閑話“北斗七星”
見られている。
見られて、望まれて。
その望み通りの形に、声に、役になる。
幼い頃から、そうしていた。
周囲の大人たちにも、親にも。
子役は天職だったと今でも思う。
たくさんの目に見られ、
その目の数だけ私がいて。
それで良いと思っていた。
それが全てだと思っていた。
大人になって、それが窮屈に感じてきた。
誰にも見向きもされない職を探した。
それが、ハンターだった。
でも、ハンターになっても、目はついてきた。
結局、なにも変わらなかった。
レベルが上がっても、クランに所属しても。
見られて、望まれて。
その望み通りの形に、声に、役になっていた。
吾郎と初めて会ったときは、
おかしかった。
望まれている形をわかっているのに、
望まれている声をわかっているのに、
その役になれない人。
気がつくと彼のお節介を焼いていた。
私はあの日、別の県にいた。
それを見た吾郎が子供のようにはしゃいでいた。
「すごい!
あの人、すごいんだ!」
私は流出した動画を見た。
正直言って、アニメだと思った。
でも、ハンターをやってる限り、
モンスターの恐ろしさは知っている。
だが、それはモンスターを文字通りちぎっては投げ、
殴っては砕いていく。
どっちがモンスターかわからない。
吠える、叫ぶ。
虫の体液を撒き散らして、大暴れ。
フィクションとかファンタジーだ。
ビルみたいなボスを殴り潰したのは圧巻だった。
思わず監督と演出の名前を確認したくなった。
その目は、目の前のモンスターしか見ていなかった。
本人に会ったのはその後。
初対面の印象は不気味だった。
スライムを頭から被り、
真っ黒のピッチリしたスーツ。
腰から下はインド映画みたいなパンツ。
白いマントとラッパみたいなグローブは
何かの冗談にしか見えなかった。
でも、この人は私も吾郎も誰も見ていなかった。
視界には入っているが、見えているのだと思うが、
見ていない。
吾郎の話を聞いているが、
どこかここにいない感じがした。
そこに、あの事件が起きた。
勝手に彼を“鑑定”した仲間が、変な声をだした。
その瞬間、彼は敵を見た。
私はスキルを使って全速力で仲間を助けようとしたが、
その拳から炎が飛び出し仲間を焼き払った。
取り囲んでいた仲間も、一瞬で切り裂かれ。
捕まっていた人も、地面に叩きつけられた。
よく問題を起こしていた素行の悪い連中だったけど、
仲間であることは変わりなかった。
後から委員会の差し金だったとわかっても、
私は納得できなかった。
いけすかない。
ムカつく。
よくわからないけど、気に入らない。
吾郎や皆の言うことはわかる。
ハンターは生易しい世界じゃない。
でも、気にくわなかった。
何故、見ない。
ポーション事件では私は何もできなかった。
騒ぐだけ。わめくだけ。
無力感に打ちのめされた。
完膚なきまでに、お荷物。
望まれない。
彼が私をかばった瞬間、私もスキルを使っていた。
だから、だから、あの瞬間をはっきり見てしまった。
望まれない。
あれこそフィクションなら、どれだけ良かったか。
私を抱え、吾郎をかかえ、議長を抱えて。
ガーネットちゃんをかばい、迷わず。
敵だけを見ていた。
なんやかんやあって、生き返ったときも驚いた。
その直前まで打ちのめされていたのが、ぶっとんだ。
と、言うか股間は隠してほしかった。
堂々としないでほしかった。
ゴーヤーくらいあった……。
本当に、望まれなかった。
色々あって、服をもらって。
全速力で走ることができるようになった。
「仲間ではないので、当然では?」
この一言は結構刺さった。
望まれていない。
ここにいる人たちは皆、
彼と同じで私なんか見ていなかった。
見られるのが窮屈になってハンターになったのに、
見られないことが辛かった。
望まれたなら、そうなるよ。
見てくれるなら、そうなら。
初めて全速力で走った。
音も、光も、色も、
なにもかも置いて行って。
ここには誰もいない。
誰にも見られない。
誰にも望まれない。
完全な孤独。
あぁ、なんて、なんて。
自由なんだろう。
どんな顔をしてもどんな声をしても、
誰も見えない、聞こえない。
好きにポーズして、好きに笑って。
最高!
でも、気になって彼を見た。
見えてないみたいだけど、
初めて私のことを見ようとしてくれていた。
んふふふ。
そうそう。
見ようとしてくれていた。
でも、誰にも見えない、聞こえない。
ここは、私のための私だけの舞台。
ここでは、光輝く必要なんてない。
解放感で色々漏らしそうになるが、
さすがに自重した。
だってせっかくの私のための私だけの衣装だもん。
でも、このデザインは、いただけない。
パイルバンカーもあるし、
デザインは私が自分で決めたい。
私が初めて私のために作るデザイン。
自由だ。
自由(孤独)だ。
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