第40話 入部の話 2
3
「失礼します」
「遅かったじゃないか」
紅が開いていたドアから声をかけて部屋に入ると、すぐに桜が答えた。中には桜だけでなく、1年の番長候補や何人かの先輩たち、あの日会った死天王たちもいた。
「先輩、これはどういうことですか?」
余計な事は言わずに、手紙を見せて用件だけを尋ねる。室内で雑談をしていた者たちが、何事かと一斉に紅を見た。
桜もこうなる事は分かっていたようで、特に悪びれる事もなく答える。
「どうって、そのままだよ。君に他の部活に入られたら困るんでね。悪いけど権力を使って邪魔させてもらったよ。ああアタシの名前で出したけど、これは番長連合幹部の総意だよ」
この手紙を見て内容は理解できるが理由がさっぱり分からない。もう蛇と戦う訳ではないし、自分や父の力は必要ないはずだ。自分が思ったよりもそっち方面で役に立つことはなんとなく理解できたが、それが必要になるとは思えない。あの蛇と百合が特別だっただけだ。
紅はため息を吐きながら問いかける。
「もう彼女の件は片付いたはずです。僕は必要ないでしょう。それにあの時だって僕はあいつをあそこから追い出しただけです。最終的に倒したのは先輩たちでしょう?」
死天王たちは知っているが、ここにいる他の生徒たちがあの夜の事を知っているとは思わなかったので、百合と蛇の事はぼかしながら話した。
そう言うとなぜか死天王たちは目を逸らす。
「?」
すると桜が、やや挙動不審に答える。
「え、えっと、まあ、だ、誰が倒したとかはどうでもいいじゃないか。要は君がいないとあの件が解決しなかったのは確かだ。そしてアタシたちにはできなかったという事も」
その桜の答えを聞いて、周りの生徒たちがざわめく。
「死天王の先輩たちにできなかった?」
「それをあいつが?」
不審そうな目で紅を見る生徒たち。その中で紫苑だけが腕を組んでなぜかドヤ顔でうんうんと頷いていた。
「それは……、それは確かにそうかも知れませんが、ここまでして僕の入部を邪魔する必要はないでしょう?」
自分の力ではなく姉や姫様たちに力を借りたとは言え、桜たちだけではどうにもならず自分が役にたったのは確かだ。微力ながら力になれた事は嬉しくはある。
だがそれを聞いた桜はそれを否定する。
「いいや、あるね。回りくどいのは無しだ。黒森くん、番長連合に入れ。アタシたちは君を必要としている」
珍しく桜は命令口調でそう言った。それは紅が初めて見る桜だった。会って数日だが紅から見た桜はちょっとシスコン(ちょっとか?)だが優しいお姉さんだった。だが今は命令する事に慣れた番長の桜だった。
だが紅としても命令されたからと言って、ハイ分かりました、とは言えない。どう考えても番長は自分の目指す普通の生徒ではない。自分は普通の部活に入りたいのだ。
「え、嫌ですけど?」
素直な気持ちを答えた。
その答えに周りもどよめく。
「あれ!?ここはちょっと悩みながらも、「わかりました、そこまで言うなら、」って言うところじゃないの?」
自分の予想と違った答えに困惑する桜。そんなこと言われても。
「そんな事言われても。嫌なものは嫌としか。他にやりたいこともありますし」
なぜそれで入ると思ったのか。
「むぅ、どこに入ろうと思ったんだい?」
「ジャズ研究部です。今までは一人で吹いてたんですけど。他の人ともやってみようと思って」
「ジャズ研?」
「先輩が言ったんじゃないですか、もっと多くの人と関わらなくちゃダメだ、って」
有海の家からの帰りに言われたことだ。
「あの時うちに入れって言ったじゃないか!そしたら考えとくって答えたろ!」
「考えてジャズ研にしたんです」
「あっ、確かジャズ研って女子しかいないとこじゃないか!そんなに彼女が欲しいのか!」
「彼女は今は関係ないでしょ!」
そこに横から焦った声がかかる。
「か、彼女!?おい、紅!どういう事だ!?」
紫苑だった。
だがそんな紫苑も無視して桜が提案する。
「そんなに彼女が欲しいなら、うちから紹介するから何人でも作ればいい。番長のほうが絶対モテるから!」
「桜先輩!?」
「だから彼女の話はいいですから!」
なんだか話が変な方に逸れだした時、別の所から声がかかる。
「先輩!どうしてそんな奴にそこまでするんですか!」
周りで見ていた生徒の一人だった。名前は分からないが同じ1年で確か1組の生徒だろう。
その声に全員がそちらを向く。何人かは同意するようにうなずいている。声には出していないが彼と同じ気持ちらしい。自分たちも勧誘されているが、ここまで熱烈に勧誘はされていない。よければこないか、と言うくらいだ。来なければ来ないでかまわない。その程度でしかない。志望したが拒否された者も多い。どちらかと言えば拒否された者の方が多いだろう。自分たちは彼女を紹介されてないからと言って、その事を怒っているのではないだろう。多分。
それを聞いて、桜がそちらを向いて答える。
「なに言ってるんだい?誰だって強いカードは欲しいだろう?星1つのキャラより星6つの方がいいだろう?」
みんなゲームやりすぎでは?
