閑話“咆哮”
「なんだあれ……。」
「バケモノ。」
「気味が悪い……。」
周囲から漏れ聞こえる声は、
どれも櫻葉を指している。
巨人になって、腕が四本生えたその姿は、
恐ろしいかもしれない。
それでも、今こうして俺たちが無事なのは、
アイツが戦っているからだろう?
俺はあの事がフラッシュバックしてきた。
なんの関わりもない、くちさがない人が皆、
櫻葉をこき下ろす。
外道だと。親殺しと。人でなしと。
違う。違う。違う!
そう言いたかった。
そう叫びたかった。
でも、できなかった。
俺は震えて、父さんの腕に抱き締められるだけ。
今でも血を見ると
あの事を思い出して膝から崩れ落ちてしまう。
でも、違う。違うんだ。
俺は後悔している。
助けてくれた親友が、弱々しく笑っていた親友が、
鬼の形相で俺を庇って戦ってくれた。
俺はなにもできなかった。
周囲の大人は皆、櫻葉を避ける。
ふざけるな。お前達が見捨てたんだ。
お前達のせいで、アイツはひどい目に遭ったんだ。
でも、俺は一言も言えなかった。
声すらでなかった。
目の前で血にまみれ、戦う親友(ヒーロー)を。
ただ見ている、いや、見捨てた。
ふざけるな!
アイツはダークでバッドだが、
間違いなくヒーローだ。
違う、違う!
お前らが言うようなものじゃない!
今なら、分かる。
どうすれば良いか。
大好きなアメコミを擦りきれるほど読んだ。
コミックの中のヒーロー達は、
批判される場合もあるが。
でも俺は、そんなときでも、どうするか決めている。
「行けぇ!! 頑張れ!! やっちまえ!!」
喉が裂けても構わない。
抱き締めている大きなキャリーバックが
ひしゃげるほど身体に力を込めて叫ぶ。
「櫻葉! 全部、ぶちのめせ!!!」
遠くで親友(ヒーロー)が笑った気がした。
俺もつられて笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます