第12話 多忙な夏休み
うーむ……前回の売り上げの余りを、デートで飛ばしちまったな。アレをデートと呼んでいいのかは難しいところだが。
なんだよ、シミつきパンツガチャって。千円も取りやがって。っていうか女の子が回すガチャじゃないだろ。男でもネタ以外で回すことないだろうけどさ。
ところで、あのシミってどうやってつけてんだろ。まさか本当に女性が一度履いてシミをつけてるなんてことは……あるわけないか。
まあ過ぎたことは気にしないでおこう。ナナの脱ぎたてパンツを売るっていう、考えうる限り最悪のビジネスも思い浮かんだけど、今すぐ忘れよう。そこまで落ちぶれたくないからな。
それよりもだ。とうとう成功したぞ! ノミ屋の客を借金漬けにすることに!
弥生の親父さんの管轄になったので俺の手元に利息がくることはない。だが、それなりの報酬は貰えたのでヨシ!
その報酬を借金返済に充ててもいいのだが、俺は高みを目指すぞ。
二十万返しても、利息が二万円安くなるだけ。だったら二十万でカードゲームを買い占めて転売したほうがいい。
最近人気の〝携帯怪獣カード〟はクソ転売ヤーのせいで常に品薄になっており、購入するだけでもハードルが高い。それゆえに、出たばっかりのパックでも高値で転売することができる。これは決してギャンブラー特有の皮算用ではない。実際に高値で取引されているのだ。
面倒だし外道臭いのでスルーしていたが、ここまできたら乗るしかないだろ。俺が知る限り、三年ぐらいは続いてる商売だからいけるべ。商売ってのは、基本的に模倣なんだよ。成功してる人間の真似をするのが定石。ま、素人に限って拙い自論を押し通して自爆すんだけどね。
「てなわけで、今回は利息の支払いだけで頼むわ」
「別にいいけど……素直に借金減らしたほうが賢明だと思うわ。良妻だから止めないけどね」
ふっ、弥生はロマンがないな。金貸しってのは、アコギなくせに堅実なんだよな。
携帯怪獣カードの転売は、ほぼ確実に儲かるんだぜ? 実際それで飯を食ってるヤツがいるって聞くし。
運の良いことに、ノミ屋の顧客にコンビニ店員が何人かいるんだよ。
そいつらに手数料を払って、発売と同時にカードのボックスを回してもらった。
手数料に三万、カードの仕入れに十七万。カードは最低でも二倍、タイミング次第では五倍ぐらいになるだろう。いやぁ、ワクワクするなぁ。株みたいなもんじゃん。
ん? なんか気になること言ってなかった? まあいっか、いちいち聞き返すと藪蛇パターンになるのが目に見えてるし、スルーしよう。俺はクレバーなんだ。
「充兄さん、あんまり迷惑かかる行為は……」
……心が痛い。ナナに窘められると心にダメージくるわ。
お前もじゅうぶん迷惑行為やってるからな? メンヘラムーブで無理矢理、相場の倍ぐらいするたこ焼き売りつけてるからな?
過ぎたことを責めたくないけど、結構苦しかったんだぜ? あの頃の俺は五十円単位で金の計算するぐらい、切羽詰まってたからな。
……ま、借金の額で言えば、今のほうがよっぽどヤバいんだけどね?
「そんでねぇ……最近卵が高くてねぇ……」
「らしいですね」
「息子がねぇ……卵焼きが好きなんだけど……借金で余裕がなくてねぇ……」
「ええ、つらいですよね……俺も七百万ぐらい借金あるんでわかります……」
「ええ! 大変やねぇ……若いのに……。私も頑張らんとねぇ……」
……辛い。ただお年寄りとお話してるだけなのに辛い。お婆さんから息子の話出てくるだけで、精神にくるわ。卵焼きすら作れないって……令和でっせ? 飽食の時代でっせ? そういうお涙頂戴に弱いから、マジでやめてほしい。
「返済日が怖くてねぇ……」
「わかりますよ……俺も利息の計算するだけで吐きそうになりますもん」
「若いのに大変やねぇ……」
なんでお年寄りと負け犬トークしてるのかって? 仕事だよ、仕事。
ノミだけじゃ安定しないということで弥生の親父さんの手伝いをしてるんだが、これがまた辛い。肉体労働ならぬ精神労働だよ。
親父さんの部下が厳しい取り立てをし、付き添いの俺が債務者に優しい声をかけて潰れないようにする。飴と鞭というよりマッチポンプだろ、これ。
借金取りの基本は生かさず殺さずってヤツか……債務者よりも、俺の心が先に死にそうだわ。まあ、俺も債務者なんだけど。
「私も働きに出れたらいいんやけどねぇ……足が悪いんよ……」
やめて? 老化による心身の不調とか、そういう話やめよ? 胸が苦しくなってくるからさ。
「それは大変ですね……。無理しないでくださいね」
「でもねぇ……無理しないとお金返せないからねぇ……息子だけでもしっかり食べてほしいんやけどねぇ」
早く帰りたい……。かれこれ二時間ぐらいは相手してんだけど、そろそろ勘弁してほしい。
なんでアコギな金貸しの片棒担がなきゃいけないんだ? 俺は博打が好きな一般高校生だぞ? 善良な一般市民ぞ?
