第36話 本道
「イカれたメンバーを紹介するっス!」
初手からフルスロットル、全開の小田さん。
朝に激しい戦闘があってからのこれは、少し辛い。
俺は帆もなく流されるイカダの気分だ。
「まずは、銃火器開発部リーダー、山口!」
「ぼくかぁね!
銃が好きなんです!
押し寄せる敵の群れを、鉛の弾丸が蹴散らしていく!
そうですよ!
硝煙を燻らせ! 薬莢を撒き散らし!
轟音の中! はち切れそうな上腕二頭筋が!
大きな銃をぶっぱなす!
できないって?
誰が決めたんだ!
そうだ! そうだよ!
皆ー! できっこないを! やらなくちゃ!」
小太りで丸メガネをかけた男性が、
紹介する小田さんのテンションより高い自己紹介をする。
以前見た研究員の皆は、骨と皮しかなかったのに。
この数ヵ月で人間らしい見た目になったなぁ。
俺は感慨深く見ていた。
「次っス!
金属器開発部リーダー、泉屋!」
「でっけぇ漢が! でっけぇ剣ぶん回す!
鋼の鎧で身を固め! びびる音を鳴らし駆け回る!
ロマンじゃねぇか!?
なぁ! そう思うよなぁ!?
東京タワーみてぇな! でかくて分厚い大剣を!
小枝みてぇにぶんぶん振り回す!
それが! それこそが!
ダンジョンにみる、ロマンだろぉが!」
筋肉質で色黒の女性が、鎚を持って叫ぶ。
彼女はたしか、最初に黒いのに食べられてた人だな。
こんな元気な方だったとは。
俺は良い意味で驚いた。
「そして、繊維•樹脂開発部リーダー兼局長の
この小田っス!」
ばーん、と何故かドローンが
クラッカーを鳴らし、七色に光って飛び回っている。
この為に用意したのか、七機も。
「ここからは、非公開部門っス!
カモン! 魔術開発部リーダー、小暮(おぐれ)!」
「ひゃーっはー!
オカルトだって!?
知ったことか!
私が! 私たちが! 私たちこそが!
この世にまだ存在しないものを!
未知を! 不可思議を!
観測して! 検証して! 我が物とせん!
そうとも! 私は!
バキバキの魔法使い(32歳童貞)!
馬鹿にしてくれてかまわない!
私たちには! 夢がある!」
痩身で長身の男性が、
白衣にドクロや十字架のシルバーアクセを
じゃらじゃら揺らす。
部屋のガラスを揺らすほどの大声だ。
この人、見た目は以前とあまり変わってないのに
人柄がすごい主張する人なんだな。
「次っス!
ただの総務にするのは惜しすぎたっス!
電脳開発部リーダー、呉羽!」
「イエア!
まず、部外者の俺たちに、
友愛の繋がり、絆の形、
見せてくれて、魅せられて、感謝、感激。
ギークな俺たち、絶対アンタに
チープな思いはさせねぇぜ。
エレクトリックに!
ファンタスティックに!
でも、システマティックに!
任せろ、やるぜ。
俺ら電脳開発部!」
ポーション事件で動画の拡散とドローン撮影をしてくれた、
ホワイトハッカーたちか。
風船みたいな体型で、
タータンチェックのシャツを着て、
ズボンをへそより上にあげシャツをそこにいれている。
頭にもチェック柄のバンダナを巻いた集団が名乗りをあげた。
太った人ばかりだが、
全員顔はかなりイケメンの部類だ。
謎の一体感がある。
「以上が!
来月から開始する櫻葉研究所の
主要メンバーっスー!」
「濃すぎるよ!
なにこれ!?
牛めし屋さんのトマトハンバーグの味より濃いよ!」
黒川が声を張り上げてツッコんだ。
その横で財前が赤べこ人形のように笑っている。
「ははは……。
勝てないよ。
何がって? もう世界が違うよ。
日本で一番? もうそんな言葉信じらんないよ。」
「吾郎!
しっかりして!
私ももう限界なんだから!」
この騒がしい感じがポーション事件を思い出させる。
俺は研究員たちに向き直って言う。
「皆さん、よろしくお願いします。
銃火器開発部には、既にお世話になりました。
あの火薬、魔王の手を吹き飛ばしましたよ。」
「やった!
