第24話 理性の理

 閃光、爆風、爆発。

なにも見えない、音も消し飛んだ。

だが、ガーネットのバリアのお陰でダメージはない。

 爆発が収まったのを確認して、

黒い柱のあった方を見る。

そこには光の柱が立っていた。

質量があるのかわからないが、

空高く、それこそ宇宙にまで届きそうな一本の柱だ。


「なんだ、あれ。」


 財前がそう呟いている。

俺は腹部にいるガーネットを見て確認する。

ガーネットもこちらを見ている。

怪我はないようだ。


「おじさん、皆も無事か?」

「こちら、タカミ。

距離があるからこっちにはなにも起きてない。

 でも、外を見てたら、びかーって光って、

その光からなんか飛び出してった。

一個や二個じゃないぞ。

十数個飛び出して、どこかへ飛んでった。」

「藤堂です。

ドローンは殆どやられた。

一機は無事だ。

後、二機は飛べないがカメラは有効だ。

この二機が偶然その辺を写してる。」

「君たち以外に生存者はいない、って感じですか?」


 財前が通信に割って入る。


「誠に残念だが、そのとおりだ。」

「国連は、日本政府は、これを望んでいたと?」

「もうわからん。

だーれも生き残っちゃいないだろうからな。

昔、死んだ親父がやったちゃぶ台返しみたいだ。

なんもかんも、御破算。

かー、やってらんねぇ!」


 タカミさんが叫ぶ。


「説明できますよね、ハートマン議長。」


 財前が足元で縮こまっている白人男性に言う。


「知らない! 知らない!」


 白人男性はいろんな言語で話しているが、

多分全部“知らない”と言っている。

 ぬぐえない嫌な予感がする。

俺は警戒を強めて周囲を見回した。


「ガーネット、擬装を解除。

全力で警戒。可能な限り魔力を温存。」

「承知しました。

警戒レベルをあげます。」


 ガーネットは俺の腹部で

ローブのフードを深く被り直す。

そろそろそこからでてほしいが、

何が起きるかわからないのでここが一番良い場所かもしれない。


「ねぇ、アレもおかしいけど、

これで終わりって言うのもあり得ないよね。」


 黒川がそう言う。

財前も同じ意見のようだ。

二人は周囲を警戒しながら、武器を構える。

 光の柱からなにかが飛び出した。

それはまっすぐこちらに向かってきて、

地面へ落ちる。

濡れたモップを床に叩きつけたような音がした。

 光っていて何が落ちてきたのかわからないが、

悪臭が鼻を突く。

生臭い系だが、腐敗臭ではない。

なんと言うか、生きている臭さがする。

 光が収まっていく。

姿が見えてきた。

そこにはヘドロの固まりような半固形の何かがうごめいていた。


「あぁぁぁぁぁ!!」


 ガーネットが悲鳴を上げた。

俺は二本の触腕でガーネットをさらいあげ、

触手のスーツを全開にしてヘドロとガーネットの間に立つ。


「どうした!?」


 黒川と財前も俺の方へ近寄る。


「あぁ。ああああ。」

「ガーネット、落ち着け!

どうした!?」

「櫻葉さん、落ち着いて。

その子、震えてる。」


 黒川が俺にそう言う。

財前がなぜか両手で口を抑えている。

 俺は大きく息を吸って少しだけ息を止め、

吐き出した。


「すまない、ガーネット。

どうした?」

「ぁ……。」

「えっと、ガーネットちゃん? かな?

落ち着いて。

ゆっくり息をして。」


 狼狽するガーネットを必死になだめる。

いつの間にかフードもとれて顔が丸見えだ。

だが、黒川は動じずに一緒になだめてくれる。

財前は相変わらず口を手で抑えている。

 ガーネットはゆっくり話し出した。


「あれ、……あれは……“私”です……っ。

あの塊は、“私”……ですっ!」


 ヘドロは今だ動かない。

生きているようには見えない。

だが、ガーネットはそう言うなら、

あれはそうなのだろう。


「どっ、どういうこと?

