第4話 たこ焼きキャバクラ

 俺って結構人を動かせるんだな。まあ、取引材料ありきなんだけどさ。


「嬢ちゃん、たこ焼き十二個で」

「はいッス!」

「おいおい、たった十二個かよ。俺は十六個!」

「あっ、やっぱり俺も十六個で頼む!」

「あざッス! マジ感謝ッス!」


 ヤンキーなんてね、ちょろいもんスよ。可愛い子がいるってだけで、簡単にホイホイついて来て、割高なたこ焼きを注文するんだから。


「コーラもお願い」

「あっ、俺も!」


 気に入られようと、金ガンガン落としてんなぁ。すぐそこに自販機があるのに、割高なジュースなんか買っちゃって。

 うわ、この店のコーラってただの缶ジュースかよ。ただの転売じゃん。絶対そこの自販機で買った方がいいって。


「お兄さん達、マジで優しいッス!」


 なんて眩しい笑顔。童貞ヤンキー共がデレデレしてらぁ。

 俺? 足舐めプレイしたんだから、童貞じゃないだろ。俺が童貞だっていうなら、定義をハッキリとしてくれたまえ。論文出せよ、出せないとお前の負けだぞ。


「いやぁ、楽しみだなぁ。タコ焼き好きなんだよ、俺」

「何言ってんだ、俺のほうが好きだし。このために昼飯抜いてきたし」

「はぁ? 俺は食べきったら追加で頼む気なんだが?」

「おい、口を慎め。我、たこ焼きマイスターぞ?」


 何を張り合ってんだ、こいつら。

 おっ、こいつらが盛り上がってるから一般の客も来たぞ。俺MVPじゃね? めっちゃいい仕事してない?

 ……ごめんな、一個食べたらすぐに後悔すると思うぜ。でも俺は悪くない。美味しいなんて一言も言ってないもん。明るくて人懐っこい性格の可愛い店員がいるって言っただけだもん。真実だべ? 事実だべ?




「…………」

「…………」


 テンション低っ! まあ、そりゃそうなるわな。


みつる兄さんは食べないんスか?」

「ん? ああ、お金に余裕がなくてな」


 あっても食わんけどな。二度と食わんわ。

 ……ああ、もう。そんな目で見るなって。こんだけ客連れてきてやったんだから、俺から搾り取る必要ねえじゃん! ……しょうがねえな。


「じゃあ八個入りお願い……」

「まいどありっ!」


 可愛いだけで人生得するもんだな。俺も可愛くなりたい。


「たこ焼きマイスターのお兄さん、つまようじが進んでないッスよ?」


 なんだよ、その表現。初めて聞いたわ。


「えっと……熱いからゆっくり食べようかなって」


 うぷぷ、ヤンキーのくせに弱気になってる。ざまあみろ、俺の倍満を安手で蹴った報いだ。これからは麻雀でも弱気な打牌しろよ。


「そッスか。ちょっとこっち来てもらっていいッスか?」

「え?」

「フー、フー」


 あっ、そういうオプションあるんだ。俺の中のメイド喫茶がこんなイメージだわ。


「さ、サンキューな」


 うわ、チョロッ! つまようじが進んでる!

 っていうか照れんなよ、ヤンキーのくせに。そんな頭悪そうな髪型と、汚いニキビヅラで赤面しても可愛くないんだよ。


「嬢ちゃん、俺も熱い」

「俺もだぁ」


 え、キモッ……。絵面が酷すぎるんだけど。

 ……このたこ焼き娘、中々の強者かもしれんな。自分の可愛さを最大限に活かしやがった。料理人としてどうなんだ? って疑問は残るけど、まあ商売ってそういうもんだよな。VTuberとかも配信者として見た場合……。


「充兄さん、たこ焼きできたッスよ」

「あ、ああ。サンキュー」


 できなくてよかったのに。永遠に完成しなきゃよかったのに。

 昨日は九百円払って、今日は六百円か。当分はまともな昼飯食えないな。


「充兄さん、充兄さん」


 ……こいつ、店員だよな? 俺、客だよな?

 また大口開けてるけど、食べさせなきゃいけないの? いや、別に八個も食べたくないから貢ぐのはいいんだけど……人前ぞ?