「お弁当買ってきましたぁ」
「おう、そこ置いとけや」
なんで金貸しのパシリなんか……いや、マグロ漁船に乗ったり、弥生の足舐めるよりはいいんだけどさ。
にしても……。
「なんで弁当なんて食わせるんです? 相手は劣悪な債務者なんでしょう?」
詳しいことは知らんが、なんらかの手続きを取らせるために、朝から債務者を事務所に軟禁しているのだ。飯なんて食わせる必要ある? セコイ税金対策?
「兄ちゃんホンマに素人なんやな」
あたりめえだろ、良識ある一般人ぞ?
腹立つわぁ、半グレ組織の下っ端が偉そうに。
「飯食わさんと監禁扱いになるんや。もちろん事務所の鍵もかけとらん」
ほえー……俺には違いがわからんなぁ。
事務所に連れ込まれた時点で逃げられんし、飯を食わせたとて立派な監禁じゃね?
「お茶入れたってくれや。あくまでも自分で判を押してもらわにゃいかんし、優しくせんとなぁ?」
……嫌な世界だなぁ。俺は熱い博打を打って、良い暮らしができればそれでいいんだけど。半グレにこんなこと言っても仕方ないかもしれんけど、少しは俺の健全さを見習ったらどうだ?
「まったく。この世界のこと覚えんと、お嬢とやっていかれへんで」
お嬢……弥生のことだろうな。
え? 俺、アイツと金貸しの道を歩むの? ヤダよ? 俺は博打という男の世界を駆け抜ける予定なんだけど。
「ほら、ラスト十回。気張りなさい」
む、無理ぃ……。
なんで? なんで筋トレなんかさせられてんの? 運動部じゃあるまいし、筋トレなんて自分の意思でするもんだろ? なんで弥生に強制されにゃならんの?
「きゅ……休憩させて」
「腕立て伏せくらいでなっさけないわね。本当なら私を乗せたままやらなきゃダメなのよ?」
え、それが主流なん? 人を乗せるのが主流なん? 我、素人ぞ?
「今更だけど……なんで筋トレ……」
汗だくで苦しむ俺を見て性的興奮を覚えているのだろうか。こいつならありうる。
イケメンの汗は輝いて見えるかもしれんけど、俺みたいな根暗野郎の汗なんか汚らわしい体液にすぎんだろ。
「そりゃ貴方……そんな細い腕じゃ私をお姫様抱っこできないでしょ? いや、私は軽いんだけどね?」
お前の体重は知らんけど、その理屈はもっと知らん。俺にお姫様抱っこさせて何が楽しいんだよ。お前はお姫様って柄じゃないし、俺も王子様って柄じゃない。モンスターテイマーとゴブリンだよ。
「どうせ一生借金まみれなんだから、私の横に立つに相応しい男を目指しなさい」
お前の横ってマッチョマンしか立てないの? モヤシマンじゃダメなの?
そりゃこいつは恨み買うタイプだから、屈強なSPが必要なんだろうけどさ。俺である必要性を感じない。
「それに男に負担がかかる体位も多いらしいわよ」
このお姫様もどき、急に下ネタぶっこむやん。しかも女子特有の笑えないタイプの生々しいヤツ。
どこで得た知識かはこの際聞かんけど、そういうのやめな? 男って下ネタ好きに見えるかもしれないけど、そういうの結構ドン引きするよ?
「……そうなんだ」
「腕がしんどいなんてしょうもない理由でレスになっても困るわ」
……金貸しって話通じないんだな。何言ってるかさっぱりわかんねえや。
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