ごめんね、私達にもわかるようにお話しして?」


 黒川がおずおずと聞き返す。

財前は口を抑えるのをやめて、

ヘドロの方を見て警戒を強めた。


「わたっ……、私のいた、世界には、

世界の自浄作用として、さ、災害と、“魔王”がいます。

 あれは、“呪怨の魔王”です。

……産まれながらにすべてを奪われ、

汚され、辱しめられ、唾棄され、怨まれ……っ。

最後に怨みそのものに……成り果てる。

 忘れることも、狂うことも、

死ぬことすら許されず。

怨みを呪いにして“世界を呪う”存在。」


 この話は初めて聞いた。

ガーネットが自分の事を話すのは、

ガーネット自信が納得してからだと思っていたから、

俺から聴くこともなかった。

 それが、こんなタイミングになるとは。


「ゴブリンの雌個体は……、

呪怨の魔王になる素体……です。

 私は、アルジ様に救っていただきました。

アルジ様から、いろんなものをいただきました。

私は、満たされました。

 でも、あれはっ。

あれには、アルジ様がいなかった。

アルジ様に救われなかった私は、

あぁ、考えたくもないです。

あれに、成り果てて……。」


 ガーネットは明言しなかったが、

事情が何となくわかった。


「ガーネット、落ち着いて。

あそこにいるのは、ガーネットじゃない。

別のゴブリンだ。

 ガーネットは、ここにいる。

あそこのゴブリンはガーネットじゃない。」

「……ありがとうございます。

でも、逃げないと。

“魔王”です。

 呪怨の魔王は、まだ混乱してるみたいです。

このまま活動を始めると、

周囲の生き物は即死する毒を撒き散らします。

半径50キロメートルの生物は毒で死に絶えます。

 その毒で死んだ死体から

更に半径50キロメートルの生き物は、

不治の病に侵されます。

そして、更にその病で死んだ死体からも……。」

「そんなの、逃げ場がないよ。

どうしたらいい?」


 黒川が横から顔を出した。


「このバリア、

地面に置いている魔石を中心に発動しています。

動かしたりさわると効果がなくなくるので、

気をつけてください。

ここに入れば安全です。」


 さっきまで静かだった白人男性は、

それを聞いて魔石に近寄り縮こまる。


「でも、根本的な解決にはならない。」


 財前が呟く。


「そうです。

魔王を討伐するか、封印しなければなりません。

 討伐にせよ、封印にせよ魔法が必要です。

でも、この世界に魔力を持って魔法が使える人間がいません。」

「君は使える。そうですね?

ガーネットさん。」

「……はい。」


 財前の頭脳はバカにできない。

行動はバカみたいだが、その頭脳は冷酷だ。

ガーネットも否定する時間が惜しいと判断したのだろう。


「櫻葉さんの強さの秘密は、君の魔法だね。」

「それは、違います。

アルジ様のお力に私の魔法は

三割程度しか寄与していません。」

「僕と黒川さんに魔法をかけても、ああならない?」

「はい。

バフは、対象者の身体能力をベースに強化します。

アルジ様の身体能力より劣るお二人にかけても、

二を二倍にした程度。

アルジ様のように、

百を二倍にしたものとは比べようがありません。

 あと、突然腕力や早さが上がると、

感覚がそれに対応できません。

アルジ様はそれをたゆまぬ鍛練と反復訓練で

完全に己のものとされています。

 あの力を欲するなら、

アルジと同じように鍛えなければ手に入れることはできません。」


 財前は考え込む。

ガーネットのバフをここにいる三人にかけて、

魔王を討伐する、と考えたのだろう。


「まだ、ヘドロは動いてない。

ガーネット、パワーバフを頼む。

 殴って、終わらせよう。

できるなら、契約もありだな。」


 俺は懐から従魔契約書を出して、ガーネットに見せた。

これはまだ何枚かある。

 ガーネットの顔色が変わる。


「それです!

