第8話 魔法のある生活
とにかく今は回復を心がけよう。
俺は小田さんと別れた俺は、
特急で最寄駅まで戻った。
スーパーで食料を買い込んで家に帰る。
そこにSNSのメッセージが届いた。
藤堂のおじさんだ。
契約書が届いたらしい。
早すぎないか?
内容に不備はないとのこと。
俺は明日サインしに行く、と返事を送った。
手を洗い、うがいをして
受け取ったスーツを確認する。
左肩から袈裟がけに前開きで、
腰辺りまでスロットが入っている。
着用してこれを閉じると、
胸から腹の部分は生地が二重になるようだ。
手足部分は少し厚くなっており、
ブーツはなくても地下足袋のように歩けそうだ。
ただ、これで殴る場合は今までのように
重さと固さを活かした殴り方ではなく、
基本に忠実に殴るよう心がける必要がありそうだ。
俺はスーツは一旦置いて、
食料の補充に取りかかる。
日持ちして、簡単に食べられる肉味噌。
ブロッコリーとほうれん草は茹でてから冷凍。
その他野菜は小さく刻んで炒め、
薄味のスープにして保温出来るスープジャーへ入れておく。
下味は付けてあるので、
小分けにして出汁と味噌を入れれば味噌汁。
ルーを入れるとカレーやシチュー。
ホールトマトを入れてハヤシライスにもできる。
全ていつもより多めに作っておく。
その分活動しなくてすむし、
もし、ガーネットが目覚めても食べさせることができる。
改めてガーネットに声をかけてみた。
やはり反応がない。
今のうちだと、
俺はガーネットのローブ作りに取りかかる。
印刷していた型紙をもう一度精査して、
どれを作るか決める。
型紙通り生地を切り出し、
ミシンで縫合。
料理も含めて久しぶりに手を動かすと、
スイッチが入ってどんどん作りたくなってくる。
だが、時計を見るとかなりいい時間になっていた。
ローブは未完成だが、
今日は作業をやめることにした。
風呂に入ろうと、俺は脱衣所で全裸になったところで、頭の中に声が響き渡る。
「アルジ様! ご無事でしょうか?!」
ガーネットだ。
俺は胸を撫で下ろす。
「おはよう。ガーネット。
俺は無事だ。本当にありがとう。
それより、お前だって魔法使って倒れたんだ。
俺より自分の心配をした方がいい。」
「私は魔力枯渇なので、寝れば戻ります。
アルジ様は、回復が不完全なんです!
何かあれば、もう一度魔法で回復します!」
「落ち着け。
とりあえず、今療養してるから問題ない。
明後日にはガーネットのレベル上げに行ける予定だ。」
俺は風呂場へ行ってシャワーのハンドルを捻る。
湯船に浸かりたかったが、
作業に集中し過ぎて湯を張る時間がなかった。
「えっと、アルジ様、このままお話していいですか?」
「大丈夫だ。何かあったか?」
「レベルが上がったお陰で、
活動可能時間が伸びました。
前の倍、四時間は行けます。
後、消費する魔力が小さい魔法なら発動可能です。」
「使える魔法が増えた、と考えていいのか?」
「種類は少ない上に、
攻撃的な魔法ではありませんが、増えました。」
俺は頭を洗いながらガーネットの話を聞く。
「回復は発動できますが、
先日と同じく魔力枯渇します。
ちゃんと発動するのは、“索敵”、“熱感知”、
“魔力感知”、“鑑定”の四つです。」
“鑑定”。
俺はスキルでその名を聞いたことがある。
スキルと同じなら、
他者のステータスを詳しく調べて数値化できるスキルだ。
このスキルは超希少(レア)なので、
スキル所持者は各国から声がかかることもあると言う。
「索敵から、どう言うものか聞いていいか?」
「はい。
索敵は、“一度戦った事がある敵”の
居場所を探すことができます。
討伐してしまった敵には反応しません。」
なるほど、戦ってちゃんと敵として認識しないと
対象にとれないのか。
「熱感知は周囲の熱と熱源を感知できます。
スライムは熱を持たないので感知できませんが、
ゴブリンは体温があるので、
見えなくても離れていても感知できます。
屋外だと日光とかで熱源を遮ってしまって
感知できなくなることもありますが、
洞窟や建物内なら使えます。」
俺はサーモグラフィのようなものをイメージした。
なるほど、無作為に近くの熱源を見つけるのか。
「魔力感知は先程の熱感知と同じように、
魔力と魔力を持ったものを感知できます。
これなら、スライムも感知できます。
ただ、ダンジョンは壁とか床自体に
魔力が含まれている場合があります。
この場合、
壁や床の魔力が他を遮ってしまって
感知できなくなることがあります。」
一長一短というものか。
便利だがどちらにも穴がある。
「最後に鑑定ですが、
これはもしかすると使えないかも知れません。」
「どういうことだ?」
「まず、前提としてですね。
なんとなく、ですが。
私はこの世界のゴブリンと違う“もの”だと思います。」
それは、俺もなんとなくそう思っていた。
ゴブリンの雌なんてどんな資料にも載ってない。
人語を理解し、会話できるほどの知能があるモンスターなんて、