そうだ! できたんだ!
いやったー!!」
山口が号泣しながら叫んだ。
そこまで嬉しいのか。
「大和桜が早速グロス単位で買ってくれるそうです。」
「財前さん、あれ1個八千万するっスよ。」
「それでも買うでしょ!?
だって、魔王なんてのがいるんですから。」
「待った。
その前に八千万もどこから湧いてきました?」
「そこはうちっスよ。
報告してた冒険者向けインナーっス。
販売開始3秒で在庫全部売れて、
今予約が三年待ちっス。
そのマントとドゥティの生地を組み合わせて、
防御と伸縮を兼ね備えた良品っス!
お兄さんの分も特注サイズで用意してるっス!」
そういう問題じゃないんだが、
小田さんたちは胸を張ってドヤ顔をしている。
緒方さんも胸を張っている。
「秒で10億稼いだんっス!
他の人にも還元しないとっス!」
「銀行にいくらかいれてくださいね。」
「そこは、経理が上手いことしてくれてるっス。
藤堂弁護士の用意した税理士さん、
あの人も切れ者っス。
10億稼いだ、って報告して、
翌日にはどうやったのか80億になってたっス。」
財前がまた笑う。
とうとう黒川も笑いだした。
「バケモノって、言いたくなかったけど。
これは、バケモノでしょ。」
「東野技研、倒産したっけ。
そりゃ、倒産するよね。
こんな人材腐らせてたんだから。」
乾いた笑いをあげる二人。
「さて、皆様。
今日魔王に襲われたのは報告しましたね。
生け捕りにしたので、
色々素材をいただいてしまいましょう。」
ガーネットはそう言って、幻覚の魔法を解く。
そこには重傷で結界にくるまれた金猿がいた。
ぐったり床にころがされ、
息も絶え絶えな状態だ。
研究員たちから歓声が上がる。
「アレ持ってきて欲しいっスー。」
「用意してます。」
小田さんが緒方さんにつれられてとなりの部屋に行った。
小田さんが戻ってくると、
数十本のロボットアームを装着して
クラゲやタコのようになっていた。
「皆、安全のために採取はあたしがするっスよ。
皆はシャーレとか保存容器を用意して欲しいっス。」
「ドローン集合!
撮影開始!
レントゲン照射!
サーモカメラ用意!
3D撮影用のドローンも出して!」
「骨! 骨くれ!」
「爆弾での破壊痕を撮影してくれ!」
「毛を全部剃ろう!」
「血! 血をくれ!
保冷バッグありったけ!」
「DNA! DNA! DNA!」
熱気がすごい。
金猿が怯えて縮み上がっている。
逃がさないと言わんばかりに
数十本のロボットアームが襲いかかった。
そこからは略奪、強奪。
阿鼻叫喚があがっても容赦なく切り刻み、
奪われる金猿。
「……えぐい。」
「……吐きそう。」
「お二人とも、
これくらいで参っていたらもちませんよ?
はーい。回復しますねー。」
「え?」
ガーネットは泣き叫ぶ金猿に回復魔法をかける。
毛は戻らなかったが、剥がされた皮や骨、
血や肉が元通り戻った。
すぐさまそれらが剥がされていく。
金猿は絶叫した。
だが、ロボットアームは止まらない。
ドローンは無機質にその様子を撮影し、
研究員たちは保存容器があるだけ奪い続ける。
泣き、叫び、許しを乞うように手を伸ばすが、
誰もそれをとることはない。
爪が剥がれ、皮を剥がれ、血を抜かれ、歯を抜かれ。
死ねず。
また回復され、奪われる。
「一応聞くが、まだ本体はここにいるんだよな。」
「ある、アルジ様。
憑依は簡単ではありません。
本体はまだここにいますし、
逃げ出そうとしてますが失敗しています。」
ネルはそう言って笑う。
「ある、アルジ様を攻撃した報いは受けてもらいます。」
「良いこと言いましたね、ネル。
私も呪術の維持のため、
前線で戦えなかった鬱憤をここで晴らそうと思います。」
二人は良い笑顔でそう言う。
スフェーンとの戦いにちゃんと参戦できなかったことを
二人とも気にしていたようだ。
「私、無理。」
「僕もキツい。」
大和桜の二人はその光景に背を向けて耳を塞いでいる。
「っていうか、櫻葉さん。
魔王は学校のダンジョンに捨てるって。
