第9話 噂の生活

 久しぶりのダンジョンだが、

俺はげんなりしている。

 今朝は良かった。

体調もよく、久しぶりに朝トレができた。

十キロのランニング、受け身と体術の反復訓練。

いつも行く広場に放置されている

大きめのタイヤを使った筋トレ。

自重の筋トレも息が切れるまでやった。

 帰りの十キロは全力で走り、

熱いシャワーを浴びてスッキリした。

朝食をガーネットと食べ、

特急を予約してダンジョンに来たまでは良かった。

来たまでは、良かった。


“情報求む。

スライムヘッド。

頭がスライムで、真っ黒な服を着た巨漢。

目撃情報には、礼金あります。”


 何だ、これは。

前に俺が来た時の監視カメラの画像らしき

荒い画像の写真が添えられた張り紙。

この張り紙がダンジョン入口付近に

これでもかと張り出されている。


 べらぼうに面倒くさい。


 俺は何度目か分からないため息をついた。

仕方がないので、更衣室を借りて着替えた。

服だけ着替えて、棍棒とスライムヘルムを手に持って出る。

更衣室を出たところで周囲の人はぎょっとしたが、

頭を見て一様に胸を撫で下ろした。

 思わず眉間にシワがよる。

何だか頭痛がしてきた。

ヨレヨレ、ズタボロのライダースーツが哀愁漂う。

 気を取り直して、ダンジョンへ入る。

俺は二階層へ続く道から外れて、

しばらく進んでからヘルムを被った。

触手を全身へ這わせ、纏い、強化する。

新しいスーツはガントレットとブーツがなくなったので、手足の先も太く、大きくなる。

そこには、身長3メートルを越える巨漢がいた。

頭の大きさこそ変わらないが、

人ではあり得ないない巨体が動き出す。

手に持った棍棒が小さく細く見える。


「“召還”、ガーネット。」

「はい、アルジ様!」


 何もないとこらからガーネットが現れる。

彼女は俺の作ったローブを着ている。

嬉しそうにくるくる回る彼女を見て、

ローブが上手くできたことを確信した。

良かった、と俺は内心ほっとする。

 後、下着類も彼女に渡している。

着方を説明するのに

真っ裸な彼女に下着を着せて見せたが、

着ていないより、着た方が威力が増した。

 ただ、ブラのお陰で揺れがかなり小さくなり、

身体を自由に動かせるようになったことを

彼女はとても喜んでいた。


「着心地はどうだ?」

「最高です! 素晴らしい!

