第11話 増える収入 増える支出
いやぁ、ボロイ商売ですわぁ。
面白いぐらいお金が入ってくるわぁ。ガッポガッポですわぁ。
「ナナちゃん、その服可愛いねぇ」
「えへへぇ」
以前はほぼ毎日同じ服を着ていたナナだが、俺が服を買ってあげたことで客の満足度が急激に上がったよ。
ナナも喜ぶし客も喜ぶ、浮ついた客が金を落として俺も喜ぶ。利息を払えるから、弥生も喜ぶ。皆幸せだぁ。
「ナナちゃん、タバコちょーだい」
「はい、毎度アリッスー!」
ここで買った割高なタバコのみ喫煙可能という悪どい商売だが、今のところは好評だよ。女子高生の笑顔で財布が緩むオッさんってのは一般的に気持ち悪いけど、金を落としてくれるなら福の神よ。まさにゴッド親父、ビリケンさんのなり損ない。
「朽葉、朽葉」
「なんだ? なんでヒソヒソ声?」
「ナナちゃんのメイド服が見たいんだけど……」
おっ……来た来た、こういう馬鹿を待ってた。
「んー……先立つものがなぁ」
「これで足りるか? 足りるだろ? 足りるといえ」
「へへっ、毎度っ」
ちょろいわぁ、メイド服ごときで五万も出してくれるもん。あんなの本格的なヤツじゃなけりゃ三千円前後で買えるってのに。
このまま順調にいけば、借金五十万くらい減らせるかな?
「充、首筋を噛ませなさい」
突然何言ってんだ、この成金女。お腹空いたの?
「どうして? いや、拒否権ないのはわかってるけど、理由を知りたい」
「明日はプールでしょ? 逆ナン対策よ」
俺が逆ナンされてなんの不利益があんのか知らんけど、対策なんて必要なくね?
俺に声をかけてくる女なんて、
「対策の意味はわからんけど、首筋洗ってくるから待っててくれ。結構汗かいたし」
「ダメ。洗ったら噛み代払わないわよ」
なんだよ、噛み代って。ワガママを聞くたびに小遣いくれるから、それのことなんだろうけど、その名称やめない?
「弥生がいいなら、別に何も言わんけど……」
どうでもいいが、大人しく首を差し出す自分が怖い。急所ぞ?
「ああ……
男衆? 何? お祭り?
言葉の意味を理解しあぐねていたら、首筋に痛みが走った。
「あだっ!? もうちょい優しく……ってか夏休みで良かったよ。さすがにこれで学校行けんし」
「は? 新学期の前にも噛むわよ? 頭と眼球以外は全部噛まれると思いなさい」
満身創痍過ぎるだろ。中世の拷問かよ。
「冗談に聞こえないのが怖いな」
「本気よ? 耳とか鼻は、もげそうだから手加減するけど」
そういう配慮できるなら、最初から噛まないでくれよ。虐待を疑われるわ。いや、実際に虐待なんだけどさ。
「いや、そういう問題じゃ……」
「股間も加減するから安心しなさい。私はまともなのよ」
え? そこも噛むの? 冗談抜きでやめてほしいんだけど。
「言っとくけど、プールで私とナナちゃん以外の女を見たら……加減できないわね」
絶対に見れねえ。見たいけど見れねぇ。一時的に性欲満たしたせいで、性欲の根源失っちゃかなわん。くそ、ちゃんと利息払ってるのに……。
「さっ、次は充の番よ」
え、俺も噛むん? ナンパ対策?
そりゃまあ、お前はされるかもしれんけど……断ればいいじゃん? 公共の場で無理矢理連れて行こうとするヤツなんざおらんだろ。
「ほら、早く……」
せめてアルコールティッシュで拭いてほしいけど、言えんよなあ。言ったら股間噛まれそうだし。
「痛かったら言ってくれよ?」
「言うけど、噛むのやめちゃダメよ?」
言う意味ないじゃん。歯医者かよ。
さて……精神が拒絶してるけど、噛むか。嫌だなぁ……。
「んっ……ああっ……」
続けてもいいのだろうか? 妙に艶めかしい声をあげていらっしゃるが。
ってか大丈夫? 親父さんに殺されたりせん? 俺が親父さんの立場だったら、事情聴取入るんだけど。
「もっと……もっと痛く……」
痛みを求めてんの? これってそういう目的だっけ?
わからん……この女だけは本当にわからん。サドとマゾは表裏一体ってヤツか?
