第30話 幕間 2 女子会
放課後の1年2組。
「穂村さんたち、もう帰った?」
「うん、さっき委員長たちと一緒に出て行ったよ」
「どしたん?クラスの女子を集める割に有海ちゃんたちはだめなん?」
集められた女子の一人がやや非難するように問いかける。
「いやいや、違う違う、逆、逆。穂村さんたちが心配なんよ」
「心配?」
「どゆこと?」
「みんな、このクラスに気になる男子おる?」
最初に話を始めた菫がみんなに問いかける。
「な~んや、恋バナか。それで何が心配なん?」
何事かと身構えていたが、話の内容に拍子抜けする。
「誰か気になる人がいるの?」
「協定でも結ぶつもり?」
当然ながらまだ気心の知れない間柄なため、みんなそう簡単には本心を明かさない。
「……彼、おかしいと思わん?」
だが、彼女は一人真面目な顔で周りに問いかける。
「彼?」
「……ああ、彼ね。うん、確かにおかしいね、巌流院くん」
「あっ、確かに。あれはおかしいわ」
わいわいと周りで話し出す。うん確かに、そうだそうだと相づちを打つ。
「あ、いや、確かに巌流院くんはおかしいけど、そうじゃなくて。いるでしょ、もっとおかしいのが!」
「え~、あれより?」
「そんなのいる?」
「誰だろ?」
「あっ、もしかして佐取くん?」
「あ、確かに。男子であの可愛さは確かにおかしい」
声をあげた女子に周りも賛同する。
「え?俺?」
「「「佐取くん!?」」」
「なんでいんの?」
「いや、なんでって。放課後女子は集まれっていうから残ってたんだけど……」
全員の視線に晒されて困惑する覚。
「う~ん、確かに女子、か?そういえば佐取くん体育とか着替えはどうするの?」
覚がここに居ることに女子たちも困惑しつつ確認する。
「ああ、さすがに俺が一緒だとまずいから、着替えは職員用を使う話になってる。体育は種目次第かな。記録を競う様なのは男子で、それ以外は女子かな」
「あ~、なるほど」
みんな案外あっさり話を受け入れて、ぺちゃくちゃと周りと話し出す。そしてひとしきり話し終わったなと言う頃に、
「違う!そうじゃない!」
最初に話を切り出した菫がバンと机をたたく。
みんな話を中断して彼女を見る。
「ちゃうねん。巌流院くんでも佐取くんでもなくて、おるやろ?ほら」
「え~、だれ?」
「そんなにおかしいのいた?」
「初日に高槻先生にからんでたチャラ男たち?」
「ああ、あいつらは確かに頭おかしいな」
みんなして好き勝手に話し出す。
そんな中、クラス一色っぽいと早くも男子たちから密かに注目されている
「もしかして、……黒森くん?」
やっと我が意を得たとばかりに肯定する。
「そう!その通り!」
「ああ~、そっちのおかしいか。頭おかしい方かと思ったわ」
「おいっ、俺が頭おかしいみたいな言い方すんなよ」
「あはは、ごめんごめん」
またもやおしゃべりが弾む。
「あらあら、でも黒森くんそんなにおかしいかしら?」
「おかしいよ!明らかにおかしいでしょ!なんで入学早々あんなに美少女に囲まれてんの?話の感じから穂村さんとはなんかあったっぽいから、まあ分からなくはないけど、なんで百合組の暁野姉妹まで来んの?姉のほうはともかく、あの男嫌いで堅物って有名な紫苑さんまで。それに百合姫まで会った事あるみたいじゃない」
「確かに。百合組って男子近づけないよね?暁野姉妹って百合姫の側近中の側近だよね?どうやって出会ったのかな?」
「せやな、紫苑さん完全にメスの顔してたな……」
「あ~、ショック。私紫苑さん憧れてたのに」
言われてみれば、とみんなそれぞれの感想を話し出す。
「……黒森くんってさ、もしかして洗脳とか催眠の能力者じゃないかな?」
菫が爆弾発言をする。
「まさか!」
「いくら何でもそれはないでしょ」
ざわざわと騒ぎ出す。
「あらあら、でも交野先輩も黒森君は能力は使えないって言ってたんじゃなかったかしら?」
「……確かにそうだけど、あの時の会話もなんか意味深じゃなかった?なにか隠し事があるみたいな」
「それは、……そうだけど……」
その意見にみんな否定できずに黙り込む。
「ねえ、だれか黒森くんと同じ中学いない?」
問いかけるがだれも返事をしない。
「誰も過去を知らない男子。怪しい。怪しすぎる。あんなおとなしそうな顔して……」
(あらあら、私は大丈夫だと思うんだけどなぁ)
「穂村さんってさ、今時珍しいくらい裏表ない良い子やん?同級生なのに言っちゃ悪いけど、なんて言うか、こう、かわいい弟というか、懐いてくれる近所の子供というか」
(妹じゃないんだ……)
「とにかく、あんないい子がケモノの毒牙にかかるのがうちは嫌やねん。男子高校生なんて性欲と唐揚げで体のほとんどが構成されてんねんから。みんなも絶対一人で黒森くんと会ったらあかんで!そんで穂村さんを護るんや、あの性の獣から」
「け、けものって、いくら何でも……」
性の獣、黒森紅誕生の瞬間だった。
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