生まれて一番身体か軽く、心地良く、

とにかく幸せです!」


 満面の笑みで応える彼女を見て、

俺は改めてほっと胸を撫で下ろした。

始めに与えたシャツは粉々になった。

生地の劣化だと思うが、

触れるだけでボロボロ崩れるシャツは

かなりインパクトがあった。

 せっかく作ったローブも

同じようになってしまわないかと

ヒヤヒヤしていたが、大丈夫そうだ。


「アルジ様の新装備もとてもお似合いです。

前は少し窮屈そうでしたが、

これは大きくなっても余裕がありますね。」

「そうだな。

手足も大きくできるから、バランスが取りやすい。

小田さんへの報告書は丁寧に書くことにしよう。」


 ちなみに、切断された触手はまだ回復していない。

あの四本だけは体内に格納している。

触手を出してガーネットに鑑定してもらったところ、

これは内蔵扱いらしい。

 この前倒れたときはこの四本を出していた。

そして、酷使して倒れた。

危機感がなかった。

反省して、改善する。

 さらに巻き方を変えて、

本来の身体の動きに追従するように変えた。

触手が内蔵扱いなら、

肺や心臓と同じで意識しなくても動くはずだからだ。

今までは触手を身体と一緒に動かしていたが、

追従の方が楽な上に反応が早い。

 俺はうなじから数本触手を外してガーネットへ伸ばす。

ガーネットはハーネスを付けられるように

両手を左右に伸ばして待機する。

ガーネットの身体に触手を巻き付け、

ナイフの“カミソギ”を手渡した。


「この前の鑑定結果を見る限り、

俺にはカミソギを使いこなせない。

ガーネット、

これなら非力でも魔力の分威力が出るから、

今後ガーネットの装備として渡しておく。

ただ、鞘がないから、扱いは気をつけてくれ。」

「はい。承知いたしました。」


 彼女は両手を叩いてから、カミソギを受け取った。

ガーネットはカミソギを両手に握り、

感触を確かめている。


 さて、今日こそガーネットのレベルを上げよう。

この前と同じ、スライム狩りだ。

ガーネットには、

念のためローブのフードを目深く被るよう伝える。

万が一他のハンターにガーネットを見られても、

フードを被っておれの肩に乗せていれば

何かの装備に見えなくない。

 俺は触手をコントロールして、

ガーネットを肩に乗せた。


「行こうか、ガーネット。」

「はい、今度は大丈夫です。」


 俺は巨体を駆動させ、疾走する。

今までとは早さが段違いだった。

スライムは片っ端から叩き潰す。

前の触手の巻き方だと、

全力疾走の自転車くらいの早さだった。

今は自動車や電車くらいに感じる。

 あっという間に討伐数が百を越えた。

このペースなら、行ける。



 そう思っていたが、世の中甘くない。


「これ、美味しいです!

甘くて、ドロッとしている中に

コリコリとプリプリがありますね。

フルーツですか?」

「ナタデココとアロエの果肉を刻んで混ぜてる。

果物と野菜だけのスムージーじゃ、

腹持ちしないからな。」


 三時間休まず狩り続けた。

かなりハイペースで狩れるようになり、

色違いのスライムが四体出現した。

だが、全部金色だった。


「魔力回復の量次第だが、

後二体くらいの色違いと遭遇できれば良い方か。」


 俺は俺謹製のスムージーの食レポを

続けるガーネットの横で

昼飯としてプロテインバーをかじる。

俺たちは結果が散々だったので、

少し遅い昼休憩をしている。

人気のない小部屋で食事をする。

俺は触手を収納して、ガーネットの触手もほどいた。


「成果はアルジ様名義の契約書が三枚。

後これは、宝石でしょうか?

珠玉? 宝玉?」

「回復したら、鑑定してもらおうか。

何か便利なアイテムならありがたいが……。」


 ガーネットがボトルを両手に抱えて、

床に置いて眺めている球体。

ドロップアイテムだが、見たことがない代物だった。

魔石とは違うのは明らかだが、

ドロップアイテムのオークションや資料を

穴が空く程見ている俺でも見たことがない。

 大きさは直径約10センチ。

丸く、ほんのり緑色に発光している。

向こうが透けて見える程透明度は高い。

ガラス玉にしては質量があり、結構重い。

俺の感覚では同じ大きさの鉄球より重い。


「ガーネットの世界で似たようなものはあったか?」

「申し訳ありません。

元の場所は巣だった洞窟内しか知らないので、

知識がかなり片寄っています。

このような物は見たことがありません。」


 食事を終えた俺は、謎の球体を手に持って眺める。

最悪高値で売却できればいいか。

謎が多すぎてそれも期待できないか?

最終、小田さんに謎の物質として、

売り付けることにしよう。


「感覚の話ですが、ほんのり魔力を感じます。

魔道具かもしれません。」

「その場合はガーネットに持っててもらおうか。

そうだな。

一億くらい稼げたら、ドロップアイテムを買おう。

魔力がないと使えないアイテムなら、

誰も真価が分からず安値で売り払われている可能性が高い。」

「このカミソギも、

普通に売るとかなり安値で取引されるのでしょうか。

私からすれば、こんなお宝滅多にありませんよ。」

「それが分かるのも、ガーネットのお陰だ。

助かるよ。ありがとう。」

「いいえ、いいえ。

私は全てをアルジ様に救っていただきました。

私の全てはアルジ様ためにあります。

私の成果はアルジ様成果です。」


 淀みなく満面の笑みでガーネットは言う。

彼女の過去に何があったか、

詳しく聞けていないが相当なことがあったのは明白だ。

そこを助けた俺を“神”とする彼女に、

俺は何ができるのか。

頭によぎるのは藤堂とおじさんの顔だ。

俺は、彼らのようにやれるのか?


「ごちそうさまでした。

アルジ様、魔力が満タンまで回復しました。

鑑定いけます。」

「あぁ、じゃあ、頼む。」


 ガーネットは、はい、と応えて手を叩く。

俺は球体をガーネットに手渡した。

 ガーネットが呪文を唱えようとしたとき、

突然球体が激しく光だす。

しまった! 油断した!

 俺はガーネットから球体を奪い取ろうと手を伸ばしたが、突然光が収まった。

ぽかん、とした顔で立ち尽くすガーネット。

俺は球体を探したが、どこにもない。


「ガーネット! 無事か?!」

「え? あ?

えっと、はい!

