第7話 想定外な生活

 あれから2日たった。

ガーネットに声をかけても反応がない。

まだ眠っているようだ。

 俺のステータスを何度も確認したが、

従魔の項目は消えてない。

彼女が死んでいたらこの項目は消えると思うのだ。


 あの日無理させたことに罪悪感がある。

なので、あの後金を受け取り、

今日も“自宅入院”をしている。

自宅入院とは、家で安静に過ごすことだ。

入院と言う分、普通の安静よりおとなしく過ごす。

ストレッチ等の運動はせず、

食事は作り置きか冷凍食品。

昼でも布団で横になり、眠らなくてもじっと動かない。


 自分の身体をないがしろにしていた。

ゴブリンを千体相手取ったのは、

やはり正気じゃなかった。

だから、この前ダンジョンで倒れた。

当然だと思う。

ガーネットのお陰で今は痛みをまったく感じない。

動くと違和感があるので、

この違和感が消えるまで休むつもりだ。


 ただ、食べるものがなくなってきたので、

そろそろ料理しないといけない。

冷蔵庫の中を見たが、食材がなかった。

 仕方がない。

自宅入院は一旦解除して、買い物へ行かなければ。

 そこへスマホの電話が鳴った。

藤堂のおじさんだ。


「あ、藤堂です。

今、話せる?」

「えぇ。

今は自宅療養しているので、大丈夫です。」

「具合はどう?」

「痛みはないですが、6割くらいの回復かと。」

「最近のモグリってすごいね。

先生の前髪の一部が白かったり、

左の顔に縫い痕とかあった?」

「真っ白の頭でした。」


 何となく藤堂のおじさんに回復を魔法について話せていない。

これこそ話してしまうととんでもないことに巻き込みそうだと思うからだ。

まぁ、ガーネットの髪は綺麗な白だから嘘ではないだろう。


「あんまり良くない情報なんだけど、

君には伝えておかないとと思って電話したんだ。」

「ずっと家にいるので、

どんな情報もありがたいです。」

「まぁ、うん……。そだね……。

君のクラスにいたハンターの子、

みんな閉鎖中のダンジョンで行方不明だって。

その入場記録が面倒なことに、

彼らが君と健治にからんだ日なんだよ。」

「……六人か七人でパーティーを組んでたと聞きましたが。」

「行方不明者は全員だね。

ゴブリンの大量発生が原因か判断しづらいけど、

二人には接点ができちゃってるから、気を付けて。

いざとなったら電話でもなんでもいいから、

連絡してよ。」


 思わず苦い顔になった。

これだから人間の相手はべらぼうに面倒臭い。


「まだダンジョンが閉鎖されてるから、

捜索はできない。

生きてたとしても、この数日分の食料があるか不明。

死亡していた場合は、

もう何もかも消えてなくなってる。

ご家族の気持ちは察して余りあるが、

こちらに類が及ばないことを祈るばかりだね。」

「ダンジョンがおかしかった、

と言う一点については同意します。

でも、あれは遅かれ早かれそうなってたと思いますよ。」

「健治から聞いてる。

彼らは人格が変わるくらいのぼせてたんだ、って。

ハンターに限らず、

少年兵として駆り出された子どもがそうなるケースはあるからね。

そんな子らは総じて長生きできない。」

「今回はかなり間接的だったと思いましょう。

同じ日にダンジョンに入ってた、

とかじゃないのが救いです。」


 もし、ダンジョンであいつらに遭ったら、

俺は攻撃されていただろう。

そうなれば、俺は迷わず反撃していた。

その結果、相手の命を奪うことも視野にいれて反撃していた。

それよりは、遥かにいい。


「もう一つ情報だ。

と言うより、都市伝説かな。

目撃者が多いから、実在はしてるだろうけど。」

「なんですか、その前置き。」

「“新種のスライム”、“スライムヘッド”。

黒いライダースーツの巨漢で、

首から上が緑色のスライムでできてる。

現れたダンジョンには、近いうちに異変が起きる。

ゴブリンの大量発生したダンジョンに少し前から現れて、

大量発生が報告された日にも目撃されてる。

直近だと健治と君が換金に行ったダンジョンに現れたそうだ。

昨日そのダンジョン緊急調査が入って異変がないか確認したって。」


 ……。

心当たりが、ありすぎる。


「……それは、何と言うか。

悪いものとしての都市伝説なのか、

良いものとしてのものなのか。」

「人によりけりだけど、

基本は悪いことが起きる前触れ的に言われてるね。

黒猫が前を横切ったら、的な感じ。

涼治君、何か知ってそうだね。」

「……多分、私のことです。

黒いライダースーツで頭がスライムの装備でダンジョンに潜ってます。」


 おじさんの笑い声が聞こえる。


「何それ、マジで?!」

「これもオフレコですが、

頭はドロップアイテムの装備でスライムのヘルムなんです。

ドロップアイテムなんで、

売り物より遥かに性能もよくて愛用してます。

ライダースーツはそれしか大きいサイズか無かったんです。」

「都市伝説なのか!

