第31話 幕間 3 男子会

 放課後の1年2組。

「男子、しゅ~ご~」

 青山 子規あおやま しきがクラスに呼びかける。なんだなんだと周りに集まる男子たち。

 

「なんだ?これから部活なんだけど」

 一人が声をあげると俺も俺もと声をそろえる。


「まあまあ、そんなに時間はかからんから。突然だがみんなクラスで気になる女子はいるか?」

「なんや、恋バナか。悪くはないけど、もうちょい時間あるときにやってくれよ」


「まあ、このクラスかわいい子が多いからな。ラッキーやったな」

「そうそう、俺も思ってた」

「う~ん、ちょっと怖いけど西矢さんかな」

「お、いいな。でも俺は委員長かな。あのおさげがたまらん」

「ま、マニアックな……。断然梅が枝さんやろ。高1とは思えんあの色っぽさがたまらん」

「「「異議なし」」」

 好き勝手に話し出す一同。男子高校生など女子の話をさせたら、どんどん妄想を垂れ流す生き物だった。


「ぶふぉ、愚かな。あんな脂肪のどこがいい?穂村さん一択でござろう」

 クラス一のイケメンと評される神宮寺じんぐうじ 朔太郎さくたろうが意見する。

(((こ、このロリコンが!)))



 そう、男子に人気の梅が枝さん。美人で性格もいいそんな彼女だが、クラスの他の女子よりも明らかに脂肪の多い部位があった。性格は慎ましいのだが、そのワガママボディはあまり慎ましくはないようだ。

 一部の例外はあるが、世の多くの女性には脂肪の多いおっさんよりも、シュッと引き締まった男の方が人気がある。

 同様に、脂肪の多い女性よりもシュッとした女性の方が人気があるのは当然と言えた。

 ちなみに関西では「いやぁ、シュッとしてはるねぇ」というのは誉め言葉である。


「佐取さんもかわいいよな」

「え?俺?」

「「「佐取さん!?」」」

「なんでいんの?」


「いや、なんでって。男子集合っていうから残ってたんだけど……」

 全員の視線に晒されて困惑する覚。


「う~ん、確かに男子、か?お、おい、そういえばお前着替えとか体育どうするんだ?」

「え?俺どこでもいいけど?」

「お、おう。そ、そうか。うん、そうだな。一緒でもいいよな!」

 うむうむとなぜか密かに喜ぶ数名の男子。いけない扉を開きそうだ。

 なお、この後紅に説得され別で着替える事になった。まあ、覚が分かっていてからかっただけなのだが。あと紅を睨む目がすごい。



 最初に話を切り出した子規がバンと机をたたく。

「そこだ!」


「どこだよ?」

 突然切れだす子規に周りがツッコむ。


「今名前の挙がった女子のほとんどを独占してるやつがいる。お前だ、黒森!」

 ビシッと紅を指差す。人を指差しちゃいけません。女子じゃないのも混ざっているが。


「え?僕?」

 突然のご指名に驚く紅。


「あ、俺も独占されてんの?」

 そんな覚も無視して子規は詰め寄る。

「なぜだ?なぜ入学早々一人で美少女チームを独占できるのだ!」


「いや、なぜって言われても……。たまたま穂村さんと知り合って、彼女が他の3人と仲良しだから一緒にご飯食べてるだけなんだけど……」


「お前、もしかして洗脳とか催眠の能力があるんじゃないか?」

 とんだ言いがかりである。


「お、おい白頭鷲イーグル、落ち着け」

 さすがにそれは言いがかりだと周りも止める。

「オレをイーグルと呼ぶな!」

 そう呼んだ男子にイーグルこと子規が反論する。


 イーグル。白頭鷲。入学早々彼に付けられたあだ名であった。そう、彼こそ入学初日に闇子にプロポーズ?して婚約者にされちゃった男子生徒であった。もちろんその名の由来は彼の白くなった頭にある。