無事です。どこも痛くありません。」


 ガーネットは自分の身体を改める。

ローブにも傷はなく、球体はどこにもない。


「現状確認だ。

ガーネット、自分を鑑定結果して見てくれ。

身体に異常があれば、すぐ帰ろう。」

「はい。少し待っててください。」


 ガーネットは自分の胸に手を埋め、

呪文を唱えた。

今度は問題なく発動する。


「……身体に異常はありません。

……あ!」

「どうした?」

「あの、新しいスキルが増えてます!」


 ガーネットは自分のスキルを読み上げる。


“スキル:賢者/弾性”


「“弾性”?」

「言葉の通りなら、

よく跳ねると言うことでしょうか?」


 ガーネットはそう呟いて、

自分の胸を持ち上げて下ろす。

そこに関しては前から凄い弾性があったと思う。

 おもむろに、ガーネットは地面に向かって飛び込んだ。

俺は受け身も取らず落ちる彼女を

とっさに受け止めようとしたが、

間に合わない。ぶつかる。


 ばいーん。


 バスケットボール。

いや、

スーパーボールのように跳ね上がるガーネットの身体。

 俺は唖然と上下に跳ねる彼女を見ていた。

何だ、これは。


「あ! あの!

とま! 止まらないです!」


 俺は彼女を慌てて受け止めた。


「大丈夫か?」

「はい! 痛みもないです!

ゴムでしたっけ?

よく伸びて縮む身体になったみたいです。」

「……理解が追い付かない。」

「恐らく打撃は効かないとおもいます。

後、よく延びるので、貫通しづらいです。」


 ガーネットは自分の頬を両手でつまみ、

左右に引っ張った。

ゴムという通り、よく伸びる。

手を離すと、ぱちん、と元に戻った。


「凄いです!

内蔵も骨も伸びますね。

これなら、私の身体でもアルジ様の股間のサイズを

全て納めることができますよ。」

「そう言うことじゃないだろう。」


 大人のおもちゃじゃあるまいし、

そんなこと童貞の俺には考えもつかなかった。

俺は苦笑いで返す。


「あの球体がスキルを付与したのか?」

「恐らくですが、その考えで間違いないと思います。

鑑定時に魔力が流れるので、反応したのかと。」

「それだと魔道具と同じだから、

もう一つ手に入れても俺は使えないのか。」

「残念ながら、そうなります。」


 驚きのドロップアイテムだが、

これも魔力がなければ意味がない。

だが、現状魔力や魔法について、情報も噂も皆無だ。

国家で情報を秘匿したとしても、

あまりにも何も無さすぎる。

じわじわ不気味さが増してきた。

 魔法理論派の研究者か何かに

コンタクトを取るべきか?

やぶ蛇になる可能性が高いか。

この情報も秘密にしておこう。


「耐久力も上がってます。

腕力と体力がない分、助かります。」

「そうだな。細かいことは置いておいて、

素直に喜ぼう。」


 俺は勤めて冷静にそう言った。

……俺のサイズが入る、のは多分難しい。

一人暮らしなので、

そう言うグッズを買ってみたことがある。

大きいものでも入ると謳うそれらすら、

入らなかったり、一回で伸びきって使えなくなった。

 なお、女性向けのグッズの

かなりマニアックなところに

俺のとほぼ同じサイズの張り子があった。

売れ筋ではなさそうだが、

何だか少し嬉しかったのを思い出した。



 気を取り直して、スライム狩りに戻る。

やはり三百から四百体討伐した辺りで

色違いのスライムが出現した。


「アルジ様! 銀色です!」

「逃がさん!」


 俺が道を塞ぐように立ちふさがり、

ガーネットを逆から送り込んで銀色のスライムを

挟み撃ちにする。

ガーネットの一振で銀色のスライムが真っ二つになり、

消えていった。

 よし!

やったぞ、終わった!

ガーネットはすぐさま自分のステータスを確認した。


「……減りません!

魔力が減りません!