その答えにその男子生徒は困惑する。そりゃそうだ。
「カ、カード?星?」
その戸惑いは無視して質問する桜。
「君は迷宮探索のRPGはするかい?戦士ばっかりのパーティじゃ最初の戦闘は勝てても、ずっと奥まで進むことはできない。迷宮の奥に行くには戦士だけじゃなく、魔法使いに僧侶、罠を見つけ宝箱を開ける盗賊も必要なんだよ。今のうちには戦士と魔法使いと僧侶しかいないんだ」
古典的なRPGに例えて話す桜。
少し戸惑ったが言いたいことは分かった。
「そいつが盗賊と言う事ですか?」
言いたいことは分かるが、紅からすれば盗賊扱いはあまりいい気分ではない。
だが桜はそれを否定する。
「いいや。彼は戦えない盗賊じゃないよ。その上級職だよ。戦闘もできる忍者かな?戦士よりも強いかもよ?」
いたずらっぽく笑いながらそう言った。
それを聞いた男子生徒は怒りの声を上げた。
「そいつが俺たちよりも強いって言うんですか!?」
何人かの生徒も同じ様に立ち上がる。その全員が納得いっていないのは明らかだった。
(うわ~、めんどくさい、先輩なんて煽り方するんだ)
自分では何も言っていないのに、まるで自分が煽ったかのように敵視される。とんだ言いがかりだった。
それを見て桜たちもにやにやしている。
「どうかな~?」
その態度に男子生徒が紅を見て言い放つ。
「おい!お前、俺と勝負しろ!」
(やっぱり……、先輩たちこうなるのが分かっててやったな)
途中からこうなるのが読めていたが、それでも紅にこれを受ける義理はない。答えは決まっていた。
「え?嫌だけど?」
「なっ!?なんだと!ふざけるな!」
その答えに怒る男子生徒。むしろなぜこの流れでこれを受けると思うのだろうか。
「いや、ふざけるなって言われても、僕にメリットが何もない。君はどっちが強いか証明したいかも知れないけど、僕はどうでもいい。それにここに居る君たちは能力者だったり戦闘に特化してるんだろ?どう考えてもそっちの方が強い」
「逃げるのか!」
(だからそう言ってるのに……)
話が全く通じていない事にげんなりする。
「そうだそうだ~、逃げるのか~!」
楽しそうに死天王たちがヤジを飛ばす。
(腹立つなー、この先輩たち)
ヤジを飛ばす上級生を睨みつける。
だがそこに、迷惑極まりない援護射撃が入った。
「そんな事はない!紅は強いぞ!君たちよりも強い!私なんかその動きすら見えなかったくらいだ!紅!見せてやれ、あの目の前から消えるやつを!遠慮するな、やってやれ!」
紫苑だった。反対側から相手チームを応援するかのような空気の読めなさ。そして自分がどんなに重要な情報を公開したのかも理解せず。
「なっ!?馬鹿かお前!?なんて事言うんだ!あれは何も知らない相手に初見だから通じるんだよ!こんな戦闘経験のある相手に手の内を晒して通じる訳ないだろ!なに考えてるんだ!?」
さすがに温厚な紅も、このすさまじい足の引っ張り具合には驚き声を荒げる。動物や素人相手ならともかく、もうこれですくなくともここに居る者たちに縮地は通じないと考えなければならない。
そして、紫苑は「君」から「お前」扱いに格下げだった。
「え?あっ!?す、すまない!だ、だって、紅が彼らより弱いだなんて、そんな訳ないって思ったら、つい……」
自分のミスに気付きしょんぼりする紫苑。
(紫苑が目で追えない?目の前から消える……、幻仙の弟だけあって幻術か?いや)
(テレポートって事はさすがにないだろうしな)
(魔法でも超能力でもなく、消える、か)
(武術は使えるんやったな、なるほど)
紫苑のうかつな一言から推測する死天王たち。そして今までの情報から全員が同じ答えにたどり着く。
(縮地か。だとしたらかなり使えるな。知らなければ下手したら一発貰ってたかも)