それならなんとかなります!」


 従魔契約が何かあるのか。

俺は思わず眉間にシワがよった。


「その契約書は、

相手の身体に押し付ければ一方的に契約が成立します。

契約してしまえば、相手は命令を拒絶できません。

 前例がないのですが、

スキル“賢者Ⅱ”で計算したところ魔王にも契約は有効です。

 ただし、身体に触れる必要があります。

あのヘドロは“呪怨”の塊です。

魔力がイメージによって具現化、実体化したものです。

それを剥ぎ取って、

身体に契約書を押し付ける必要があります。」


 俺は財前と顔を見合わせる。

おおまかな方針が決まった。


「押し付けるのは僕でもできる?」

「ダメです。契約書がアルジ様用なので。

財前さんや黒川さんでは契約できません。」

「ねぇ。

ドロドロのあれを剥がすのに魔法が必要なの?」

「あれは具現化してます。

物理攻撃でも引き剥がせますが、

質量が数トンあります。

小さいのは見た目だけです。」

「俺が殴って引き剥がすか。

それで、これを押し付ける。」

「危険です。

イメージですが、怨み、つらみ、呪いの塊です。

触ったらただじゃ済みません。」


 ヘドロはもぞ、っと動き出した。

刹那、矢がヘドロに突き立った。

振り替えると、黒川がボウガンを構えていた。


「っあっ!?」


 何の前触れもなく黒川の右肩に矢が突き刺さる。


「黒川さん!」


 財前がかけよった。


「黒川さんの内部からの攻撃です!

受けたダメージそのものを相手に転写しています!」

「ガーネット、すまん。

説明をくれ。」

「反射なら、ヘドロから矢が飛び出してから、

黒川さんに突き刺さります。

そして、その間にあるバリアで、矢が防がれます。

 でも、転写なら過程が必要ありません。

いきなり身体に矢が生えます。

ただし、自分にもダメージがあります。」


 俺にはよくわからないが、

とにかく攻撃したらこちらも同じダメージを負うのか。

財前が黒川の傷を確認する。


「痛み分け、か?

くそっ。

とにかく、矢を抜こう。

黒川さん、いける?」

「吾郎、抜いてから言わないでって。」


 とにかく、ぐらいのところで矢を抜いた財前。

黒川が財前を睨んだ。

抜かれた矢はチリになって消える。


「ヘドロは攻撃を転写してくる。

攻撃者にダメージが全部自分に返ってくる。

 まぁ、殴ってみてどうなるか。

向こうはもう動き出した。

トライ・アンド・エラーと行こう。」


 うごめくヘドロは少しずつ大きくなっているように見える。

早くあれをひっぺがさなければ。

 俺はバリアから飛び出し、

一気にヘドロとの距離を詰める。

小手試しだ。

フックをヘドロへ見舞う。

 何の前触れもなく、脇腹に衝撃が走る。

両足を踏ん張って耐える。

 小田さんのスーツの意味がない。

骨にまでダメージが通っている。

なるほど、俺のパンチはなかなかキク。

 ヘドロを見ると、殴った一部が欠け落ちた。

よし、わかった。

痛み分け、根比べだ。

 俺は両手を軽く握り、

脇を閉めて拳を顎の辺りに構える。

爪先に重心を置いて、フットワークで距離を詰め直す。

ベーシックなボクシングスタイルだ。

 ワン・ツーを連続で繰り返す。

殴ったら殴っただけ、俺にもダメージが加わる。

顎や頭にクると、意識が飛びそうになるが堪えて殴る。

 殴って、殴って、殴って、殴って、殴って。


「アルジ様!!」


 ガーネットの声で

自分が地面に膝をついていることに気がついた。

不味い。

 ヘドロを見ると大きく欠けており、

中から黒い瞳がこちらを見つめていた。

 あれが魔王か。


「こんばんわ。」


 俺は何故かわからないが挨拶した。

すぐにヘドロが元通りに戻っていく。

 俺はよろめきながら立ち上がった。

いつの間にかガーネットが来ており、

俺に回復魔法を施す。


「アルジ様、アルジ様。

無理をなさらないでください!」


 ガーネットは涙ながらにそう言った。


「顔が見えた。

多分、顔だ。

すぐにヘドロが覆ったが、見えたんだ。」

「とにかく、一旦引きましょう。」


 俺はガーネットに浮遊魔法をかけられ、

引きずられてバリアへ戻された。

財前と黒川が目を白黒させている。


「……櫻葉さん、今、怪我してたよね?」

「魔法です。」

「チートどころか、ゲームが違うじゃん?!」


 黒川が叫ぶ。

意外と元気そうだ。

財前が唸る。


「黒川さんの怪我もなんとかできますか?」

「軽傷ですし、魔力がもったいないので拒否します。」

「魔力とかあるんだ。

 もしかしなくても、右腕の後遺症もポーズだけかな?