やりました! レベルが5になりました!」

「よし。

周囲を警戒して、人気のないところへ行こうか。」


 ガーネットは、はい、と言って手を叩いた。

俺はガーネットを引き寄せて肩に乗せる。

地図を広げて、

入口と二階層の階段から距離のある

小部屋に目星をつけた。


「ここへ行って回復魔法を頼みたい。」

「この前回復魔法を使ったときは、

かなり光りました。

ここなら、光りも漏れないかと思います。

念のため、“熱感知”を使っておきます。

人が近いと、壁越しでも分かります。」

「便利だな、魔法。」


 ガーネットは呪文を唱えた。

鑑定とは違う紋様が浮かび上がり、消えていく。


「これで熱源と熱を感知できます。

周囲には私たち以外の熱源はありません。」

「よし。行こうか。」


 俺は地図の場所へ歩き出した。

巨体化すると、股下約170センチ。

一歩が普通の人間と違う。

かなり早く目的の小部屋にたどり着いた。


「周囲には人はいません。

スライムもいないみたいです。」

「ありがとう。」


 俺はガーネットを肩から下ろして、

一旦彼女に巻いていた触手を外した。

触手を全て回収し、ガーネットに近寄った。


「では、念のため怪我をされた腕を出してください。」


 俺はガーネットの指示通り切られた触手を出した。

イソギンチャクのような四本の触手の中ほどに

赤い傷口が見える。


「では、発動します。」


 ガーネットは俺の方へ両手をかざし、

呪文を唱えた。

紋様が凄い数浮かび上がり、俺を取り囲む。

すると、触手の傷口が動画の逆再生のように

元に戻っていった。

気づけば紋様は消えており、

俺の身体から疲れが消えていた。


「凄いな。

ぐっすり眠って起きたようにスッキリした。」

「念のため、鑑定もかけてみます。

もう少しお待ちください。」


 ガーネットは、すぐに鑑定を俺にかけた。

不快ではないが、

鑑定をかけられると背筋を撫でられるような感じがする。


「健康状態は全く問題ありません。

良かった! やった! 後遺症もないです!

先程まで普通に戦闘もできましたし、

リハビリも軽くで問題なくない……かと……。

え!?」

「何かあったのか?」

「アルジ様!

アルジ様のレベルも5になっていました!

後、スキルが!」


 今までは銀色のスライムを討伐しても、

止めがガーネットなら俺に変化はなかった。

今回はガーネットと俺の両方のレベルが上がった。

どう言うことだ?

 思考を深めるより、今は現状確認だ。

俺は意識を切り替えて、

ガーネットに鑑定結果の詳細を聞く。


“レベル:5”

“スキル:触手Ⅱ”


 新しいスキルが増えたのではなく、

既存のスキルが強化されたようだ。

初めて知ったが、

強化されたらローマ数字で表記されるらしい。

 俺は自分のステータスを開いてみる。

レベルの表記は5なのだが、スキルの表記は変化がない。

これが鑑定の差なのか。

 そもそも、このステータスすら謎だらけだ。

モンスターを討伐した人間にだけ出せる

謎の表示枠。

他人には見えず、見せることもできない。

ただ、従魔には見せることができたし、

逆に見ることもできた。

これも何かの魔法だと仮定すると、

自己鑑定をしているのか?

 今すぐ答えが出そうにないので、

考えるのをやめる。

俺は切り替えて、新しい触手を確認することにした。


「ガーネット、スキルを確認するから少しはなれててくれ。」

「承知しました。熱感知で周囲の警戒をします。」

「魔力に余裕があるのか?」

「総量からみて五分の一程使いました。

時間がたてばじわじわ回復しますので、大丈夫です。」

「凄いな。緊急時は回復を頼む。」

「もちろんです。

他にも使える魔力が増えたので、

魔法のレパートリーが増えました。」

「そりゃいい。後でそれも確認しよう。」


 俺は念のため時計を確認した。

まだ15時だ。後一時間は使える。

 まずは本数だ。

俺は触手を全て出して髪の毛のように地面へ垂らした。

数えてみると、482本。

 以前より2本増えている。

この2本は他の触手より太くなっており、

先が少し潰れて平らになっている。

その2本に意識を集中する。

操作感が他の圧倒的に違う。

この2本だけ、手のようにとても細かく動かせた。

しかも、潰れた先の部分は独立して曲がる。

手の平のようだ。


「なるほど、“触腕”だ。」


 イソギンチャクのようだと思っていたが、

こうなるとイカのようだ。

本数か多いから、オウムガイか?

