閑話“激動”
広い会議室。
モニタがいくつも並び、全てに人が写し出されている。
人種、性別はバラバラで、
発言する言語は機械で同時翻訳されていた。
「この責任はどうとるつもりだ?!」
「損害が現在進行形で膨れ上がっているぞ!」
「死者、行方不明者ともに明確な数が分からないほどだ!」
モニタから降ってくる怒号の
真ん中にいるスーツのアジア人男性。
大きなため息をついて、首を横に降った。
「何度も申し上げた通り、
私は臨時政府から派遣された代理人です。
東京の首都機能が停止してまだ七日しかたってないのに、
強制召喚されましても何もありませんよ。」
「うるさい!
全部お前のせいだ!」
「その口でよくそう言いきれますね。
常任理事国全員(貴方たち)の可決でこのような事件を起こしたのに。」
アジア人男性がそう言うと、
水を打ったように静かになった。
「とにかく、今は急を要する事態です。
これは日本から飛び出した17体のモンスター、
通称“魔王”たちの対応について話し合う場。
責任の話は一旦置いて、建設的な話をしましょう。」
白人男性がそう言うと、
一様に唸りだす参加者。
それを見て、先ほどのアジア人男性が笑う。
「建設的な、ですか。
であれば、なおのこと臨時ではなく
再編した日本政府から正式な使者を派遣したいのですが。」
「すまないが、先ほど言った通り急を要するんだ。
ミスター、スズキ。
貴方の立場は理解しているので、
どうにか話を聞いて欲しい。」
別のアジア人男性にそう言われた日本政府の代理人は露骨に怪訝な顔をした。
「貴方がそう言うと、意味が変わりますね。」
「気に触ったなら謝罪する。
あと、脅すつもりはないことを事前に断っておきたい。
どうしても、君に話を聞いてもらいたいんだ。」
白人男性が仕切り直す。
「今世界は、いや、人類は
かつてない危機に瀕している。
各地に飛び出した“魔王”たちは、
近隣諸国を攻撃し、そのテリトリーを広げ始めた。
我が国では、“魔王”との戦いで戦死した
兵隊やハンターたちがゾンビになって襲いかかってくる。
このまま長期戦になるほど、不利な状況だ。」
「我が国では、巨大なドラゴンが暴れている。
巣を作って人間も家畜も、野生動物も構わず乱獲されてしまった。
外来種、在来種なんて線引きがなくなってしまう勢いだ。」
「我が国では、
大きな猿のモンスターが群れで大暴れしてる。
ヤツらは食料を奪い女性をさらって、
いつの間にか建てられた巨大な城へ集めている。
攻撃してもダメージが一切とおらず、
人間なんていないような扱いだ。」
「こちらは二体のモンスターが現れて暴れている。
どちらも正体不明。
周囲に猛吹雪が巻き起こり、
ドローンや衛星でも姿をとらえることができず、
斥候も送ったが誰も戻ってこなかった。
この二体のお陰で数十の街と連絡がつかなくなっている。」
誰も彼も、疲れはてた顔で日本政府の代理人を見つめる。
「日本だけ、“魔王”を早期に排除して復興に取りかかっているんだ。」
「その被害が甚大だ、と再三申しております。
我が国に余裕なんて1ミリもありません。
貴方たちの謀略によっていろんなものが使えない状態で、
あまつ例の“光の柱”についても何も分からない。
いつ次の“魔王”が飛び出すやも知れない状態なんです。」
「それでも、我々は日本に頼るしかないんだ。」
「何をおっしゃる。
各国名だたるハンターが多数いて、
軍備は日本なんて考えられないほど充実されているでしょう。
文化レベルからして、
何十年も変わらない我が国より、
そちらのほうが進んでいるのは周知の事実。
皆様は一体全体何を求めているのでしょう?」
また沈黙が場を占める。
「……例のハンターを、派遣して欲しい。」
日本政府の代理人は、また大きなため息をつく。
「そちらについても、再三お伝えしている通りです。
我が国のハンター制度は、
皆様のものとは異なり、
理由なく海外へ出ることはできません。
軍属でもないので、命令もできません。
ましてや、彼は先日の事件の被害者。
日本政府も貴殿らの働きかけに従って
彼に酷い仕打ちをしてしまいました。
どの面下げて頼むのか、と言った所存です。」
沈黙が続くが、どちらも折れる様子はない。
「各国独自に彼に対話することは?」
「どのように?
日本政府はその対話の仲立はできませんから、
どうやって対話されるか是非とも教えてもらいたいですな。」
「仲立は要求しない。
ただ、人を派遣するので受け入れて欲しい。」
「何をおっしゃる。
今我が国にいる例の不法入国者2800人全てを強制送還するまで、
そんな人員を受け入れる余裕はありません。」
日本政府の代理人は声を張って否定した。
「彼らは移民だろ?」
「現在、彼らは内乱罪を犯した犯罪者達です。
全員に死刑を求刑したところ、
全員が母国に帰ると主張されてますよ。
移民ではなく不法入国だった、と言い張ってますが。」
「こちらは関知していない。」
「先日の公開されたポーションに関する資料に
全部書かれてましたよね。
それとも、常任理事国だけの話でしたか?
それなら我が国には関係ありませんね。
ちなみに、人数が多すぎるため
死刑囚の死体の処理をする資金がありません。
なので、本件の死刑囚はダンジョンへ
拘束したまま放置することになりました。」
「そんな、非人道的なこと!」
「首都機能が停止している上に、
臨時政府しか稼働していないので緊急対応です。
どうせ、対話のためとか言いながら、
自国の要人を日本に避難させるおつもりでしょう?
大使特権なんて付かないものとお思いください。
なにかしでかしたら、
彼らと共に内乱罪にしますからね?」
今まで日本政府の扱いは酷いものだった。
スズキは実はかなり前から外務省の事務方で
国連関連の仕事をしていた。
鬱憤が溜まっているのを誰もが知っている。
代理人として召集された理由も、
長きに渡って事務方として働いていたことが買われた為だ。
「貴国を常任理事国にいれると言う議題が……。」
「今さら何をおっしゃる?
今の国連の常任理事国なんて、
貧乏くじも良いところでしょう。
慎んでお断りします。」
「えぇい! 何でも良いから、櫻葉涼治を派遣しろ!」
「お言葉ですが。」
スズキはそう言って、大きく息を吸う。
「彼は“魔王”を下しています。
そんな彼の怒りに触れたら、どうなるか。
我が国は彼の活動や生活に
干渉しないことを決めました。
皆様、各自で色々動かれていますが、
日本政府は一切関わらないので、ご留意ください。」
事前に藤堂弁護士から、
深く干渉しないことを約束させられている。
その際、他国からの要請は今のように断ることになっている。
スズキは決められた台詞を言うだけだ。
言い方に怒りが込められているのは、ご愛嬌。
「……それでも構わない。
国が滅びるくらいなら、なんでもしよう。」
彼らは思ったより追い詰められている。
スズキは自国への影響をどれだけ少なくできるか、
計算を始めからやり直した。
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