ぶははっ! そうか!

いつものところ、閉鎖中だからか!」

「あの日、更衣室から出たら悲鳴が上がったのって、

そう言うことか。」

「悲鳴が?!

ははは……! お腹痛い!」


 これはどういう風に転ぶか分からない情報だ。

さすがに頭を抱えてしまう。


「そもそも、私に合うサイズの防具がないんですよ。

ドロップアイテムなんで、

スライムヘルムはサイズぴったり。

そのライダースーツもサイズが合わなきゃ着てませんよ。

ただの皮にコーティングしてるだけで、

防御力としては低いものですからね。


装備のワンオフは企業専属のハンターか、

企業がスポンサーしてるクランに所蔵する必要があるんです。」

「合理的だねぇ。

悪いけどさすがに私も

ハンター仕様のアイテムを用意してる企業との

コネはないよ。」

「ハンターを始める前は

稼ぎは全部防具にしようと思っていましたが、

そもそも売ってないので支払う余地もないんですよ。」

「恵体も良いことばっかりではないね。」

「いや、何事も加減が大事って、話ですよ。

185とかなら、服もいっぱいありますからね。」

「人類として見ても、

規格ギリギリの大きさだもんねぇ。

同情するけど、

ハンターとしてやっていくなら利点もあるでしょ。」


 小さくため息をついた。


「都市伝説については、保留で。」

「ふくく。

分かったよ。

また、何か分かったら連絡するね。」

「ありがとうございます。

では、失礼いたします。」


 通話を終えて、スマホの画面を確認した。

通知が届いていたので、確認する。

ガーネットの服が届いたらしい。

ガーネットはまだ眠っているようなので、

買い出しと共に受け取りに行こう。

 できれば、ローブを縫い上げてしまえばまとめてガーネットに渡せる。

彼女の体は目のやり場に困るからな。

 彼女の見た目に幼い感じはない。

顔も身体も美しく、整った女性だ。

だが、寸尺が小さい。

4.5頭身くらいで、身長は110センチ。

バストのトップも身長と同じだけある。

 身体能力が低い上にあの体型では、

走るのもやっとだろう。

服で少しでも楽になればいいが。


 そうこう考えている内に出掛ける準備をした。

お盆なので特急の席がなかなかとれなかったが、

何とかなった。

荷物をいれるため、

いつものキャリーバッグは空で持っていく。

 人混みの駅で

何度か待ち合わせのランドマークにされながら

なんとか目的の駅に到着した。

電車の遅れもあり、着いた時には既に昼過ぎだった。

 キャリーバッグを引きながら目的の武具屋へ向かうと、

店員とスーツ姿の女性がもめている声が聞こえる。


「だっかっらっ!

二週間ぽっちで! これが! こんなに!

壊れるワケねーんスよ!」

「そう言われましても、

私どもは下取りしただけなので、

使用方法等については何も存じ上げません……。」

「一番安いかもしれないっスが、

これはウチの看板商品っス!

それが、短期間で、こうなるわけないんっスよ!?」


 よく分からないが、

店員がスーツ姿の女性に圧倒されている。

俺はさっさと受け取りを済ませて

スーパーへ行きたいので、

仕方がなく言い合っている方へ向かった。


「一番大きな破損箇所にいたっては、

とんでもない切れ味の刃物で、

ピンと張り詰めた一番固い状態を一刀両断っス。

“中身”も絶対ただじゃ済まないっス!」


 スーツ姿の女性がそれを掲げて、大声で叫んだ。

掲げているそれは、とても見覚えのあるものだった。

 あれ、この前下取りしてもらった俺のスーツか。


「今はワケあって外回りしてるっスが、

あたしは元々これの開発者の一人っス!

機材がなくても色々分かるんっス!

あーたじゃ埒があかないっス!