 触腕の先の部分でボトルを握ったり、

天井の窪みに先を入れて掴んだり。

パワーも他と違う。

自前の腕と変わらないくらいの腕力だ。

 触手を触腕に5本ずつ巻いて、

指のように配置した。

まるで腕が四本になったようだ。

長さは違うし、指先は見た目だけだが、

こん棒か盾ならこの腕で装備可能だ。

 剣もバスターソードのような大きなものは難しいが、

片手で持てるサイズならいける。

弓矢は無理だな。

そこまで精密動作はできない。

 即席の副腕を腰辺りに構えて、

他の触手を確かめる。

他は特に変わりはなかった。

 副腕を出したまま触手を身体に這わせていく。

触手の巻き方は改良を続けているが、

今回の副腕は想定外なので、どう巻けばいいか困る。


「ガーネット、少し背中をみてくれるか?」

「はい、どうされましたか?」

「服がどう伸びてるか見て欲しい。」


 俺はライダースーツのジッパーを大きく空けて、

両腕を抜いて上半身を露にする。

袖を腰で巻いて帯のように縛った。

ぴちぴちのスーツが触手に張り付いてデコボコしている。

 触腕を一旦回収し、スーツに入れて伸ばす。

腰辺りからつき出すようにゆっくり伸ばしていく。


「生地は伸びてるか?」

「伸びてます。新しい腕ですか?

太くてたくましいですね。」


 腰から前に伸ばし、膝辺りで腕組みする。

その触腕に5本ずつ触手を巻いて、指のように配置した。

スーツに全て収まったたため、

本当に四本腕のようになった。

 棍棒を副腕に持たせてみた。

普通に持てるだけでなく、

背中側に振り下ろしてもかなり力が入ることに気づく。

骨と間接がないためできる芸当だ。


「大盾とか持てるな。」

「ガントレットの大きいものでも、

良いかとと愚考します。」

「なるほど。ガントレットか。」


 俺は考えながら副腕を伸ばす。

小田さんは全長10メートルの巨人になっても破れない、

と言っていた。

2本一対の副腕は10メートル近くの長さでも

余裕で動作できた。

俺は報告書は厚目に出そうと心に決めた。


「さて、今度はガーネットの番だ。」

「ありがとうございます。

待っている間に色々確認いたしましたので、

ご報告いたします。」


 ガーネットは満面の笑みでそう言った。

曰く、賢者のスキルは常時魔力を消費する代わりに、

アカシックレコードへのアクセス権を所有している。

なので、使いたい魔法があれば、

アカシックレコードから引用して使用できる。

つまり、魔力さえあれば

どんな魔法も使うことができるとのこと。

 なんだ、それは。

藤堂がたまにいう“チート”と言うものか。


「常時魔力を消耗しているので、

普通に魔法を使用するよりコストが掛かっていますが。

それを上回る利点です。」


 何となく理解した。

こうなると、漫画やアニメにあるような

魔法を試して貰いたくなる。


「なんと言うか、異空間に荷物等を収納できるか?」

「“ボックス”の魔法ですね。

ちなみに、収納した物の時間が止まるので、

腐ったりしません。

熱々の料理もそのまま持ち運べます。」

「あるのか、そういう魔法。凄いな。

じゃ、身体能力を上げる、補助するような魔法は?」

「“バフ”ですね。

各ステータスのバフがありますよ。

ただし、同時に二つまでしか上げることができません。

魔力を利用できないアルジ様の場合は、

力と耐久力を上げたり。

後は、力はアルジ様のスキルで補って、

敏捷と耐久力をバフで上げるのもありです。」


 すごいな、魔法。

なんと言うか、文字通り魔法のようだ。

可能性が拡がって行く。


「試しに敏捷と耐久力のバフをかけてくれるか?」

「承知しました。」


 ガーネットは俺に向けて手をかざす。

短い呪文を唱えると、紋様が俺に向かって飛んできた。

俺の身体に紋様が触れると、妙な感覚があった。


「いかがでしょうか?」


 ガーネットは普通に話しているのだろう。

だが、俺にはスローに聞こえた。

俺の感覚だが、

動画の0.5倍速より少し遅いくらいだと思う。

俺の感覚が速くなった、ととらえれば良いのか。


「不思議な感覚だ。」


 試しに軽く腕を振る。

そこまで力はいれていないつまりだったが、

かなりの風圧が起きた。


「鋭敏になった感覚に慣れないと、

自爆しそうだな。」

「はい。実戦投入には、訓練が必要です。

後、一定時間で効果が切れるので、

私から離れすぎるとかけ直せなくなります。」

「強力な分、制約はあるのか。

ここからはおれ自身の頑張りによるな。」

「私ももっと魔法を上手く使えるよう、

精進するつもりです。

うまく行けば無詠唱、無動作で

魔法を使えるようみたいです。」


 これは、しばらくスライム階で訓練だな。

俺は貯まっている魔石を早めに売るため、

今日はもうダンジョンから出ることにした。



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