分だけ逃げるなんて。」


 葉巻に火をつけた。


「何バカなことを言ってるんだ?!

家族はどうするんだ?!」

「だからだろ?

このまま飛んでいって、

日本で戦ってる魔王にぶつければ、

最悪相討ちできるかも。」

「お前!」

「俺は極悪人だ。

最低、最悪の男だ。

だから、ほっといてくれ。」


 そう言って、男は無線のスイッチを切る。


「自国のハンターも全滅したんだ。

俺がこうやって飛んでも、

こいつはまた英国に飛んでく。

 それなら、ちょっとでも倒せる見込みのある

プランが良い。」


 偶然聞いた船からのオープンチャンネル。

米国が魔王を日本に押し付けた。


 なら、俺は個人でやる。


 すまんな、日本人。

すまんな、櫻葉とやら。

恨んでくれ、憎んでくれ。

ただし、この俺をだ。


「最後のランデブーに、最高級の棺付きだ!

極悪人には勿体ないねぇ。」


 音速が出せる戦闘機ではあるが、

速さのために武器を積むことがほとんどできない。

俺みたいなヤツ、と男がコックピットで笑った。


「見えてきた。

おぉ!

光ってるぜ!

見ろよ、ドラゴン!

あそこに連れていってやる!

ステーキにされちまいな!」

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