実際、捨ててませんでしたっけ?」
「捨てた幻覚です。
どうせ捨てた途端、中身だけ逃げるでしょうから。
有効に使える部分は全部使わせてもらうことにしました。」
とうとう黒川が嘔吐する。
「エグすぎる……。」
「私と小田さんたちは、
魔王は“勇者”関連の何かだと見ています。
徹底的に、やり過ぎくらいで行かないと、
足元を掬われる恐れがあるので。
後、良い素材生成装置ですし。
死んでもまた次が来るなら、取り放題ですし。」
“勇者”の一言で顔が引き締まる二人。
だが、俺が取り放題と言った時にはすごい顔で
“ない!”と言われた。
一通り素材がとりつくされ、
残骸になった金猿。
生き物としての原型がほぼ残っていない。
辛うじて生きている、と言った状態だ。
このまま数分もすれば確実に死ぬ。
ガーネットはまた死なない程度に回復を施した。
手足は根本からない。
顔はもう原型をとどめておらず、
目は虚ろに蛍光灯の光を見つめている。
毛は根こそぎ刈り取られ、乳房は切り取られ。
骨と皮だけの身体は浅く呼吸で上下するだけ。
「死なないように点滴で栄養を送っておくっスよ。
また採れそうなら血とかリンパ液とか採るっス。」
研究員たちはホクホクした顔で各々散っていく。
「後程映像をデータ化して展開しまーす。」
「DNA検査の結果は二週間くらいで出る。」
「骨素材で鉄器強化ってくりゃ、ハンターだぜ!」
「火薬の量を増やすより、
鉛玉を仕込んで破壊力をあげよう!」
「体液を媒体に“魔力”を観測するぞ!」
もうこうなると、皆自分の世界に入ってしまう。
自然に解散し始める研究員たち。
「そうそう、皆さんにはすこし話があるっス。」
小田さんがうぞうぞとロボットアームで歩いてくる。
「大和桜でも公表して欲しい情報っス。」
財前と黒川は小田さんへ向き直る。
ガーネットとネルは金猿をバリアでくるんで、
こっちへ飛んできた。
「太平洋沖に落ちた魔王について、
情報が入ってきたっス。
詳しく容姿はわからないっスが、
大きな生命体で海上を回遊してる状態っス。
容姿がわからない原因が、
魔王から半径1キロ圏内に入った生き物は死滅するからっス。
軍用ドローンも突然動かなくなって、
全部壊れてるっス。
これ、たぶん“エナジードレイン”っス。
かつて“勇者”が世界を恐怖させた、最悪のスキルっス。」
田園調布のダンジョン、ポーション、
17、エネルギードレイン。
ここまで揃うともう否定できない。
この魔王たちは、“勇者たち”にまつわる何かだ。
だが、ネルに聞いてみたが、
ネルは何も知らなかった。
もっているスキルセットも“勇者”とは関係がない。
「後、さっきの猿の魔王の話を
ガーネットちゃんから聞いた限りで思ったのは、
魔王は間接的に“不滅”を目指してるっス。
猿の魔王は憑依による身体の交換での“不滅”っス。
アメリカの魔王はゾンビを操っているっス。
これはアンデットによる死んでも存在し続ける“不滅”っス。
太平洋沖にいる魔王は海と言う
無尽蔵のエネルギー庫からエネルギーを奪い続けることで
“不滅”になろうとしていると思うんっス。
“勇者たち”は老いを、死を恐れて
ポーションにこだわったっス。
あたしには無関係とは思えないんっスよ。」
小田さんに考える仕事を任せて正解だった。
俺は感心して唸った。
財前と黒川は深く眉間にシワを寄せている。
「確証はないっスけど、
あたしはネルちゃんは巻き込まれただけで、
他の16の魔王が“勇者たちの成れの果て”って、
考えてるっス。
その方がしっくりくる点が多いんっス。
田園調布のダンジョンを調べられればいいんっスけど、
あの光の塔に誰も近寄れないって話題になってるっス。
近づくほど動きがどんどん遅くなって、
ドローンも何もろくに進めないって話っス。」
この騒動は昨日今日始まった話じゃなさそうだ。
俺は思わず頭を抱えた。
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