あぁ、それのお陰で君達は身を守ることができたのか。」

「なんだそれは?!

これだから日本人はダメなんだ!

嘘は言わないが、黙ってることが多すぎるんだ!

 そういう情報こそ、共有するべきだ!」


 さっきまで静かだった白人男性が叫んだ。

いつの間にかスマホのようなものを持っていた。


「貴様らのせいだ!

全部貴様ら反乱軍のせいだ!

 だが、役に立ってもらうぞ!

今連絡がついた!

太平洋沖の原子力潜水艦が、

日本へ向けて核を発射準備した!

 財前、黒川は私を護って、

横須賀基地まで連れていけ!

櫻葉、貴様はここであの正体不明と戦って時間を稼げ!

 命令だ!

誰か一人でも歯向かったら、核を射つ!

私と潜水艦の通信が途切れても射つ!

わかったか?!」


 ここでお得意の核兵器か。

財前が白人男性に向かって諭すように言う。


「議長、あれはモンスターです。

ダンジョンの素材じゃないとダメージを与えられません。

核兵器も無意味ですよ。」

「はっはっはっ!

そうかもな!

だが、知らなかったか?

核兵器をモンスターに使った実験はされていない!

 それに、ここは日本だ。

“我々も核兵器を落とし慣れている”!

ちょうど試すのにぴったりだろ?!」

「ゲスい、クズい。サイッテー。」


 黒川が白人男性を睨んで言った。

だが、白人男性は鼻で笑い飛ばした。


「照準はここと、大阪。

あと、櫻葉が住むG県だ。

逃げ場はないぞ?!

はっはっはっ!」

「べらぼうに面倒くさいが、考える暇もないか。」


 俺はため息混じりでそう言った。

ヘドロに覆われた魔王は、何故か悶えだす。

声はないが天を仰ぎ、月に吠える様だ。

 ヘドロが増える。

さっきのドロドロとは異なり、

液体に半固体が混ざっている。

だまになった水溶き片栗粉とか、

混ぜ足りないホットケーキミックスのようだ。

 片栗粉やホットケーキミックスならばん回できるが、

ヘドロがそうなっているのはかなり気持ちが悪い。


「アルジ様、試したいことがあります。

あと少しで毒が撒かれると思うので、

それより先に試しましょう。」


 とりあえず、ガーネットの作戦を聞いて、

かなり心配だが試すだけの価値はあると思った。

ただ、かなり心配だ。

 ガーネットは、俺の右肩に乗り魔法をかける。

俺はパワーバフをかけられ、触腕を胴体へ巻く。

他の触手は軽くだけ巻き、

ほとんどはガーネットの身体に巻き付けた。

 ガーネットを後頭部辺りに固定。

身体の自由をガーネットへ委ねた。

これは、あれだ。

ロボットだ、これ。

 作戦は簡単に言うと攻撃者を増やす、だ。

今俺の身体はガーネットの傀儡魔法で操られている。

そして、俺とガーネットは従魔契約の念話で繋がっている。

動くときは俺がいつも通り身体を動かす感じ。

その俺の思考を読んだガーネットは、

その通りに傀儡で俺の身体を動かす。


「もし、攻撃がアルジ様へ転写された場合は、

中止です。

ですが、これで私に攻撃が転写された場合は、

スキルの“弾性”があるので打撃ダメージは無効のはずです。」

「ガーネット、“弾性”でもダメージがあったら中止だからな。」

「わかってます。

アルジ様、行きましょう。」


 俺はいつも通り歩こうとする。

少し遅れて、身体が動き出した。

ガーネット曰く、

動かしていれば少しずつ思考と動作のラグはなくなる、とのこと。

 いきなり実践なので仕方がない。

この感覚は意識しておこう。

 俺たちは身悶えしている魔王に近づいた。

声はないが、叫んでいる。

苦しみではない、痛みではない。

だが、重い、黒い感情が籠った叫びだ。


「とりあえず、中の本体に用がある。

開けてもらおうか。」


 拳を握り、殴りかかった。

魔王は防ごうとしない。

拳が叩き込まれ、ヘドロの一部が剥げ落ちる。

後頭部辺りで、ガーネットが呻き声をあげた。


「ガーネット!?」

「平気です!