「ほいっ」


 俺も大概チョロいよなぁ。

 なんでたこ焼き屋でキャバクラみたいに、店側の人間の飲食代負担しなきゃいけないんだろう。


「んっ……」

「もう、また口の周り汚してぇ」

「んぐっ……」


 年齢そんなに変わらないはずなんだけどなぁ……ワンチャン同い年、なんだったら年上かもしれないのに。


「嬢ちゃん、俺のもいるかい?」

「いいんスか!? あざッス!」


 これ……中々良い商売じゃね? こいつの腹具合次第じゃ、凄い売り上げになるかもしれない。飯代も浮くし、一石二鳥じゃん。

 俺もこの商売にかませてもらうか? いや、税金とかその辺めんどくさそうだし、こいつにこれ以上懐かれても困る。それ以前に、十中八九無許可営業の店と関わりたくない。




「あれ? 今日は賭場開かねえの?」


 今日はめっちゃ勝てそうな予感がしてるのに、なんで賭場開帳してないの?

 それに来週からはバイト始まりそうだし、今のうちにやりたいんだけど。


「当たり前だろ。サイコロだの麻雀牌だの弄ってる暇があったらたこ焼きだろ」

「俺は八個ずつ買って、笑顔を多く見る作戦でいくぜ」

「甘いな。俺は十六個買って、印象を強くする作戦だ」


 なんなんだ、このヤンキー共は。ちょっと人懐っこいだけの女の子に、骨抜きにされやがって。情けねえヤツらだ。


「朽葉、お前は良い作戦ないのか? いっぱい頼める良い作戦」

「……ホームレスの人にあげたら? 喜んで食うだろ」


 別に自分らで食わんでも、たくさん注文すればそれだけで喜ぶだろうし。


「それだぁ!」

「ノーベル賞だぜ! お前ぇ!」


 ノーベル賞舐めんな。

 これはもしや博打をすると脳が退化するという、危ぶみたくなる現象ではないだろうか。まあ、退化しようがやめないけどな。


「で、金あんのか? あそこのたこ焼き高いだろ」

「まじめにバイトしてんだよ、俺らは」


 あっ、そうなんだ。いっそ不良なんかやめたらいいのに。


「もしもの時は烏丸に借りりゃいいからな」


 やめとけ、素足で顔を踏まれるぞ。トイチで金借りてまで、女の子に貢ぐな。

 しっかし有名なんだな、烏丸金融出張店。もしかしてこの学校には、俺以外にも被害者いっぱいいるんだろうか。


「よし! 行くぞ!」

「いいですとも!」


 たこ焼き屋ってそういうノリで行く店だっけ?


「行ってらっしゃい。お気をつけて」

「お前も行くんだよ!」


 なんでだよ! もう無駄金使いたくねえよ!

 俺らは敵だぞ? ギャンブルでしのぎを削り合うライバルだぞ?


「あの子の笑顔を引き出すにはお前がいるんだよ」


 過大評価ですよ、それは。俺にそんな効能とかご利益ないって。

 いいかお前ら? 節約しなきゃいけないんだよ、俺は。烏丸に暴利で金借りてんだからよ。節約しつつバイトに励んで金返さないと、多額の利息を支払うハメになる。場合によっては、また足を舐めさせられる。

 いや、もしかしたら今度は足じゃすまないかもしれない。あいつの性癖次第だが、とんでもない部位を舐めさせられるのでは……。

 足よりヤバい部位ってどこだろ? 菊……。


「おらっ、いくぞ!」

「来ねえと賭場出禁だぞ!」


 な、なんて横暴な! 学生からギャンブルを奪ったら何も残らねえだろ! 青春を人質にするなんて、人の心ねえのか!


「出禁にはできんぞ。その場合、センコーにチクるからな」


 どうよ? 不良といえど、センコーには逆らえまい。頭脳派の俺を敵にまわしてもいいことなんて……。


「その場合お前も道連れだぞ? 初めて賭場に来た時、同意書書いただろ?」


 あっ……そういやそうだった。トラブルを防ぐために書いたわ。

 くそっ、不良のくせに変なところマメなんだから。


「ったく……今回でラストだからな! 俺はあんな女、興味ねえんだよ」


 この不良共が無駄に金を落とすのは自由だ。いくら貢いだって、交際どころか連絡先の交換さえできないだろうけど、せいぜい金をドブに捨てればいいさ。でも、俺を巻き込むのは違うだろ?

 あーあ、また金が減ってくのか……。

 えっと……六百円使うとしたら……合計で二千百円の支出? 昼飯代が一回あたり六百円だから、四回我慢すればお釣りがくるな。三百円余るから、六本入りで百円のスティックパンでも買うか? えっと……二日に分けて食べるとして……一日五十円だから……。


「ボーっとすんな! 行くぞ!」


 まあ、いっか。チマチマ計算するのもめんどいし、ギャンブルで爆勝ちしよう。

 じゃあゲン担ぎってことで、今日は大量に買ってあげようかな。

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