噂話でも聞いたことがない。
「私が知ってるゴブリンとアルジ様に聞いたゴブリンは、
見た目こそ似通っていますが全く別の存在だと思います。」
「“異世界転移”というヤツか。」
アニメや漫画に明るくない俺でも聞いたことがあるワードだ。
大体は主人公の人間が別の世界へ転移してしまうお話だったと思う。
「その表現が正しいと思います。
突然よく分からない現象が起きて、
気づいたらアルジ様と出会ったあのダンジョンにいたので。」
「まぁ、ダンジョンについては
分からないことだらけだからな。
そんなこともあるだろう、といった感じだ。
転移について、興味はあるが無理には聞かない。
ガーネットが話したくなったら、
絶対聞くから言ってくれ。」
「……ありがとうございます。」
涙声でガーネットがお礼を言う。
その涙はどういう意味か、
召還してないので顔が見えないため俺には分からなかった。
「……それでですね、
鑑定は術者が森羅万象(アカシックレコード)にアクセスして、
ターゲットの詳しい情報を調べるのです。
私が発動すると、恐らく、
“私のいた世界のアカシックレコード”に
アクセスしようとします。
でも、“この世界のアカシックレコード”しかないはずなので、
アクセス先が見つからず、情報が取得できません。」
なるほど、スキルの鑑定より上位で便利だが、
この世界では使用可能か微妙なのか。
アカシックレコードとは、話がかなり大きいな。
魔法の凄さを感じる。
「こちらに来てから使ったことがないので、
もしかしたら、
この世界のアカシックレコードに
アクセスできるかも知れません。
これは試してみないと分かりません。」
ネットワークとサーバーみたいな話だな。
魔法の話なのに、嫌に科学のような理屈だ。
「夕飯ができたらガーネットを呼ぶから、
その時に俺に鑑定を試して見てくれ。
食事で魔力回復にもなるし、いいだろう。」
「ありがとうございます!」
風呂からでて身体をタオルでふく。
下着を履いて、キッチンへ向かった。
今日は色々あったので、久しぶりに肉が食べたい。
ローストビーフにしよう。
スーパーで買った牛肉の塊を、
冷蔵庫から肉を取り出し、常温に戻す。
米を洗い、一升炊きの炊飯器で八合炊く。
米が余ったら冷凍すればいい。
その間に付け合わせのクルソンやサニーレタスを手でもいで、洗ってからサラダスピナーで水を切る。
ジャガイモを冷蔵庫からとりだし、
洗って皿に乗せ、濡らしたキッチンペーパーを被せて
レンジで加熱する。
ジャガイモをレンジから出し、更に鍋で蒸かす。
俺はポテトサラダはトロトロにする派だ。
蒸してる間に肉を叩いて下味を付ける。
フライパンで焼き目を付けて、
アルミホイルを巻き、
耐熱性バッグに入れて空気を抜く。
湯を沸かした鍋に肉入りバッグを沈めて蓋をした。
肉を焼いたフライパンでソースを作る。
醤油の気分なので、
ニンニクとショウガを叩いて炒め、
そこに砂糖と醤油、酒を入れる。
酒のアルコールが飛んだら味見して、
気持ちだけコショウを足す。
蒸されたジャガイモは熱いうちに皮をむいて潰し、
シュレッドチーズとブラックペッパーを加えて混ぜる。
一口味見して、塩を足した。
よし、どんぶりでいいか。
炊けた米をどんぶりへ放り込み、
ローストビーフをスライスして、
ぎゅうぎゅうに敷き詰める。
その上にグリーンサラダ、ポテトサラダを乗せ、
真ん中を窪ませる。
温泉卵を窪みに落とし、ソースを上からかけた。
作り置きのスープを小鍋に入れて、
冷凍のシーフードミックスと
コンソメ、バター、牛乳を入れて
クラムチャウダー風のスープにする
スープはスープマグへ盛り付け、
乾燥パセリをふる。
ローストビーフ丼とスープを机に運び、
部屋着を着てからガーネットを呼び出した。
想像以上に服が弱っている。
首回りはびろびろ。
袖や裾は所々解れている。
よく擦れるのか、
胸の辺りの生地は特に薄くなっている。
心頭滅却。
「アルジ様、本当に大丈夫でしょうか?」
両目に涙をためてガーネットが駆け寄ってきた。
彼女のどこを見ても危険が危ない。
だが、自業自得なのでないがしろにはできない。
それに、彼女の態度は好意的だが、
感情としては好意と言うより崇拝に近い感じだ。
それは好意とは決定的に違う。
命の恩人として、感謝してくれているのだ。
勘違いしてはいけない。
自戒して、俺は薄目で対応する。
「……大丈夫。
とりあえず、夕飯ができてるから、
先に食べてしまおう。
ガーネットは寝起きだから、
ゆっくり食べな。」
「はい! ありがとうございます。」
ガーネットは笑って、手を叩いた。
彼女にはフォークとスプーン、
自分はお箸を用意して食事にする。
「いただきます。」
ガーネットはもう完全に普通の人間と同じように話す。
誰かとの食事、と言うのは意外に癖になる。
俺は思ったより自分が喜んでいるとこに気づいた。
藤堂が孤独食はダメだ、と言っていたのを思い出した。
「このご飯も、初めて食べます!
美味しいです!
白いのがトロトロで、緑のがシャキシャキで、
赤いのはお肉ですか?
柔らかいのに歯ごたえが美味しいです!
スープも白いのの中にコリコリがいて、
美味しいです!」
彼女は何のテレビを見てたのだろうか。
また食レポが始まった。
作った本人として、聞いていて少し恥ずかしい。
「白いのは温玉だ。
緑のがグリーンサラダ。
もうひとつの白いのはポテトサラダ。
スープはクラムチャウダーだな。」
「ポテトサラダ、美味しいです!
これ、大好きです!」
満面の笑みで大好きです、とか言うと、
ちょっとグラッと来るじゃないか。
俺は自分のチョロさにゲンナリしながら、
食事を進めた。
「ご馳走さまでした!」
俺と同じくらいの量をペロッと食べきったガーネット。
ガーネットはまた目を輝かせて
尻尾の幻覚を振りながらこちらを見ている。
俺はお粗末様でした、と言いながら頭をなででやった。
彼女は目を細めて嬉しそうにしていた。
「洗い物を片付けたら、検証してみよう。
少し待っててくれ。」
「あの、テレビを見ててもいいですか?」
「それなら、リモコンの使い方を教えよう。」
俺が簡単に説明すると、
ガーネットはあっという間に理解する。
流石だな、と思いながら
洗い物の処理をするため台所へ移動した。
食器をざっくり水ですすいで、
食洗機へ入れて液体洗剤を投入。
スイッチを入れて稼働している内に、
鍋やフライパン等の大きな調理器具を手洗いする。
作り置きもしたのでなかなか量があるが、
無心で作業するのは嫌いじゃない。
夏なので比較的楽だ。
洗い物を終え居間へ戻ると、
熱心にニュースを見るガーネットがいた。
「終わった。」
「あ。アルジ様。
ありがとうございます。」
彼女はテレビの電源を消して俺に向き直った。
さて、検証を始めよう。
とりあえず、彼女の隣に腰を下ろす。
「鑑定の魔法だったな。
とりあえず、俺にそれをかけてみてくれないか?」
「アルジ様、
それでは私にアルジ様の情報が見えてしまいますが。」
一瞬ガーネットが何を言っているのか分からなかった。
気づくまでたっぷり十秒はかかった。
「大丈夫。
ガーネットが誰かに漏らすことはないと信じてるし、
見られて困る事もない。
ガーネットが見たくないなら話は別だが。」
「いいえ。見たくない訳ではないのですが、
その、えっと。
かなり詳しく見えますよ?」
「どのくらい?」
「体重とか身体的なものは、病歴から今現在の健康状態まで、隅々までくまなく分かります。
個人的なものだとお名前、家族構成、住んでいるところ、仕事、性行経験やその相手とかも見えます。」
「凄いな。それは凄い。」
素直に驚いた。
スキルの鑑定なんかより、
はるかに得られる情報が多い。
特に健康状態が分かるのはありがたい。
「むしろ、鑑定をお願いしたいくらいだ。
「よろしいのであれな、試してみたいと思います。」
ガーネットは俺の顔に手をかざし、
聞いたことのがない言葉を唱え始めた。
回復のときは俺が意識混濁状態だったので
わからなかったが、こんな感じなのか。
ガーネットの手のひらに紋様が浮かぶ。
甲骨文字のような角張ったものだったが、
すぐに消えてしまったのでよく見えなかった。
「……はい。鑑定しました。
何と言うか、少し時間がかかったのですが、
普通にできました。」
「なるほど。もっと一瞬で終わるのか。
メモしたい。鑑定結果を教えてほしい。」
俺はメモを用意してガーネットの話を聞いた。
聞いていた通り、身長や体重、病歴と現在の体調まで細かく調べられている。
やはり、あの日俺は死にかけていたようだ。
打撲による内臓へのダメージと病歴にあった。
もしかすると、
触手のダメージは内蔵に直結してるのかもしれない。
個人情報には、スキルや自分が童貞であることまでしっかり調べられていた。
「あのぉ……、失礼かもしれませんが、
アルジ様お若いのですね。」
「よく言われるが、まだ十代だよ。
変なのに絡まれなくていいから、