縮地と言っても、彼らが知っているのは武術としての縮地で、おそらく仙術とは思っていないだろう。縮地といってもレベルは様々で近距離で消えた様に見える、からある程度の距離はほとんど無視するぐらいの化け物までいる。紅が使えるのは武術と仙術の組み合わせで仙人から見れば初心者程度だが、高校生レベルでは中~上級だが紅はそれを理解できていない。
自分を陥れようとしたわけではなく、純粋に自分を評価しようとしてくれたのは分かった。
(はぁ、まったくあいつは……。しょうがない受けるか。しかしどうするかな……)
少し考えて、紅をこの勝負を受けることにした。
「分かったよ。その勝負受けよう。でもそっちが勝負を吹っ掛けてきたんだから、勝負方法はこっちで決めさせてもらう。それでいいな?」
まわりの援護もあり、勝負できることになったので男子生徒はうなずく。
「お、おう。いいだろう。言ってみろ」
「じゃあ、今から72時間以内に威力の強弱は問わず、僕が君の体の正面に攻撃を当てる事ができれば僕の勝ち。できなければ君の勝ち。腕や足、背中への攻撃はカウントしない。僕が勝てば君は今後一切僕に関わらない。これでいいな?」
自分の決めた条件を受けると相手に認めさせたので、これ幸いと相手に考える暇を与えずに畳みかける。
「72時間!?ちょっと待て!3日間いつどこから襲ってくるか分からない攻撃を避けられる訳ないだろう!そんな条件飲めるか!」
相手はこのめちゃくちゃな条件に異を唱える。まあ普通に考えて当然だろう。 もちろん紅もこんな条件が受け入れられるとは思っていない。
「え~、なんだよ、受けるって言ったくせに。分かったよ。24時間でいいよ」
しぶしぶ妥協したかの様に条件を下げていく。
「ふざけるな!それでも長いわ!」
「じゃあ何時間ならいいんだよ?」
「せめて2時間くらいにしろ!何時間も付き合ってられるか!」
「別に付き合ってくれなくていいのに。分かったよ、じゃあ2時間でいいよ」
こっちが折れてやったとばかりにさも嫌そうにうなずく。
(2時間も相手してくれるつもりなのか。付き合いいいな。1時間でも長いくらいと思ったけど)
もともと紅の狙いは時間ではない。1時間でも長すぎるくらいである。絶対飲めないような過大な要求を突き付けて、そこに意識を集中させて他の条件から目を逸らすのが目的だった。
「おい、津田君、待つんだその条件は、」
横から一人の女子生徒が相手の男子生徒に声を掛けようとする。相手の名前が津田と言うのも初めて知った。どうやら彼女には紅の狙いが気づかれたようだ。だがここで邪魔されるわけにはいかない。紅は畳みかける。
「じゃあ時間は今から2時間以内で。その他の条件はさっきのままで。それでいいな?ここに居るみんなが証人だ」
「いいだろう」
やっと津田も納得する。
(よし!言質はとった)
ここで紅の目的はほぼ達成したと言っていい。無理な要求から譲歩したふりをして自分に有利な条件を引き出すことができた。思ったよりあっさり引っかかってくれて何かの罠かとも思ったが、どうもそうでもなさそうだ。これで少なくともまともに闘って殴り合いをする必要はなくなった。相手は能力者、情報はそれだけでどんな能力かも分からない。そんな相手とまともにやり合うなんてとんでもない話だ。
そして1番の目的。こっちが勝った時の条件は付けたが、相手が勝った時の条件は付けずに勝負に持ち込むことができた。これで負けたとしてもこっちの腹は痛まない。
(よし、それじゃさっさと終わらせるか)
紅はさも自然に相手の目の前まで歩いて行き、握手をするように右手を差し出す。
「それじゃよろしく」
相手もそれに釣られて何気なく手を差し出し握手する。