 朝、家を出る時には茶髪だった息子の髪が、帰宅すると白髪になっているのを見たご両親の心境たるやどれほどの驚きだっただろうか。

 普通ならば学校にクレームどころでは済まない話だが、息子から内容を聞いた彼のご両親はクレームどころか闇子に謝罪の電話を入れたそうである。息子の躾がなっていないがために闇子に迷惑をかけてしまったとのことである。

 まあ、もしかしたら本当にそんなやばい女の婚約者にされることを恐れたからなのかも知れないが……。


「本当か?じゃあなんで暁野姉妹まで来るんだ?」

 さすがに洗脳までは言い過ぎたと思ったか、少しトーンと落とすイーグル。

 洗脳や催眠と言うのは、言葉としてはよく聞くが、実際に出会うことはほとんどないと言っていい能力である。まずその能力を持っていること自体が非常に稀である事。実際に洗脳するとなるとじっくりと時間をかけて行う必要があるし、また抵抗されることがほとんどで、会ってすぐに洗脳するなどほぼ不可能というのは一般的な共通認識であった。


「彼女たちは番長連合で交野先輩から相談事があるからって紹介されたんだ」

「おう、それは本当じゃ。番長連合みんなが知っとる」

 それまで話に入っていなかった剛毅が証言してくれる。男子集合と言われたものの、女子の好みの話題になり硬派として発言に困っていた剛毅だった。濃い見た目の割に影の薄い男である。


「む、そうか。それはすまなかった」

 意外と素直に謝れる男だった。


「だが!独り占めはよくない!で?誰だ?誰がお前の本命なんだ!?こっちだって甘酸っぱい高校生活を夢見てるんだ。さあ吐け!」

 そうだそうだとはやし立てる面々。


「ええ~」

(なんで百合組といい、こいつらといいこんなめんどくさいんだ?)


 まだそれほど親しくもないクラスの男子一同の前で、好みの女子を暴露しろと言う羞恥プレイ。もはやいじめの域であった。

 そもそも一緒にご飯を食べる間柄と言っても、有海以外は入学して知り合ったばかりでそれほど親しくもない。輪などは最初は敵意すら感じたほどである。まあ髪切りの件が片付いて、事情を知ってからは謝罪され一応落ち着きはしたのだが。

 しかし女子の好みと言っても、有海が自分に好意を持っているのはさすがに間違いないとは思うが、こちらとしては何と言うか、こう、かわいい妹というか懐いてくれる近所の子供と言う感じで、恋人にしたいと言う感じではない。どっかで聞いたような感想である。

 輪や桃香も未だクラスメイトという認識しかない。

 百合組に至っては全員美少女ではあるが、ポンコツと面倒ごとを運んでくる厄介な相手とすら思っている。できればもう関わりたくないくらいである。

傍から見ると贅沢な話かも知れないが、姉を見慣れている紅にとって、女子の顔は姉かそれ以下かという非常に失礼なくくりでしかない。せいぜい百合が姉に近いくらいだが、あのポンコツぶりを見てしまうとお付き合いを考えることはない。

 実際のところ紅は顔の造作よりも、性格や雰囲気を重要視する。実を言うと、まだ少ししか話した事はないが、クラスでは先ほど話題にでた梅が枝さんの雰囲気が気になっていた。 

 母親のいない紅は自分では意識していないが、なんとなく母親っぽい雰囲気に密かに惹かれる傾向があるようだ。そういう意味で闇子や雫はちょっと気になっているのだ。

 同級生から母性を感じられる梅が枝さん……。闇子は独身なのにな。

 紅も恋人は欲しいとは思っている健全な男子高校生なのだった。


 ここで一緒にご飯を食べる面々ではなく、梅が枝さんが、などと言ってしまえば更なる地獄絵図が待ち構えていることは想像に難くない。

 周りの男子たちの目つきを見ても、ここで答えずに逃げることはできないだろう。そこで仕方なく紅は口を開く。


「し、しいて言えば、……佐取くんが……」


「「「お、お前!?」」」


 驚愕と新たな疑惑が生まれた瞬間だった。

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