中々良い施設だが、夏休みに来るもんじゃねえな。
流れるプールあるんだけどさ、流れないのよ。人がギチギチに詰まってるから、泳げないの。浮き輪なんて使えないのよ。皆歩いてるのよ。
え、何これ? リハビリ施設?
ウォータースライダーも待ち時間エゲつないから乗る気になれんし。
「兄さん、あっちの小さいプール行かないッスか?」
「……そうだな、わざわざこんな施設で入るようなもんじゃないが、仕方ないよな」
これ……近所の市民プールに行ったほうが良かったんじゃ?
高い入場料払ってこれかぁ……飯も馬鹿みたいに高いし。
「適当にゲーセンとかマッサージにでも行く? 後、温泉とかもあるみたいだぞ」
「ええ……」
テンション低っ! いや、気持ちはわかるけどさ、ナナを見習えよ。弥生の分も奢ってるんだから、楽しんでくれよ。
……温泉は当たりだったな。
うん……普通に温泉旅館とか行ったほうが良かったかも……。
「いやー! 楽しかったッスねぇ!」
「……そうだな!」
ナナが楽しそうなら、もうそれでいいや。何も言うまい。
近くの串カツ屋とか観光者向けの変な服屋のほうが、良い思い出になった気がするけど何も言うまい。
「おー! 変なマスコットキャラ!」
「あっ、走るなって」
元気だなぁ……温水プールで全力で泳いでたくせに、よくもまあ体力が残ってるものだ。老いさらばえた身としては羨ましい限りだ。
「流れるプール楽しみにしてたのに……全然楽しくなかった」
ナナが遠くに行ったのを良いことに、弥生が不満を漏らす。
ナナに聞こえないように配慮する辺り、意外と大人なんだな。非常識人代表だとばかり思ってたよ。
「夏休みだから仕方ないって」
「普通の土日祝日でも一緒でしょ? ニートしか楽しめないじゃない」
いや、普通に平日休みの仕事とかあると思うんだけど。
っていうか金貸しってその辺、融通利くんじゃないの? まともな金融機関ならまだしも、サラ金なんて定休日自由じゃね? 知らんけど。
「いつか平日に行ける機会が訪れるって。そん時また行こうぜ」
「また誘ってくれるの?」
「どーせ死ぬまで借金返せないだろうし、いつまでも一緒だろ?」
「それって……」
……? 俺変なこと言った?
今はノミで利息払いつつ、若干借金を減らしていってるけど、いずれ利息さえ稼げなくなる日が来ると思う。世の中そんなもんだろうし。
他の商売も模索するけど、結局借金は膨れ上がっていく一方だろ?
「だから漁船は勘弁な。俺、やりきれる根性ないし」
「ふん……貴方次第よ」
わりと切実な頼みだったんだが、なんか良い雰囲気になってない?
わからんなぁ、この人。本当にわからん。とりあえず、おかしな気分になる前に空気を変えてほしい。
「兄さーん! 姉さーん! この店面白そうッスよー!」
あっ、ナイス。こんなところで騒ぐの恥ずかしいからやめてほしいけど、今回に限ってはナイスプレー、ナイスはしゃぎだ。
「えーっと? ゲーセン? えらい古風だけど……」
こんな便所みたいなプレハブ小屋に興味惹かれたのか? まあ、貧しい家庭らしいから、何もかもが物珍しいんだろうな。その感性は皮肉抜きに羨ましいよ。
「レトゲーってヤツかしら? 見たことない筐体ばっかだけど」
「ああ……昭和時代の漫画とかアニメを題材にしたゲームが多い気がする」
なんとなくだけど、回転率良さそうだな。難易度高すぎて速攻で百円溶けるタイプだろ? 知ってる知ってる。
「兄さん、ちょっと遊んでみたいんスけど……その……」
「わかってるわかってる、ほれっ」
「兄さん! 愛してるッス!」
ったく、借金持ちにタカりやがって。今となっては俺のほうが貧乏なんだぞ?
なんて思いつつも千円あげる辺り、俺も甘いよな。
「充、私もやりたい」
「……やれば?」
「んっ」
何その手? お手しろって? こんなところで犬扱い?
「私もお小遣いちょうだい。今日のデートは奢りでしょ?」
「兄さん、そこの千円ガチャガチャってのめっちゃ気になるッス」
「私も気になる。そこのお土産屋も気になるわ」
「アタシはそこのクレープ屋が気になるッス」
……本当に一生借金返せないかもなぁ。
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