「ん?おお、よろしく。場所はどこにする?外に出るか?」
お互いに右手を握りながら、笑顔で紅がそれに答えた。
「ああ、大丈夫。ここでいいよ」
「ここで?こんな教室でいいのか?」
これから闘おうというのにこんな狭いところでいいのかと津田が問いかけるが、紅が答える。
「うん、すぐ終わるから」
「なに?」
訝し気な津田に、紅は右手は握手したままで友人の肩でも叩くように、左手で軽く拳を握りポンと胸を突いた。
「はい、僕の勝ち」
「は?」
何を言われたか分からない津田。
「「「ぎゃはははははは!!!!」」」
「う、ぷ、ぷ、ダメだ!あはははははは!!」
腹を抱えて大笑いする死天王たち。なんとかこらえようとした桜も我慢できずに笑いだす。
ここに至ってようやく理解した津田が、乱暴に握手を振りほどき怒鳴る。
「ふ、ふざけるな!!こんな勝負認められるか!正々堂々と闘え!」
どちらが強いかはっきりさせようとしていたのに、このだまし討ちのような決着。津田としてはこんなものが認められる訳はなかった。
「そうだそうだ!ちゃんと闘え、卑怯者!」
周りの1年たちもこのあっけない幕切れには納得いかず、抗議の声を上げる。
だが紅はそれに対し笑顔を消して真剣な顔で告げる。
「卑怯?どこが?お互い条件を確認して納得の上で勝負をした。威力の強弱は問わず、僕が君の体の正面に攻撃を当てる事ができれば僕の勝ち。君はそれを認めた。そして僕は2時間以内に攻撃を当てた。これのどこが卑怯なんだ?」
「ぐ、そ、それは……。だがこんな事で強さは分からない!俺はなんの攻撃もしていない!」
「そんな事言われても。なんでわざわざ相手の攻撃を受けなきゃいけないんだ?スポーツの試合じゃないんだ、攻撃される前に相手を倒すのは鉄則だろ。条件を飲んだのはそっちだ」
相手の拙い言い分を冷たく切り捨てる。
「せ、先輩たちも笑ってないでこいつに何とか言ってください!」
紅に嵌められたとは言え、条件を飲んだのは確かに自分だ。すがるような思いで死天王たちに声を掛ける。だが返って来たのは津田が期待したものではなかった。
「あ~笑った笑った。確かに条件通り。黒森くんの勝ちだ。津田、アタシは最初にちゃんとヒントもあげたはずだ。相手は戦士じゃないって。馬鹿正直に正面から殴り合いなんてするはずないだろう?戦士と魔法使いが殴り合いをするかい?魔法使いには魔法使いの、盗賊には盗賊の、忍者には忍者の戦い方がある。あれだけ条件を付けられて、何も考えずに勝負を受けた時点でお前の負けだ」
笑いすぎて出た涙を拭いながら桜が言った。
「そ、それは……」
津田はそれ以上何も言う事は出来なかった。
(こっちにはなんのヒントもくれなかったくせに)
桜の話を聞いた紅は桜を睨みつける。その視線に気づいた桜がペロッと舌を出してウインクしてきた。
(無理だろうけど一応言ってみるか……)
「それじゃあ、先輩。僕の勝ちということで、今後番長連合とは関わらない、という事でいいですね?あの通達も撤回してもらえますね?」
だがその紅の提案に死天王たちはにやにや笑いながら答える。
「おやおや、アタシたちはそんな約束はしてないはずだけど?今のは君と津田の勝負で、津田が今後君に関わらないという話だったろ?さすがにこの流れでそれに引っかかりはしないかな」
(さすがに無理があったか)
紅もこれが通じると思った訳ではない。通じればラッキーくらいのものだ。さてどうしたものかと思案していると、死天王の一人が声を掛ける。
「黒森。失敗したな。今ので余計お前を逃がしたくなくなった。どうもうちは搦め手に弱いのが多いからな。真正面からどつき合うのがほとんどでな。どうや、おれと闘っておれが勝ったら番長連合に入る、で?
そうだ、たしかお前にはこの前会ったけど、まだ名乗ってなかったな。死天王のリーダーの
蛇と闘った夜に初めて会って、一度も会話はしていなかった大柄な最期の死天王だった。
「「だれがリーダーじゃ!」」
「おい、石山ずるいぞ。オレに譲れ」
こちらは前に話したことがあるアニメTシャツの
どちらもお断りだった。
「嫌ですよ。なんですかその条件。詐欺じゃないですか」
「「「「お前が言うな」」」」
多くのツッコミを受けながらも紅は反論する。このまま黙っていたらいつの間にやら番長連合の一員にされそうだ。
「どう見ても実力が違いすぎます。話になりません」
「よし、じゃあ1年の誰かとならどうだ?」
「今やって僕が勝ったじゃないですか!」
「あれはお前と津田の勝負だ。お前と番長連合の話をしている。それとああいうひっかけじゃなくてお前の実力を見せてもらいたい」
「……」
どうやらどうあっても戦わずに逃がしてくれる気はなさそうだった。
「ふむ、黒森、実際のところ津田と闘ったら勝てそうか?」
石山が実に空気を読まない質問をぶつけてきた。本人のいない所でするならばまだしも。
紅を睨む津田を見て考える。
「……彼の能力は知りませんから、能力を使われたら分かりませんが、スポーツの試合をすれば彼が勝つと思います。格闘だけならおそらく」
はっきりとは言い切らずに言葉を濁して答える。
「こ、こいつ!」
その言葉にいきり立つ津田。まあ当然だった。しかし紅から見れば対峙して相手が自分より強いか弱いかくらいは判断できて当然の話だった。それが分からなければあっさり命を落とすだろうに。なぜそれが分からないんだ?紅を子供の時から鍛えてくれたのは主に父だが、その知り合いたちに会う事は多かった。それらが全員自分よりも明らかに強いのは肌で感じる事が出来た。
「ほう、津田は1年の中では5本の指に入るんだがなぁ。面白い。じゃあ剛毅。お前が相手をしろ」
石山はそう言って剛毅を指名する。
「ちょっと!待ってください!なんでもう闘うのが決定してるんですか!むちゃくちゃですよ!」
全く話が通じないことに抗議する。
だが石山は涼しい顔で
「ここまできてこのまま帰す訳なかろう?」
「やっとわしの出番か。待ちくたびれたわ。よろしくのう黒森」
やる気満々で拳を合わせながら前に出る剛毅。
「横暴ですよ!交野先輩もなんとか言ってくださいよ!」
だがそれに対し桜もしれっと答える。
「ん?番長なんて横暴に決まってるじゃないか。アタシも君が闘うの見たかったんだ」
(くそっ!なんだこいつら!全員頭おかしいのか!?)
ここまでくるとやっと逃げられないことを悟る。
「……分かりました。やりますよ。でも条件は付けさせてください。勝敗に関わらず、あのクラブに配った書類は撤回してください。僕犯罪者みたいじゃないですか。あと、僕が負けてもクラブ活動は認めてください」
死天王たちの方に条件を突きつける。
死天王たちはお互いに目を合わせてうなずく。そして代表して石山が答える。
「いいだろう。約束する。剛毅、お前はなにかあるか?」
「わしは戦えればええ」
先輩に対しても普通に答える剛毅。石山も気にしていないようだ。
「よし、じゃあ外にでるか」
ここでは狭いと判断し、全員で外に向かった。
その途中で紅は紫苑を呼び止める。
「おい、紫苑、ちょっと」
(もうこいつに敬語とか「さん」付けとか必要ないな)
先日までの、親友思いの真面目な女の子、というイメージは紅の中では完全に消えていた。尊敬する女の子から雑に扱っていい女にクラスチェンジしていた。格下げである。
「えっ!?呼び捨てなんて、そんな、急に……」
体をクネクネさせながら照れる紫苑。彼女の中では格上げされたらしい。
「いいからちょっと来い」
外に向かって歩きながら、紫苑の腕をつかみ自分の横に引き寄せる。
「あっ」
「巌流院くんてどうなんだ?」
その質問で紫苑も我に返り、まともな紫苑に戻る。
「うん、彼は強いよ。1年全員で何度か模擬戦をやって、まだ全員と闘った訳じゃないが多分1組の
「ふうん、どんな闘い方をする?」
「武器は使わない。単純に殴る蹴るだ。強いて言えば空手が近いかもしれないが喧嘩で鍛えた感じかな。あの巨体でとにかく動きが速い」
「なるほど……、わかった、ありがとう」
そう答えて黙り込む。
「役に立てたかな?」
遠慮がちに顔を伺う。
「え?ああ、うん、すごく」
「よかった」
本当に嬉しそうに紫苑は笑った。
(……いつもこうならいいのに)
その笑顔に見惚れそうになりながら紅は前を向いた。
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