こっちに衝撃が転写されました。

“弾性”で防げました!

息が押し出されただけで、

痛みやダメージはありません!

このまま畳み掛けましょう!

 ふははは!

これで!

これでアルジ様のお力でもこの身体は

“大丈夫”と証明されました!

さっさと片付けて、“性なる夜”を!」

「ガーネット、諦めてなかったのか……。」


 俺はラグを意識しながら、殴り始める。

さっきのような速さを重視したものでなく、

威力を中まで通すことを重視した拳に切り替える。

 左手を前に半身に構え、右手を胸の辺りで軽く握る。足は肩幅程度に縦に開き、左足の爪先を相手へ向けた。

少林寺拳法の中段構えだ。

ここからは脚も使う。

 すり足で距離を詰め、

大きくなってきたヘドロへ拳を叩き込む。

上段突き、中段突き、かぎ突き、下段蹴り……。

組手の型のように流して叩き込む。

魔王はただ殴られ続けていた。

 ガーネットも同じように殴られ続けているが、

“弾性”のスキルがかなり優勢のようで涼しい顔をしている。

これならもっとペースをあげても行けそうだ。

ヘドロは肥大化していたが、

初めに見たくらいの大きさまで縮んでいる。

 突然、ヘドロの一部がこちらに延びてきた。

切り払い、右へ移動して攻撃を再開する。

今までになかった“反応”。

俺は警戒を深める。


「アルジ様!」


 ガーネットは俺の意思とは違う動きをする。

後ろへ大きく跳んだ途端、

俺が立っていたところに火柱が上がる。


「魔法による攻撃です!

今の熱で無線機がダメになりました。」


 よく目を凝らすと、

ヘドロの周りにほんのり光る円形の図形が見える。

ガーネットが魔法を使うときに何度か見たことがある。


「私は鍛練で無動作、無詠唱にしました。

ですが、あれは動作・詠唱・魔方陣を見えづらくして、

擬似的に無動作にしています。」

「なるほど。承知した。

スタイルを変えよう。

バフをスピードに変えてくれ。」


 構えを解いて走ることに集中する。

視界の脇や影の中、死角に巧妙に潜む魔方陣。

バフで思考速度が上がっているので

注意する時間は刹那もないが、

そのわずかな時間で次の魔法が仕込まれている。

 近づけそうで、近づききれない。

駆ける、駆ける、跳ねる、跳ねる。

一撃を見舞うまで。


「うわぁぁぁ!」


 背後で悲鳴が聞こえた。

あの白人男性のものだ。

 俺が振り替えると、

ガーネットが張ったバリアがガラスのように砕け散っていた。


「バリアが解読されました!」


 ガーネットの言葉で何となく理解した。

財前と黒川は白人男性の身体を持ち上げて

引きずろうとする。

だが、その目の前に魔方陣が展開された。

 財前と黒川の顔が絶望に染まる。

白人男性はわめき散らしている。


 あぁ、べらぼうに面倒くさい。

これだから人間は相手にしたくない。


 俺はガーネットの傀儡から抜け出した。

触腕を身体から外して、副腕にする。

駆け出して、三人を副腕と左腕でかっさらった。

残った右腕で魔方陣から飛び出した岩の塊を殴って砕く。

 殺気のようなものを後頭部に感じた。

首だけ振り替える。

ガーネットの後頭部に小さな魔方陣が見えた。

ガーネットは気づいていない。

 俺は迷わず、

ガーネットに巻いた触手を腕にして魔方陣から遠ざけた。

氷の柱が、俺の胸を貫いた。

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