これの使用者に直接聞くから、

使用者を教えるっス!」


 店員が個人情報だと言うが、

スーツ姿の女性は引き下がらない。

ふと、俺は店員と目があった。

俺が下取りに出したときに対応したのと同じ人だった。

その視線をスーツ姿の女性は見逃さなかった。


「この人っスか?!

この人っスね!!」


 振り返ったスーツ姿の女性は、

目をギラギラさせてこちらを見る。

初対面で俺を見て怯まない人は初めてだ。

むしろ、俺が妙な圧に押されて怯んだ。


「話を! 聞かせて! 貰うっスよ?!」

「……何のことか分からないので、お断りします。」


 関わるとろくなことがないのは明らかだった。

メガネ越しで見える目が血走っており、

興奮したマニアやオタクのそれだった。


「申し遅れたっス!

ハンターの装備を手広く扱う“東野技研”の、

研究員兼、営業をしておりますっス。

小田(おた)と申しますっス!」


 名刺をおれの脇腹に押し付けながら、

彼女はそう名乗った。

渋々受け取った名刺には“小田玖美”と書いてある。

後、研究員の部分だけ手書きだった。


「さぁ! さぁさぁ。

このスーツの、使用経緯をじっくり! たっぷり!

まるっと聞かせて貰うっス!」


 プラスに考えれば、装備を扱う企業へのコネ。

マイナスは、目の前の人間が“ど”が付くマニア、オタク。

知識については信頼できるが、他は未知数。


「逃がさないっスよぉぉ……。

お兄さん、そんな目立つナリしてるんっスからぁ……。

装備についての悩みは、多いはずっスよぉ……。

今、あたしの話を聞けば、

企業専属契約、ワンチャンあるっスよぉぉぉぉ。」

「……営業の方がそんな権限持ってないでしょ。」

「んふふふ!

これでも研究員っスよぉ。

自分の作ったもののテスターを選ぶ権利が、

あたしにあるんっスよぉ。」

「なるほど。テスターか。」


 企業専属ハンターにも種類がある。

販売している武器などを使って活動し、

企業や製品を宣伝する“スポンサー”。

販売予定の武器などを実際にダンジョンで使用して、

性能や不具合を報告する“テスター”。

 当たり前だが、

圧倒的に“スポンサー”の方が扱いが良い。

製品と企業を背負って活躍するため、

制約が非常に多いが装備品については、

完全にワンオフで全身揃えることができる。

活躍すればボーナスも支給される。

 “テスター”はそれに比べると格段に落ちる。

当たり前だが、製品化してない装備品のため、

大なり小なり不具合がある。

それらを実際のダンジョンで見つけるため、

不具合の内容次第では命に関わる。

その代わり、定期的な報告以外に特に制約はない。

他社の武具と合わせて使っても良い。

 個人的には行動を縛られたくないので、

スポンサーよりテスターの方がありがたい。


「んふふふふふふ!

しかも、お兄さんみたいな人は既製品じゃサイズがないんで、

“マテリアルテスト”をして貰うっス。

“マテリアルテスト”はそのまま、

特定の素材をどう加工したらどうなるか

のテストっス。」

「聞いたことのないテスターですね。

流石に危ないように思えますが。」

「そんなことないっス。

社内テストはクリアしてるものっス。

耐久性や安全性は、一定値以上あるんっス。

こちらとしても、

マテリアルさえテストできればいいんで、

サイズとか他の部分は大いに融通が効くっス!

お兄さんの大きな身体も余すことなく覆えるっス!

ある意味ワンオフっスよ!」


 東野技研はダンジョンで手に入った素材を

加工、精錬、形成することに重きを置いたちょっと珍しい企業だ。

殆どの企業は魔石からのエネルギー抽出方法や、

そのエネルギーの活用法、運用方がメインで、

あくまで副産物として武具を作成している。

 東野技研のやり方は、

成功すれば大儲け、ノーベル賞も間違いないが、

何の手がかりも取っ掛かりもないので、

イマイチうまく行ってない。

だから、マテリアルテストなる珍しいテスターがいるのだろう。


「交渉次第ですね。

代理人を用意しても?」

「おぉ。個人じゃないんっスか?」

「個人で、ソロです。

でも、専属の弁護士がいます。」


 俺はそう言いながら、

藤堂のおじさんに電話してみた。


「もしもし、涼治君?

