閑話“路傍”
ダンジョンから出て、仲間たちに迎えられた。
心配してくれていたのだろう。
わかるけど、今は止めて欲しかった。
何もできなかった。
以前のことがあり、自分を見直した。
僕なら、僕こそ。
そう考えていたことすら、おこがましかった。
魔王を引きずった巨人が僕に続いてダンジョンから出てきた。
仲間たちから歓声が上がる。
そりゃそうだ。当然だ。
妬みすら湧かない。
圧倒的に、格が違う。
世界が違う。
でも、この人はおごらない。
たかぶらない。
今日わかったが、
あの山にいるモンスターみたいな存在を
彼はたくさん知っているようだ。
それらが彼の中の物差しを大きく、長くしている。
だから、彼の自己評価は低い。
いや、むしろそれが正しい物差しの大きさなのだろう。
「この魔王は学校跡のダンジョンに捨てます。
あそこなら簡単には出てこれないでしょう。
最悪出てきても何とかします。」
魔法に一度戦った相手の居場所を探知するものがあるらしい。
それをかけていれば、
この魔王が逃げてもすぐわかるそうだ。
魔法、魔法か。
彼の、彼らの強さはその魔法のおかげ。
そうだったら、どれだけ気が楽か。
そうではないと言われ、そうではないと見せつけられた。
魔法を僕が手に入れたとしても、
魔王はおろかダンジョン災害にも勝てない。
そう理解した。してしまった。
力がほしい。
でも、もう無理だ。
僕には仲間がいて、しがらみがある。
彼らの強さは身軽ゆえの強さだ。
強さだけを延々と求めてたどり着いた所だ。
僕も行きたかった所だ。
今思えば彼のバックアップをしている弁護士さんや
傭兵さんも彼と同じ感じだ。
武力を求めたか、智力を求めたかの違いだろう。
公安OBの方は人脈、研究室の人たちは好奇心。
櫻葉さんは暴力を求めた。
いや、求めざるをえなかった。
彼の過去は簡単に調べられた。
壮絶な虐待を、
幼い頃の亡き父との約束だけを支えに
生き延び戦った。
恵まれた環境?
恵まれた体躯?
恵まれた運命?
馬鹿馬鹿しくて、そんな言葉を思い付くことすらない。
彼はそんな半生を送っている。
僕もそれなりにひどい目に遭ったつもりだった。
でも、僕なんか“よくある悲劇”だ。
11歳で母親に殺されかけたりしない。
僕は涙が溢れそうなのを、必死にこらえる。
僕は路傍の石にすらなれないこの身をなんとする?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます