閑話“落葉”
とうとうと言うべきか、
早すぎると言うべきか。
中国政府との通信が完全に途絶えた。
ロシア政府は本土を放棄。
政府関係者だけ北方領土に逃げ込んだ。
イギリスはEUに助けを求めたが、
別の魔王が襲撃し混乱を極めている。
南米の国々は太平洋沖にいる魔王の影響で
海岸線にあった街や村が全滅。
大陸の中央を取り合って戦争を起こした。
だが、陸に落ちた魔王がそこに集まってしまい、
人間の生存率は皆無らしい。
「人間はこんなに矮小なのか。」
思わず溢れた言葉に賛同するように
そこらからため息がちらほら聞こえてきた。
数十億いた人類は、瞬く間にその絶対数を減らす。
「日本は本当に、ただ運が良かった。
それだけなのだから、しようがない。
他国から助けを求められても、何もできない。
彼を頼るのも、筋違いだ。」
「だが、魔王は日本に来てしまった。
それも、彼のところへ。」
数名、頭を抱えている。
防衛省関係だろう。
「報告書では、
“既存のダンジョン奥地に魔王より強力なモンスターがいた”、と
書いてあった。
じゃぁ、魔王に怯える我々はどうすればいいのか。」
本来ならヤジが飛び交う発言だが、
誰もなにも言わない。
「……彼を頼る他ない。」
たった16歳の少年。
しかも、その身の上は恵まれたものではない。
ポーション事件では、
旧日本政府と国連に散々な目に遭わされ。
それでも全線で命を懸けて戦った、ハンター。
いくら面の皮が張った政治家でも、
自分を正当化する“言葉”しか並べられない。
しかし、今はその言葉だけで進むしかなかった。
「アメリカから、
原子力空母がまっすぐ日本に向って航行している。」
空気が張り積めた。
「生き残った国民をハワイへ逃がすためのものだと聞いていたが、
どうやら違ったらしい。」
「船からオープンチャネルに通信があった。」
誰かがパソコンを操作した。
部屋のスピーカーから人の声がする。
その声は英語だった。
「"God, forgive me. I can’t come to you.
I’m going to hell.
Somebody, anybody, listen to me!
Right now, we’ve got the Devil himself on board!
My crew—they’re all turning into zombies, eating each other.
No surprise though.
This is the monster we couldn’t kill back home.
And now we’re sending him to Japan.
It’s not Japan’s fault, it’s ours.
I’m sorry. I really am, from the bottom of my heart.
I’m sorry. It was an order…but that’s no excuse.
I’m the bad guy here, the worst.
If you need someone to blame, blame me.
If you want revenge, take it out on me.
I just wanted to protect my family.
I’m sorry. I know there’s no forgiveness for me.
This message, too, it’s just me being selfish.
But I had to say it.
Japan, the people of Japan, Ryōji Sakura—I’m sorry.
We’re dumping all this on a kid, an innocent kid.
And not even an American one.
……You can’t forgive me, I know that.
I was told not to send this, but my superiors are dead now.
I’m the last one standing.
I’m sorry. I really am.
……God."
(神よ、お許しください。
私はあなたの身元には行けません。
地獄に墜ちるでしょう。
誰でも良い、聞いてくれ。
俺たちは今、魔王を積んで航行している!
仲間はどんどんゾンビにされて、他の仲間を食い出した。
当たり前だ。自国で倒せなかった化け物だ。
俺たちは魔王を日本へ押し付ける。
日本は悪くない。悪いのは俺たちだ。
すまない。本当に心から謝罪する。
すまない。
命令だった。だが、それを言い分けにするつもりはない。
私は極悪人だ。
恨むなら、憎むなら私にしてくれ。
復讐するなら私にしてくれ。
家族を護りたかったんだ。
すまない。許されるつもりはない。
この通信も私の自己満足だ。
でも、言おう。
日本よ、日本人よ、櫻葉涼治さん、
本当にごめんなさい。
ただの子供に。
しかも、アメリカ人じゃない子供に、
何もかも押し付ける。
……許される訳がない。
通信するなと命令されていたが、もう上官は死んだ。
今、私一人だ。
すまない。本当にすまない。
……神よ。)」
決意した人間の声だ。
震えているが、はっきりとしている。
「……彼は同じようなことを十分間話し、
悲鳴を上げて通信が切断されました。
一時間前のことです。」
「……この前は魔王が自ら日本に来た。
だが、今回は違う。
アメリカ政府はだんまりを決め込んでるが、
彼らは意図して魔王を日本に擦り付ける気だ。」
もう誰もぐうの音も、ため息すらでない。
「空母はまだ太平洋沖だ。
日本には約二時間で到着するだろう。
運が悪いことに、今日は晴天だ。
順風満帆にここへ向かってきている。」
次に言わなければならない台詞は分かっている。
この場にいる人間全員が分かった上で言えない。
言うと、政治家として、大人として、
人としての尊厳が失われる気がするからだ。
「……。」
口は開くが、誰からも声が上がらなかった。
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