今のさっきでだけど、何かあったかな?」

「えぇ。

とりあえず、交渉が必要なのですが、

今日タカミさん用事で連絡できないんです。

正式に依頼するんで、仲立お願いします。」

「いいよ、いいよ。

通話をスピーカーモードにしてくれる?」


 俺は指示通りスピーカーモードにして電話を小田さんに向ける。


「初めまして、弁護士の藤堂直文と申します。

電話越しですが、

涼治君の代理人としてお話を伺いましょう。」

「……藤堂って、藤堂弁護士っスか?

大物じゃないっスか。本物?」


 おじさんは国や大きな団体相手に裁判をしたときに勝率が高い。

大企業や政治団体からは一目おかれている。


「疑わしいのであれば、

ウチの事務所に来られますか?

今日は空いてますので、車を出しますよ。」

「いえいえ!

滅相もございませんっス!

我が社のテスターにお兄さん……、じゃなくて、

彼をスカウトしたくてですね。

お話をしたいと言うことっス!」

「涼治君、渡りに船かな?」

「どうでしょうか。」

「いあいあいあいあ!

こちらとしては、

先日まで使用されていたスーツの

使用方法等を調査させていただいて、

テスターとしてご協力いただければなぁと!」

「壊れたスーツ。なるほど。」


 少ない単語だけだが、

おじさんは何となく察してくれたようだ。

色々面倒なので、

俺としてはスキルや戦歴はなるべく隠しておきたい。

普通は公表したりするが、

そう言う根回しや駆け引きが嫌だからだ。


「そちらとしては、

製品の品質向上のために必要な情報がほしい、

と言うことですか?」

「そうっス。

後、彼には話したんっスが、

マテリアルテストというものがありまして……。」


 小田さんがおじさんに簡単に自己紹介と説明した。


「なるほど。

では、彼の情報は製品の開発·改良·改修にのみ、

利用する、と?」

「スポンサーではないので、

概ねその認識で問題ないっス。

テストしたものが製品化しても、

我が社から彼の名前は出しませんし、

逆に彼にも関わったことは

公言しないようお願いするっス。」

「御社の中での情報の取り扱いとしては、

どうなりますか?

例えば、彼の情報を他部署や、

契約中の他のテスター、スポンサーに渡すことはありますか?」

「こちらから積極的にはだしませんが、

社内で請求されれば提出するっス。

当たり前ですが、社外には絶対出しませんっス。」


 おじさんは少し声色を変えて言う。


「こちらとしては、

ダンジョン内での活動も含めて情報の取り扱いは

慎重に厳重にと考えております。

そちらが情報をどのように利用されるか次第では、

このお話はお断りしたいと思います。」

「んおお……。

研究者として、

彼のスーツのことは是非知りたいっスけど。

社内での情報のやり取りは規制できませんっス。」

「では、彼の名前や個人情報は報告した情報と

別情報として処理、管理する、

と言うのは可能でしょうか?」

「報告いただいた情報と別にするだけ、っスか?」

「えぇ。それだけで、

二つの情報が簡単にヒモ付かない。

そうなればもし、内部で情報を請求されても、

提出するのは活動報告だけでしょう?」


 小田さんは手を打って頷く。


「なぁるほど。確かにそうっスね。

個人情報はテスターリストに入れとけば問題ないし、

彼とのやり取りはあたしがすればいいっス。」

「契約更新等業務連絡は、

私を経由して涼治君にお願いします。

涼治君も報告書は一旦私のところへ出してもらって、

ウチの事務所から東野技研へ送付する。

後の細かいところは、契約書でお願いします。」

「了解しましたっス。

契約書作成したら、

藤堂弁護士へ送るので

お二人で確認お願いしますっス。」

「涼治君、どうかな?」

「大筋はそれで異論ありません。

付け足すなら、

装備を変える場合、一週間は“慣らし”をするので、

早めに連絡いただきたい。」

「それは問題ないっス!

ちなみに、

今破損したスーツがここにあるってことは、

今は装備無しの状態っスか?」

「ありません。

同じスーツは結局ダメになるので、

新しいものを探してました。」


 俺がそう言うと、

小田さんは嬉々として鞄から何かを取り出した。

取り出したそれは、

前まで俺が使用していたスーツに似たスーツだった。

大きな違いはガントレットとブーツがついていない、

全身スーツタイプだ。

 小田さんは俺の身体にスーツを

ぐいぐい押し付けるので渋々受け取る。


「これは! 私の! 集大成!