この見た目は重宝してる。」
「そうでしたか、失礼しました。
後、性行経験“なし”というのは、ですね……。」
「ないよ。
異性と付き合ったこともない。
哀しいが、この見た目は女性も遠ざける。」
まぁ、見た目だけではないが。
トラウマ、とまでは行かずとも、女性は苦手だ。
産みの親の件もあるが、
中学のときに女子生徒ともめた。
素行の悪い女子生徒が、
男子更衣室に忍び込んでプール後の男子の裸を盗撮しようとした。
偶然たまたま、
その女子生徒の隠れ場所の
真正面で俺が着替えた。
当時背丈が竹の子のように伸びていたころで、
既に俺の身長は189センチあった。
その上、あそこも大きくなっていた。
“臨戦態勢”、の大きくなっていたじゃない。
身体の成長にともない、“通常時”が大きくなっていた。
着替えている俺の全裸を見た女子生徒は、
絶叫して隠れ場所から飛び出した。
以後、彼女は男性恐怖症になり、不登校になった。
彼女の両親は事情を詳しく知っていたため、
俺に対してとても丁寧に謝罪してくれたが、
思春期にあれは逆効果だった。
しかも、当時の学校の保健室にいた保険医が、
思春期の性について論文を書くことで有名な人で。
俺を励ましたかったのは理解できるが、
しきりに俺に北欧へ引っ越して結婚する事を勧めてきた。
いわく、北欧の女性は身体が大きいので
君でも問題ない。
しかも、肛門での性行がポピュラーなので、
君の大きさでも受け入れてくれる。
28センチ程度ならむしろ、
アピールポイントとしてモテる、とのこと。
優しさが空回りしてる、とつくづく思った。
本人は真剣な分、なにも言えない。
なお、臨戦態勢時は28センチ以上ある。
卒業まで男子生徒には一目置かれ、
女子生徒は近寄らなくなった。
産みの親の件以上に心に突き刺さった。
藤堂もさすがにこの件は苦笑いしていた。
ちなみに、その女子生徒は転校し、
今は女子高で先生も含めて女を食い散らかしてるらしい。
昼ドラ真っ青な修羅場の日常だそうだ。
「……あの、鑑定結果にアルジ様の
股間のサイズもあるのですが、
これで異性にモテないのは
おかしいと思うのですが。」
「……大きすぎても恐怖感を与えて駄目だってことだ。
と言うか、ガーネットの世界では大きいと良いのか?」
「あー……、ゴブリンの中では、
大きいと、モテます、よ。」
顔を赤らめてガーネットは答える。
言い出したの、お前だろう……。
なのに俺がセクハラしたような空気になった。
「……とりあえず、ありがとう。
鑑定は、できると。
次は鑑定結果を鑑定できるか?」
「どう言うことでしょうか?」
「自分でステータスを見ても、
鑑定してもらってもスキルは名前しか出ない。
これじゃ、何ができるかわからない。
だから、スキルを鑑定してみてほしい。」
「かしこまりました。」
ガーネットはもう一度俺に手をかざして、
呪文を唱える。
今度はすぐ終わった。
「……できませんでした。」
「なるほど。
ガーネット。ありがとう。
魔力値はどうだ?」
「はい。まだまだ、余裕です。」
俺は少し考えて、
装備品のウエストバッグからドロップアイテムのナイフを取り出し机に置いた。
「次はこの前ガーネットにも使ってもらった
これを鑑定してみてくれ。」
「物は触れている状態で魔法を使う必要があります。
触れてもいいでしょうか?」
「あぁ、問題ない。
ただ、刃には触れるな。
切れ味がいいから、触れただけて切れる。」
「はい、かしこまりました。」
ガーネットはナイフの柄に触れ、
呪文を唱えた。
これは少し時間がかかった。
「……はい。鑑定できました。
ただ、普通より魔力を多く消費しました。」
「残り魔力は大丈夫か?」
「はい、まだまだ余裕があります。
このナイフなら、二、三十回鑑定しても倒れません。」
なるほど、安心した。
俺は新しいメモを用意して鑑定結果を聞く。
“カミソギ”。
魔力を通すと、実態のない対象も切断可能。
魔力を多く注げば、それだけ切れ味が増す。