これのテストをお願いしたいんっス!」

「契約締結前なんですが。」

「サービスっス!

今日中に契約書は用意するんで、

とりあえず慣らしておいて貰えると助かるっス。

そちらとしても、

契約までの繋ぎの装備を用意しなくていいじゃないっスか。」


 俺としては悪くないが、面倒だな、

と思っているとおじさんが助け船を出してくれた。


「小田さん、このスーツはなんと言うか、

手付けみたいな?」

「そう思っていただいて結構っス。

もし、契約締結ができなくても、お渡しするっス!

お金はいいんで、感想だけくださいっス!」

「……小田さん、差し支えなければ、

さっき言ってたワケあって外回り、

のワケを教えて貰えますか?」


 俺がそう尋ねると、

小田さんはばつが悪そうに目を背けて口を尖らせた。


「三徹してぇ、よく分からないままぁ、

目についた素材、高いのも珍しいのもまぜこぜにしてぇ、

最高で完璧なのスーツができたんっスよぉ。

でも、頭ボーッとしててぇ、

何と何をどうやって、何と混ぜたか、とか

メモしてなくてっスねぇ。

再現不可能になったんっス。

しかも、いくらお金がかかったかも不明。」

「研究者として、一番やっちゃいけないヤツでしょ。」

「うぅ……。」


 俺ははっとして小田さんを問い詰める。


「もしかして、その最高で完璧なスーツは……。」

「はい! 今お渡ししたスーツっス!」

「大丈夫な物なんですか?」

「はい! 完璧なんっス!

今までにない完全な新素材!

衝撃、突撃、斬撃、耐火、耐水!

何より、着用者がどんな姿になっても、

対応可能っス!」

「着用者が?」

「はい!

あたしの夢は

“アニメとか漫画にあるヒーロースーツ”を

作ることっス!

巨大化しようが、狼に変身しようが、

無数のコウモリになって飛ぼうが、

どこかで集合、合体して人型に戻ろうが、

破れず対応できるスーツ!

流石にこれは複数個体に分散されると脱げちゃうっスけど、

計算上は十メートルの巨人になっても対応できるっス!」


 俺は思わず顔に出してしまった。

これだ。これを求めていた。

俺のスキルに対応できるスーツ。


「んふふふふふふ!

いー顔してるっスよぉ。

いいでしょぉ。

この対応力のお陰で、

男女共用、完全フリーサイズっス。

お兄さんの巨体も完璧にカバーできるんっス!」

「なるほど。

だから巨漢の涼治君にテストして貰いたかったのか。

涼次君としても助かるんじゃないの?」

「助かりますが……。

報告書、どんなフォーマットですか?」

「急がなくてもいいんで、

なるべく細かく報告して貰いたいっス。

フォームも自由なんで、

お兄さんの使用感や体感とか感覚の話しも報告してほしいっス!

……まぁ、破損しちゃうと素材が再現できないから、

修復不可能なのが問題なんっスが。」


 確かにリスクは小さくない。

だが、これなら触手のバンプアップに耐えられる。

今度は全身スーツなので、手足も大きくできる。

股間を隠すためにライダースーツは必須のようだが、

些細なことだ。


「店員さん、注文してた服の受け取りに来ました。

あと、このスーツの試着にテストルームを借りられますか?」


 俺は近くでこちらを興味深そうに見ていたさっきの店員に話しかけた。

店員はタブレット端末で確認して、

紙袋入りの服を俺に手渡した。


「こちらが、ご注文の品です。

テストルームは当店の商品の試着にのみ使用可能なので、

申し訳ありませんがお貸しできません。」

「まぁ、それもそうですね。

ありがとうございます。」


「あ、お兄さん。

そのスーツ、

前開きでどっちかの足を突っ込んだら

他の箇所も大体その足に合った大きさに広がるから、

簡単に着れるっス。」

「どういう仕組みですか?」

「ゴムとかシリコンと違って、

締め付けはないんっス。

伸ばしたらその分何の抵抗もなく伸びるっス。

縮むときはすぐさま縮むけど、

身体の形に合わせて縮むから痛みや不快感はないはずっス。」

「……仕組みは?」

「あはは! わかんないっス!」

「この人研究者か? ホントに。」


 ともかく、

問題だった装備についてはなんとかなりそうだった。

贅沢は言えないが、

この船が泥でできてないことを祈ろう。

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