これなら装備ごと腕まで切れるだろう。
あの時、触手で腕を強化していなければ、
多分死んでいた。
ガーネットは次の検証もできる、と言うが、
流石に心配になってきた。
俺は念のため冷蔵庫からプリンを出して机に置いた。
「また倒れないか心配だから、
これ食べて回復しておくといい。」
「これ、プリンですよね。
テレビで見ました。凄い。本物ですよ!」
目を輝かせるガーネット。
スプーンを手渡し、食べるように言う。
スプーンでプリンを掬い上げる。
揺れるプリン。
それを見て感嘆の声をあげるガーネット。
彼女の胸部はプリンより揺れている。
何だこれ。
スプーンを口に頬張り、
大喜びで両手を振るガーネットを微笑ましく思う。
反面、凶悪に揺れて、
よれたシャツの首もとからチラチラ覗く乳房。
本当に、何だこれ。
ガーネットがプリンを食べ終えたので、
検証の続きを再開する。
「今度はこれかだな。
テレビのリモコンだ。」
「はい、検証してみます。」
ガーネットはリモコンを握って呪文を唱えた。
しかし、何も起きない。
先ほどのような紋様も出てこない。
ガーネットも怪訝な顔でリモコンを眺める。
「リモコンは、鑑定できませんでした。
何が違うのでしょう?」
「ちょっと待っててくれ。」
俺はそう言って布を二枚取り出した。
ガーネットにこの二枚も鑑定結果してみるよう頼む。
「……え? こっちは鑑定できるのに、
こっちは鑑定できませんでした。」
「なるほど。
ダンジョン仕様かどうかで変わるようだ。」
俺はガーネットにダンジョンの話を
簡単に説明した。
モンスター、ダンジョン仕様の装備、
ダンジョン災害については、
空で言える程資料を読み込んでいる。
「……分かりました。
違い、その、“ダンジョン仕様”というのは、
魔力の有無かと思います。」
「魔力?
俺には魔力のステータスがなかったぞ?」
「私のいた所では、
魔力は万物に宿るとされています。
そして、自分の意思で好きにできる魔力が、
ステータスに載る魔力の項目とされています。
これが、同じだとすると、
アルジ様の言う、
“ステータスを見ることができるようになった”とは、
“魔力を持つようになった”と置き換えることができます。」
イマイチピンと来ないが、
理屈は通っているように聞こえた。
「なので、アルジ様は魔力をお持ちですが、
アルジ様の意思で利用できないので、
ステータスに載らない状態です。
元いたところでも、
魔法が使えない人たちはアルジ様と同様に、
利用できる魔力がない方々でした。」
「……それは、鍛練か何かで利用できるようになるのか?」
「できません。
私のいた所では、
“スキル”ではなく“ギフト”と呼ばれる力があります。
ギフトは生まれつき、
または神や精霊から後天的に付与される超常の力です。
このギフトで魔法関係の力を持っていないと、
魔力は利用できません。
私の賢者も元々はギフトでした。
こっちに来て、何故かスキルとして扱われています。
以上を踏まえて、恐らくですが、
魔力を扱うスキルを持っていると、
魔力のステータスが表示されると思われます。」
なんとなくイメージできた。
だが、ギフトとスキルはひっかかる。
何かモヤモヤする。
「ありがとう。よく分かった。
もしかすれば魔法が使える、と
分かっただけで儲けものだ。
鑑定も、かなり便利だな。」
「すみません、憶測ばかりで断定できず。」
「いや、ガーネットはこっちに来たのは数日前。
魔力枯渇で動けなかったりするから、実働は一日程度。
そう考えれば、凄いことだ。
ガーネット、本当にありがとう。」
ガーネットは嬉しそうに笑って、はい、と応えた。
思わぬ拾い物。
命懸けだったが、結果良かったと思う。
つい、俺はガーネットの頭を撫でた。
ガーネットは嬉しそうに、俺の手に頭を押し付ける。
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